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夕食会・午餐会感想レポート

2020年11月夕食会「『平常への復帰』?―大統領選挙後の米国政治と日米関係の行方」

夕食会・午餐会感想レポート

11月10日夕食会

4年前の久保氏の講演を思い出しながら、今回の講演を聞かせていただきました。

ラストベルトで象徴される貧しい白人たちの期待を担って大統領に就任したトランプ氏は今回の選挙では、そのラストベルトで敗北を重ねた。政治経験がなく、荒荒しい言葉が目立った人物を、大統領に選んだアメリカ国民は、この4年間のアメリカ国内や諸外国との関係においてのあまりの騒々しさに、さすがにこれではまずいと感じ、バイデン氏を選んだというより、トランプではないからという理由で、バイデン氏が多数を得た選挙結果であったと思う。トランプ氏からは、世界のリーダーとしての品性と良識を感じられることはなかった。就任以来、歴代大統領の中でも低支持率が目立ったトランプ氏は、最後まで支持層を広げることはできなかった。さらにトランプ教の信者とすら思える市民たちが武装した姿の異常さに驚くのは私だけではないと思う。トランプ氏のいうGREAT AMERICAとは何を目指したのか。結局、富の一層の偏在を招き超富裕層に利するものとなったのではないか。

一方の超大国である、中国の習近平氏が目指す偉大な中国は、いたるところで混乱と軋轢を生じさせている。超大国を率いることの困難さは、米中ともに同じだろうが、やはり基本は、人類にとって、そして自国の国民にとって幸せな状態をいかに継続できるかという道を模索していくことだろうと思う。バイデン氏が国民に訴える「世界の模範となる」「再び尊敬されるアメリカになる」という言葉を信じたい。

久保氏の話は、今後の日米関係にも及んだ。日本は、米国との関係の緊密さを保つと同時にお互いの事情を理解しあった上で、先進国として世界的視野に立った上で、言うべきことは言うという態度を貫いて欲しい。

バイデン氏が大統領になっても、米国の中国に対する態度が、急に変わるとは思えない。中国は、新型コロナ対応への支援を通じてイタリアなどにも手を伸ばしている。アメリカ、欧州、インド、オーストラリア、東南アジア諸国、日本、それぞれの事情は交錯しているが、国連中心の国際協調と法の秩序を守るという基本認識を常に確認しあい、中国の覇権主義に対抗してもらいたい。そして中国の態度を少しでも変容させる努力を続けてもらいたい。最後に、民主主義を求める台湾国民を支援する輪を、アメリカを中心にして国際的に一層強めることは、日本の国土防衛にも利するものだと思う。

(北大・教育 牛島康明)


米国大統領選挙投票直後の講演で誠に時宜を得た講演だった。講師はなんと米国大統領選挙後の学士会の講演は今回で三回目とのこと。トランプ大統領は民主党の不正選挙を裁判に訴えるとし、敗戦を認めてはいないので正式にバイデン候補が勝利したわけではないが、大手マスコミがバイデン当確を報道しており、講師もそれを前提として講演をされた。

始めにトランプ政権の特徴をいくつか挙げられた。トランプ大統領の支持者は一貫性を維持しており、世論調査の支持率の最高値が歴代の大統領に比べると最低だが、支持率の最低値は大きく下がらず、最高値と最低値の間隔が歴代の大統領の中では一番狭い。次にオバマ、バイデンと比べてウソが多いとのこと(Politifact)。大言壮語のきらいはあるのでそうかもしれないが、反トランプのマスコミとの相性も影響しているのではないかと思った。更に政権の成果と挫折の紹介があり、結構多くの成果が紹介された。

4年前の選挙との比較で興味深いことがいろいろ紹介された。4年前の選挙の世論調査ではクリントン圧勝としていたのが大外れの結果となり、調査会社は「白人高学歴投票率の過大評価の修正」と「白人低学歴投票率の過小評価の修正」を行ったが、今回もバイデン圧勝の予測にもかかわらず、接戦となったのは修正が完璧でなかったことになる。また、バイデンの印象が薄いせいからかもしれないが、クリントンに比べてバイデンは余り嫌われていない。民主党支持者、共和党支持者、無党派いずれの投票者もバイデンよりクリントンを嫌っている。今回バイデンに投票した人の投票理由が「彼がトランプではない」と言うのが全体の56%を占めているのに対して、トランプに投票した人の投票理由のトップが「リーダーシップ/パーフォーマンス」の23%で、「彼がバイデンではない」と言うのは3番目で19%だった。民主党支持者はコロナ対策を最優先にしているのに対して、共和党支持者および無党派は経済を最優先にしている。

