文字サイズ
背景色変更

夕食会・午餐会感想レポート

2023年3月午餐会「映画字幕の世界」

夕食会・午餐会感想レポート

3月20日午餐会

『タイタニック』、『スター・ウォーズ』、『パイレーツ・オブ・カリビアン』といった超大作の翻訳を手がけている「字幕屋さん」戸田奈津子氏の講演は非常に興味があったので、先着順ということで直ぐに申し込んだ。

外国は殆どがアテレコ、いわゆる吹替えだが、映画の字幕は日本だけとのこと。識字率が高いから。しかも漢字だと瞬時に読めることも影響しているのだろう。当初トーキーの映画が日本に輸入された頃アメリカで日本人を使って吹替えをしたところ、広島出身の人が多かったので広島弁になってしまったという本当にあった笑い話のようなことがあったとか。

最近は日本でも若い人の国語力が落ちたせいか、吹替えが増えて来た。日本人が書かれた日本語から離れることは残念なこと。若い人に日本語の素晴らしさを教えてあげたい、と仰っていた。(質疑応答の時に戸田さんも仰っていたが)英語では「雨」はrainとかshower位しかないが日本語では「雨」を表現する言葉は何十とあり、奥が深い。

字幕は全訳していない。全訳していたら何行にも亙ってしまう。字幕は瞬時に分かるように縮めている。その点日本語の漢字は非常に効果的。字幕は俳優が喋り始めてから現れ、喋り終わったら消えなくてはならない。3~4文字/秒が限界。「字幕屋」は英語に相当に堪能だと思われるが、実際は英語が2割、日本語が8割。大事なのは8割の日本語が勝負所。”I thought you have gone.”を「貴方は行ってしまったと思っていました」なんて訳していたら、とてもじゃないが収まらない。「まだいたの」でちゃんと収まる。

また文化の違いも大きい。喜びとか悲しみは万国共通だが、笑いは文化が違うと何故おかしいのか分からない。「お巡りさんですか?」、「アイルランド人に見えますか」と言う会話は、アイルランドが大飢饉のときに多くのアイルランド人がアメリカに移って来て、警官になる者も多かったということを知らなければ分からない。

映画『007』で、ジェームズ・ボンドに本部から「状況はどうなっている」と電話がかかって来た時にボンドの周りにはギャングの死体が沢山転がっていた。”dead end”(行き詰っている)と冗談気味に言った時、戸田さんは「脈が無い」と訳したとのこと。流石だ。

戸田さんは戦後日本が未だ瓦礫が残っていた頃、小学生の時に洋画を見てカルチャーショックを受け、それから映画が病みつきになったとのこと。大学を出てからこの仕事をやりたくて仕方がなかったが、大学を出て間もない女の子を受け入れてくれる訳がなく、この道に入れたのは20年経ってからのこと。

転機となったのは昭和51年、『地獄の黙示録』を撮影中のフランシス・フォード・コッポラ監督の来日時の通訳およびガイドを務めたこと、とのこと。その後コッポラ監督の推薦により日本語字幕を担当、この仕事で字幕翻訳家と広く認められるようになった。

(東大・工 加藤忠郎)