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夕食会・午餐会感想レポート

2021年12月夕食会「科学技術と共に実現するインクルーシブな未来社会に向けて」

夕食会・午餐会感想レポート

12月10日夕食会

IBMフェローの浅川智恵子さんについてはこの夕食会まで全く知らなかった。

聴き終わってスゴイ人だ、と思った。また、勤められた会社、IBMの懐の広さを感じた。中学の時のプールの事故で失明された由。よくぞ奈落の底までの落ちた絶望を克服して立ち直られたと思う。大学を卒業後IBMに入社され、盲人の役に立つソフト、機器を研究開発され、日本のみならず世界の国々におられる盲人の利便の向上に資する仕事をされた。発明された数々の業績でアメリカの発明家殿堂入りをされている。

映像の中でさりげなく伝えておられたが、家庭を持ち、娘さん二人を育てておられる。東大の大学院に学び、博士号も取得。仕事と家庭とを両立されて来られたようだ。主婦としてスマホからレシピを音声で聞きながら家族のために料理をされている姿を披露されていた。まな板で人参を上手に切られている姿を見た。また、アメリカ、カーネギーメロン大学に留学され、研鑽されている。晴眼の人でも家庭、子育て、仕事に加え、社会人になってからの大学院進学、博士号取得は容易なことではない。それを目が不自由なハンデイキャップにもかかわらず、仕事をやり遂げる人間力には感服した。実用的な音声webを活用され、ホームページリーダーなどを盲人の利便のために開発に研鑽されたのは、見事だ。地図と音声による道案内のナビゲーションは盲人が社会に独り立ちして出ていくための大切な道具となっている。盲導犬の代わりになる道具だ。AIスーツケースはその後の進化の姿を見せている。正に必要は発明の母。目の不自由な浅川さんの発想とそれを具体化するIT技術、機器の小型化、軽量化などが相まって盲人の世界に変化をもたらし行動力の範囲を広げている。また、盲人は耳の能力を磨き上げているようで、音声の2倍速、4倍速でも聴きとれる姿には感心した。私にはチンプンカンプン。全く聴き取れない。

浅川さんはこのたび日本科学未来館の館長に就任されたとのこと。更なるご活躍を期待したい。

(東大・経 北 修爾)


浅川さん お久しぶりです。私は通商産業省(現在の経済産業省)で28年働いた後、縁あって日本IBMに入社し、1997年から2005年までの8年間ボード・メンバーをつとめていました。その間は勤務場所は違っても浅川さんと同僚だったわけですね。入社してすぐの社内研修の場で、当時、新進気鋭のSEだった浅川さんのチームが開発したばかりの「ホームページ・リーダー」という、目の見えない人のためにネット画面に書かれている文字を合成音声で読み上げるソフトウエアの発表会を拝見する機会がありました。普通の速度の数倍の猛烈なスピードで画面を読みあげる電子音を聞いて、あっけにとられましたが、利用する側にとってはこれぐらいの速さがちょうどいいのだと聞き、目の見えない人にとっては情報を音声で得ることがいかに切実なことであるか理解できて、感動したことを憶えています。

あの当時から四半世紀を経て、その後の浅川さんが心血を注いでこられた「リアル・ワールド・アクセシビリティ―」というテーマで、今回、講演して頂いたわけですが、その内容は、当時に比べても長足の進歩をありありと示される驚くべきものだと思いました。

東大で博士号を取り、IBMフェローとなり、ナッシュやルーカスも居たあのカーネギー・メロン大学で教授までこなされたとは、超人としか思えません。しかもそのかたわら娘さん二人を育てられるとは!

また、目の見えない人が自分の意思で行動することを支援する「AIスーツケース・プロジェクト」は、盲導犬のかわりに認識支援ソフトなどのIT技術を駆使して、目の見えない人が自立して自信をもって行動できる範囲を拡げていく上でおおきな力となる極めて重要な手段だということがよく分かりました。”Leaving no one behind.”をモットーにしながら、AIスーツケースの社会実装に取り組んでおられる姿は、浅川さんの生き方そのものを体現しておられると思いました。目の見えない人がこれらの機器を使って、「高齢になってからも、ディズニーランドに行きたい。」と言う人が多いと聞くと、このプロジェクトの完成を切実に祈らずにはいられません。完成の暁には、「この機器を使って、ただ何となく散歩を楽しんでみたい。」というユーザー・コメントには、泣かされましたよ。

浅川さんはこのたび日本科学未来館の館長に就任されたそうですね。今後のいっそうのご活躍を期待しております。

(東大・法 野口宣也)