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夕食会・午餐会感想レポート

2021年11月午餐会「日本外交の課題」

夕食会・午餐会感想レポート

11月22日午餐会

講師自ら仰有っておられたとおり大変間口の広いなんでもありのお話で感想レポートではとてもカバーしきれないので、中国・台湾と韓国問題に限って感想を述べたい。

中国であるが私は最近中国と呼ぶことに少し疑問を感じている。中華の国という言い方には価値観が含まれている。英語のチャイナは秦からロシア語のキターイは契丹から来ている。漢字文化圏の我々が中華の国と呼ばされるのは華夷秩序の強要ではないかとさえ思う。つまり日本は自分を東夷と認めていることになる。私は旧植民地の関東州大連で生まれ育ったので70年以上に亘り中国を観察してきているが、この国の人々の最大の問題は「程々に」という言葉が通じないことである。習近平の挙動についてもそう思うがほどほどにすれば倒されてしまうからなのかも知れない。特に問題なのは国際法を無視して南沙群島を占拠していることである。これは福田赳夫首相の時に締結された日中平和友好条約の覇権条項に違反しないのだろうかといつも思う。

次に台湾であるが台湾が日本に友好的なのは歴史的な背景がある。戦前では八田與一が灌漑水利を行なって南部を穀倉地帯にした。植民地統治を礼賛するものではないが今でも八田與一は尊敬されて神社まで残っている。また、戦後では中共軍に台湾に追われた国民政府軍の再建に旧軍人の根本博元中将や富田亮元少将らが密航までして協力した。このようなことがあって台湾は日本に友好的なのである。

そこで問題なのは習近平政権が台湾に武力侵攻した時日本はどうすればよいか。中国にとって台湾は「核心的利益」ならば日本とって台湾はちょっと古い表現だが「日本の生命線」であると思う。単純な武力侵攻ではなく、特務を潜入させて内部破壊が一番あり得ると思うが、武力侵攻もあり得るので講演で述べられた通り「台湾の現状を変更しようとすれば中国もひどい目に遭う」ということを相手に認識させることが大切という話はまことに納得のゆくもの思った。

次に韓国であるが政府の立場から離れられたのでズバリ、ゴールポストを動かすような国に甘いことを言ってはいけないと言われたことに大変感銘を受けた。在任中は言いたくても言えなかったお気持ちがよくわかった。

(東大・理 京極浩史)


外交の要職にあった方の講演としては2019年3月に田中均氏が「外交から見た平成という時代」の演題で30年間の外交問題に関する様々な思いを伝えられ、重く受け止めたものであったが、今回、現在の課題の経緯と所見とを講師が手際良く平易・明快・前向きに説明されたのは、同じく樽俎折衝の豊富な経験者ならばこそと感じた。

一つ一つの事項が相関連して心に染み渡るようにひびいたのは単に米国や中国での滞在経験があり事情に通じている方々のみならず、憂国の思いを抱く方々であったに相違ない。40年前、前回の歴史決議が出た頃に小生は中国にいたが、控えめであった当時の中国と、「戦狼外交」をほしいままにする今の中国とは別物にも見える。

中国は外交の場で小国に対し上から目線で「小国の分際で」といったあらわな態度を示すとの指摘があったが、中国にとって米露以外は皆小国であり、これは昔も今も変わりなく一貫した中国および中国人民のいつわらざる態度であり、日本が「米中の対立の中で生きて行く」ことを模索するのは容易なことではないとつくづく思う。

他方、日本主導のインド太平洋構想やTPPでの重要な役割等を通じて、日本の立ち位置として「超大国ではなくつましい国でもなく、主要国の一つとして生きる」ことや、台湾問題についても戦闘行為はないと想定した上で米軍の兵站基地としての役割を日本が果たすことが大切だとする講師の指摘は現実的・合理的で御尤もである。

韓国との間の諸問題については、国際的には日本は十分対応して来ている、次期政権が保守政権となったとしても対日関係は良くならないという所見もまたその通りであると思う。幾つかの事例が示す通り、外交は目に見える形で決着せずとも時間が解決するという粘り強い待ちの姿勢が奏功するのは言わずもがなのことである。

北方領土問題については、交渉当時要職にあった講師の発言が取り上げられ、交渉進展を妨げたという報道が以前にあったが、小生は甚だ疑問に感じていた。ロシアにはそもそも返還の意思はないようであり、これもまた永遠の課題として残るのは間違いない。今に至った経緯を考えれば外交当局は十二分に努力したものと考える。

台湾有事の際の対応に関する質疑については、日米が共に抑止する方向ではあるが、いざ起きた時に如何するのかは別問題とする見解であった。米中台関係の調停者としての役割を日本が実際に果たせるかは日本政府の外交力と共に日本国民の意識の盛り上がりが最も重要である。講師の今後の助言・啓蒙活動に期待する次第である。

(東大・法 古川 宏)


第2次安倍内閣で5年間国家安全保障局長と内閣特別顧問を務められた谷内正太郎氏の「日本外交の課題」と題した講演を興味深く聞かせていただきました。明治以降いつの時代も、国際社会の中で日本の立ち位置はいかにあるべきかを真剣に模索してきたと思うが、谷内氏は、国家安全保障会議の初代国家安全保障局長としての立場で、安全保障や外交政策の中枢で黒子として活躍されました。その業績に敬意を表します。

米中の覇権争いが激化する中で、各国とも、経済発展と国民生活の安定と安心を確保するために腐心している。日本は、今後の少子高齢化の進展の中で、GDPはじめとした国際的地位の低下が避けられない情勢だ。今後も世界の中で確固たる立場を築き、各国と連携して、現在人類が直面している地球温暖化、格差拡大・移民問題や新型コロナウイルス感染症を克服し、国民の生活と暮らしを守っていくには、戦略と確固たる意志が必要だと思う。今後超大国にはなれないし、望む必要もないと思う。ただ国際社会の中で、各国と連携して正しく生きていこうと思えば、力が必要である。経済力、それなりの軍事力、科学技術力、文化力、そしてそれら以上に国家としてまた国民の道徳力である。それらを国力として思い切って世界に向かって発信していくことが求められているのではないか。世界から日本が求められているものは何かを自らにもう一度問い直してみる必要がある。その答えは日本の強みを生かして人類の課題に果敢にチャレンジし、形として貢献していくことではないか。それが国民の誇りとなり力となり、国内問題の解決にも近づき、さらなる発展につながるのではないか。

最後に第2次安倍内閣は、8年近く続いた長期政権の中で、日本の国際的地位向上に貢献したといわれているが、隣国であるロシア、韓国、北朝鮮、中国との関係は、大きな課題を抱えたままである。また国内では公文書管理、デジタル化の遅れ、危機管理の惰弱さなど政治不信につながる大きな問題を残したのは残念である。人間が行う政治というものがいかに困難なものかに常に直面するが、政府に関わる人も、そうでない国民も諦めては絶対にいけないし、子孫のために諦められないのである。

(北大・教育 牛島康明)