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夕食会・午餐会感想レポート

平成28年11月夕食会「西洋名画の知られざる謎」

夕食会・午餐会感想レポート

11月10日夕食会

中野京子先生の講演「西洋名画の知られざる謎」、大変楽しく、自分自身の絵画の見方が今後大きく変わる予感を感じさせられました。

ドラクロアの「民衆を導く自由の女神」。その女神は、「自由」の擬人化。ジャンヌダルクのような女性兵士が革命軍を鼓舞し、戦場でリードする姿とばかり思っていました。

ルーベンスの「マリー・ド・メディシスのマルセイユ上陸」。アンリ4世と「商人のデブ娘」・マリーとの葛藤。そしてマリーとルーベンスの葛藤。凡人の生涯を神話の中にはめ込むなんて、現実世界を超越した構想力の大きさに驚きです。
ルノアールの「シャルパンティエ夫人とその子供たち」。「印象派」の命名や生い立ちなども興味深かったですが、3、4才までは男の子にも女の子の服を着せ、当時死亡率の高かった男の子を悪魔から守るため。昭和天皇もそうされていたと聞き、目から鱗です。

ブリューゲルの「絞首台の上のかささぎ」。時代背景と、かささぎの持つ象徴的意味合いを聞き、なるほどと思わず頷きました。時代はスペイン・パプスブルグ家によるオランダ圧政時代。異端、魔女狩り、重税。隣人による告発奨励。かささぎのまたの名は「告げ口鳥」って言うんですね。

ダビッドの「執務室のナポレオン」。女王蜂に群がる働き蜂を新生フランスに見立て、時計、蝋燭、ズボンの皺、羽ペン、プルターク英雄伝で人民のために朝まで働くナポレオンを描く。「私はもう3時間も眠るようになった」とは、こんな文脈で理解しないといけないんですね。

ドレイバーの「オデュッセウスとセイレーン」。絵は色んなことが描けるが、声や音は描けない。この不可能にチャレンジした絵とは画期的。モッサの「飽食のセイレーン」も含め、怖い絵の典型とか。来年の「怖い絵展」が楽しみ。女性は時として魔性の女とか、怖い者として描かれることがあるが、中野先生の講演はやさしい解説で、西洋画の奥深さに改めて感じ入ることができました。

こんな解説が日本の美術館の絵の傍に書かれていれば、もっと絵を楽しめるのにと思う次第。皆で美術館や文化庁に働き掛けましょう。

今夏、パリのオルセー美術館、ピカソ美術館、マルモッタン美術館を訪ねました。特に後二者はしっかりした解説付き展示。マルモッタンの「印象派と子供の時代」の解説は、子供が社会でどのように受け止められ、どう変遷してきたか、絵画を通じて洞察するもので、子供の死亡率の高かった時代、絵に描くことで子供の健康や長命を願ったとか。ピカソでは、アンドレマルロー文化大臣が絵画で相続税払いを初めて認め、これが絵画の散逸を防ぎ、広く一般公衆の鑑賞の対象となる美術館運営を可能にしたとか。果たして日本はどうなっているのでしょうか。

(東大・法 安村 幸夫)


講師は早稲田大学大学院修士課程を修了され、オペラ、美術などについて多くのエッセイを執筆し、『怖い絵』で注目され、新聞や雑誌に連載を持つほか、テレビの美術番組にも出演する作家で独文学者。

日本の四谷怪談のお岩さんの絵を見た外国人は、おそらく病気で醜い顔になった女の人がいて、足が無いからこの絵は未完成だと思うだろう。それと同じで、その国の文化や歴史を知らないと絵の本当の意味が分からないと先ず基本的なことを指摘される。7つの絵画をプロジェクターで映して各々の絵の謎解きをして戴いた。印象が強かったものを二、三紹介する。

ルーベンスの「マリー・ド・メディシスのマルセイユ上陸」の解説が面白い。ルーベンスは、何の功績もないが大金持ちの人から経歴を飾る絵を頼まれ、ギリシャ神話の神や、フランス、マルセイユの擬人等で飾り立てた絵を多数描き有名になる。この絵もその一つ。今までは裸の女性や関係のないいろいろな人物がいて、良く理解出来なかったが、この説明を聴いて納得。

ルノワールの「シャルパンティエ夫人と子供たち」は、可愛い姉妹の姿で有名だが、なんと妹の方は少女ではなく男の子だとのこと。女の子の方が男の子より丈夫なので、日本の皇室でも小さい時に男の子を女装させることがあったように女の子のように描いているとのこと。

ドレイバーの「オデュッセウスとセイレーン」。この絵はどちらかと言うと怖い絵である。オデュッセウス達がトロイ戦争から帰るときに美しい歌声で航行中の人を惑わし、遭難・難破させる怪物セイレーンに遭遇する。海に浸かっているときは人魚だが船に這い上がると人間の格好になる。耳に栓をしていれば難を逃れられるが、オデュッセウスは魅力的な声が聴きたくて自分の体をマストに縛りつけさせて聴いているが、我を忘れた表情をしているのが興味深い。
私は西洋絵画には全くの素人だが、講演を聴いて目から鱗が落ちる思いだった。これからは西洋絵画も興味深く鑑賞できるだろう。

講演後の質問の時に分かったことだが、講師は文藝春秋に「名画が語る西洋史」と言うカラーのページを毎号連載しているとのこと。何十年もこの雑誌を購読しているがカラー広告に紛れて全く気が付かなかった。帰宅後確認し、面白い記事であることが分かった。これからは毎号必ず見ることに決めた。

(東大・工 加藤 忠郎)