2008年のオバマ大統領当選から今回迄の4回の大統領選挙に関しての性別、人種、教育、年齢、世帯の年収、宗教毎の投票率、またそれらの組合せ毎の投票率と言う誠に興味深いデーターも紹介されており、資料が配布されているので、帰宅後熱心に見ていくとはまってしまう人が多いのではないか。

しかし何といっても一番関心があるのは、バイデンの勝利が確定したとして、日米関係など日本にとって関係のある政策に関しての彼の行動である。民主党の政策綱領を見ると、中国に対して対抗していくと書かれている反面、協力の姿勢も示している。中国に過度に協調的・協力的にならないか?軍事的に対峙する意思はあるか?南シナ海、東シナ海での対応は?中国に対する制裁は単に解除するだけ?具体的には尖閣諸島や台湾に対して中国が何らかの行動を取ったとき、米国はどう対応してくれるのかなどである。

(東大・工 加藤忠郎)


大方の予想に反しトランプ政権が誕生した4年前の講演「アメリカ新大統領と今後の日米関係」でもそうであったように、バイデン勝利後にトランプの敗北宣言がないという状況の中での今回講演もデータ重視の頗るバランスのとれた内容という印象を強く受けた。

先ず、歴代大統領の支持率に関する2019年のデータで最高・最低の支持率の差ではトランプが最も小さいことが紹介された。これが事前の世論調査の数字以上に善戦した理由の一つである一方、トランプがメディアの批判に抗し得なかった背景なのかも知れない。

<トランプ政権の成果と挫折>は成果が外交面であるのに対し挫折が内政面に偏っているのが特徴的であるが、前者が常識と懸け離れた異能・偉才により発揮され、後者が「品の良さ」の欠如の故に、仮に卓見であったとしても実現不能であったということであろう。

<2016年選挙との違い>では、今回世論調査の補正によりメディアの信用・正確度が増し、やや面目を施したように感じている。また、トランプの<前例・慣行の破棄あるいは無視>が、現職再選という強みを阻み、バイデンの「嫌われ度」減につながったのは言う迄もない。

<バイデン政権下の日米関係?>では、不変の日米関係を踏まえ、対中政策に変化があるのではないか、「歴史問題、ジェンダー/LGBT問題等に敏感」というところに日韓関係の悪化や国内における様々な人権問題の噴出ということにつながらないかが不安の種である。

<民主党政権で起こる政策的な変化>が上院での獲得議席数の落着にかかわらず、一定の制約要因があるのは勿論のことである。願わくば連続性のある、安定した政権運営となってほしいものである。今でも米国に指導力を期待する諸国が望むところであるに相違ない。

トランプの今後の出方につき質疑応答はなかったが、トランプとそのフォロワーを注視したいとの理事長のまとめのお話に尽きていた。

尚、TIME最新号(11月2・9日合併号)P.30~35に投票Q&Aの記事があった。郵便投票もまた<バイデンの勝因>に加えられるべきである。

(東大・法 古川 宏)


11月午後の久保先生の夕食会「『平常への復帰』?-大統領選挙後の米国政治と日米関係の行方」は、米国大統領選の開票結果がほぼ出揃ったタイミングで実施され、大変タイムリーな時期であり、参加された方々の関心もピークに達していたと思います。

全体としてはトランプ政権についての考察と今回の選挙結果の分析、そしてバイデン政権の変化の3つの側面にあると理解しています。

トランプ政権の分析では、前例と慣行の破棄あるいは無視など米国政治の中でのトランプ大統領の政治手法の異例さを指摘いただき、あらためてその特異さをよく理解しました。

そして今回の講演のハイライトは選挙結果の分析です。選挙民を非常に細かい階層、収入のレベル、人種などの分類に分けて前回2016年の選挙結果と比較分析した細かいデータを活用し、バイデン氏が勝利した理由を浮かび上がらせていただいたことだと考えます。バイデン氏の勝因についてはいま日本のマスコミでも様々な解説がありますが、私たち久保先生の講演の参加者が自分たちで考え納得できる資料をご提供いただいた点が今回の講演会で最も有意義であり、印象的であったことの一つと信じます。

バイデン政権の今後予想される政策の変化についても相当細かくご指摘いただいたことが貴重な材料です。

久保先生には是非今後、日本の新しい菅政権の政治の分析についても学士会の夕食会でご講演いただきたいと願っております。

(東大・法 小暮圭一)