夕食会・午餐会感想レポート
2022年9月夕食会「北条義時が生きた時代 ―義時とはどんな人物だったのか―」
夕食会・午餐会感想レポート
9月9日夕食会
今回の講演は、坂井孝一先生が今年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の時代考証を担当して経験されたこと、そしてこのドラマの主人公である北条義時の生きた時代、特に節目となる重要なできごとについてのお話で、このドラマを毎週欠かさず見ている私にはたいへん興味深い内容でした。
最初NHKから時代考証の依頼があったときは、あまりに突然のことですぐ返答できず、家族会議まで開いたとのことですが、いざ引き受けてドラマの制作に関わり始めてからは、史料からはわからない人間の感情、性格などを推理したり、新しい視点や解釈を取り入れたりして、今ではすっかり時代考証の仕事を楽しんでおられるように感じられました。
坂井先生によると、歴史学は文字で記された史料の世界をそのまま2次元の世界として理解するのに対して、ドラマは、史料上の人物を生身の人間に変換した3次元の世界です。史料上ではどこで何をしていたのかわからない人物がいたり、真相が不明なできごとが起きたりもします。そういった、いわば歴史上の謎や空白を、脚本家との打ち合わせを通して、史実との整合性を失うことなくドラマとしてどう構築していくか、そこに歴史の専門家が時代考証を務める意義があるように感じました。
たとえば、本ドラマでは、源頼朝の最初の妻であった八重がのちに北条義時の妻になりましたが、これには坂井先生の説が採用されています。八重が義時の最初の妻で泰時の母であることについて、坂井先生はご著書「鎌倉殿と執権北条氏」の中ですでにこれを「大胆な仮説」として提示されておられますが、仕上がったドラマを見て私は何ら違和感なく受け入れることができました。
もっとも、時には脚本家がストーリーを盛り上げるためにわざと大げさな場面を入れようとするなどして、意見がまとまらないようなこともあったのではないでしょうか。そう考えると、時代考証という仕事は、単に歴史的な観点からの厳密なチェックだけでなく、まったくの創作もある程度は受け入れるという柔軟さが必要なのでしょう。
ドラマはこれからいよいよ終盤へとさしかかり、今後の展開はもちろん、有名な歴史的事件がどう描かれるか、たいへん気になるところです。坂井先生には今後も歴史ドラマの時代考証や一般読者向けの著作を通して、より多くの人に歴史のおもしろさを伝えていただくことを期待したいと思います。
(京大・文 奥田正信)