理事長挨拶
年頭のご挨拶
- 理事長 樺山紘一
新年おめでとうございます。学士会会員の皆様に謹んで慶賀のご挨拶を申しあげます。本年が皆様にとって、良き年となりますよう、心よりお祈り申しあげます。
長きにわたって、私たちを苦しませた新型コロナウイルス感染症に替わるかのように、それとは別の形で、世界の人々をさいなむ熾烈な争いが、一向に収束を見せません。ウクライナとパレスチナをめぐる国際的紛争は、現在も戦乱による荒廃と不安にまきこんでいます。
さて足元の学士会のほうは、これとは違った変革を目前に控えています。別途に詳細をご報告してきましたが、本拠とする学士会館の大規模な再開発の工事が、間もなくスタートしようとしています。それに伴って、今後数年間にわたって閉館と仮移転を余儀なくされます。会員の皆様に多大なご不便・ご迷惑をおかけすることになります。将来を見越した計画として、宜しくご寛恕のほど、お願い申しあげます。
この時点で改めて述べるのも憚られますが、目前に迫っている再開発の理念と目標について、ごく簡潔に整理してみます。いささかの私見も含んでいることを、ご了解いただけるでしょうか。要点は3つあります。
第1には、文化財としての歴史遺産である会館を守ることです。1928年に、建築家・高橋貞太郎によって設計・建設された旧館部分を曳家移動して、再開発ビルの正面に据え、シンボルとして保存します。ただ、保存するだけではなく、日常的に建造物として有意義に利用することがポイントです。かねて学士会館は、ハイクラスの集会所として優越を誇ったものです。この建物を神田・一ツ橋の都市景観の焦点のひとつとして、シンボル的役割を果たし続けたいと考えます。新しい高層の再開発ビルは、この街づくり機能の枢軸として、生まれ変わると信じています。これは都市空間についての現代的発想ではないでしょうか。
第2には、今回の増改築で、隣接する事業者との共同開発による高層ビルとなりますが、現代の諸方策を駆使して、従来の会館の面目を一新させます。百年を経過したビルの老朽化による不安や不便を解消し、建物としての安全と安心を保全します。ことに会館としての大切な機能である集会・会合用施設の拡張や充実を図ります。デジタル機器・機能の整備や増強が、これを機会に可能になるはずです。小手先の改善では不可能な構造的改編によって、めざましい活動の場が誕生すると思います。歴史的建造物を、現代的手法によって甦らせる発想と言ったらよいでしょうか。
第3に最後にですが、今回の共同再開発によって、学士会の財政的運営に安定が見通せるようになります。学士会としての所有地を原資とすることで、財政的にも余裕が生まれるからです。共同開発事業者(住友商事(株))等のご理解・協力をえて、収益の確保・改善が可能になります。諸物価の高騰といった深刻な問題も山積していますが、組織としての運営の安定を目指します。再開発事業にはさまざまな困難も伴いますが、会員の皆様のご支援をえて、学士会の発展を図りたいと念じています。
以上、学士会館の再開発の出発に当たって、その趣旨について述べてきました。会員の皆様のご理解を切にお願いするものです。
(東京大学名誉教授・東大・文修・文・昭40)
※『學士會会報』970号(令和7年1月発行)「年頭のご挨拶」を掲載しています