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夕食会・午餐会感想レポート

平成29年11月夕食会「中国・北朝鮮情勢と日本の外交」

夕食会・午餐会感想レポート

11月10日夕食会

宮家邦彦氏は、論点を6項目に分けて的確に論評されたが、聴き終わって、特に印象に残ったのは、真空地帯に勢力変化が生じるという点であった。

アチソンラインによる朝鮮戦争、米軍の撤退による南シナ海問題がその顕著な例である。現在、朝鮮半島を巡り、中国、米国、ロシアが鬩ぎあっており、そのなかで、北朝鮮は核爆弾と、ICBMを保有するとして威嚇を続けながら、米国との対等の交渉力を獲得しようとしている。

アメリカ側は、北朝鮮の核開発の断念放棄を目的として、経済制裁を強化しているが、宮家氏の感想は、経済制裁以上、武力行使未満が理想であるが実行は難しく、その間に北朝鮮は核とミサイルを完成させ、日本にとって最悪の核を片手の恫喝外交が開始される懸念が強い、ということであった。

中国とロシアは、緩衝地帯としての朝鮮を念頭に外交を展開しており、経済制裁については手心を加えていて、北朝鮮はさほど困っていないとし、一方、中国もロシアも北朝鮮も、戦争は望んでいないとしながらも、偶発的な戦争開始の可能性も考えられると説かれた。

戦争が起これば、ソウルは火の海となり、韓国の経済は破綻する。もちろん、北朝鮮も甚大な被害を受け、日本もその埒外にはおられない。安全保障については、最悪の事態を勘案して対策を考えるべきであるが、日本の政治家も官僚も、戦略を立案する能力がない、ともいわれる。

では、国民としてはいかに対処したらよいのか。宮家氏は答えを出されなかったが、いずれにせよ、北朝鮮が核兵器とミサイルを保有するのは確実と見なければなるまい。日本に戦火が及んで、死者が出るのも最悪覚悟せねばなるまい。

そこまで、国民が腹を据えて、政治に外交力を発揮するよう要求すれば、現実に即した政策が出てくるのではないか。

これが、今回の講演内容の、総合的帰結であると感じられた。

(東大・経 五十嵐 信之)


朝のラジオで的確なコメントを良く耳にする宮家邦彦氏がどんな話をされるか興味深かった。「なぜ国際情勢を見誤るのか」と言う切り口で話をされた。印象に残ったことの感想を二三述べて見る

「地政学を勉強しても結論は予測できない」、これはまあそうかなと言う感じがした。「『勢力均衡理論』だけでは未来は読めない」として『力の大真空』と言う氏の考えを基に、フィリピンから米軍が撤退したために真空が出来、中国が東シナ海になだれ込んで来たと説明。これは非常に納得できる。氏は『「力の大真空」が世界史を変える 構図が変化し始めた国際情勢』と言う本を著している。

「軍事衝突の可能性は数字にできない」と言う説明の中で1950年のアチソン演説の中でアメリカの防衛線に台湾と朝鮮半島が入っていなかったことが朝鮮戦争の引き金になったと言う話があり、その流れで休戦協定の署名人の話があった。朝鮮民主主義共和国人民軍、中国人民義勇軍と(米国ではなく)朝鮮国連軍の三者である。朝鮮国連軍の司令部が1957年まで日本にあったとは知らなかった。今でも横田基地に国連軍の「後方」司令部があるそうだ。

今の北朝鮮情勢は氏の考えでは、北朝鮮もアメリカも戦闘に入るのは得策ではないと考えているが、「誤算」と言うのがある日突然やって来ることがあるので予断は許せないとのこと。最後に「官僚と政治家は『戦略論』を語れない」との指摘があり。目先の課題を常に考えている官僚と選挙に勝つことを常に考えている政治家はさもありなんと思った。

(東大・工 加藤 忠郎)


1 講師の外交官としての豊かな経験に基づき、かつ、元外交官としての縛りが全く感じられない語り口により、短い時間の中で、複数の国の相互の関係を分かりやすく説明していただき、私自身の頭の整理ができたように思います。

2 冒頭の「我々は、なぜ国際情勢を見誤るのか」についての6つの理由は、言われてみればいずれも尤もなことであり、3番目の「東アジアだけ見ても世界は見えない」は、我々の眼が目前のことしか見ておらず、国際化が叫ばれて久しいのに変わらない国民意識の弱点を指摘したことに価値があると思います。他方、6番目の「官僚と政治家は戦略論を語れない」は、国民の心胆を寒からしめるものであり、それでは一体誰に戦略論を語ってもらうべきなのか、大いに戸惑ってしまうことになります。補足をお願いしたい点の一つです。
なお、サイバー攻撃は「武力攻撃」か?との発問が講師からありました。門外漢にとっては、そのような問いを立てることすら思いも寄らず、平時と戦時の境が曖昧になってきているのではないかという月並みな感想を申し上げるしかありません。

3 講演の後半では、関係各国のそれぞれの予想される対応について、分析が進められ、講師がお考えになる採るべき一定の方向が示され、出席者の多数にとってもそれは納得のいくものと思われます。
ただ、関係国のうちロシアについての言及がほとんどなかったように思います。他の国々と比較してロシアのウェイトが低いのか、演題からみてロシアに言及する価値がないのか、或いは、時間の関係で説明する時間がなかったのか、機会があれば、講師の方から若干の補足をしていただければ幸いです。

4 外交面では、今後も「波風は静まらない」ことだけは確実です。これからも講師の知見は日本の外
交にとって必須のものでありましょう。ご活躍を期待しております。同世代としても声援いたします。
ありがとうございました。

(東大・法 小髙 章)


宮家邦彦氏が講演の最後に語られた「北朝鮮への経済制裁以上、軍事攻撃未満の圧力が必要」とは何を指すかは、トランプ米大統領が習近平中国国家主席に迫ったとされる原油禁輸に他ならないと思う。来年9月9日の北朝鮮建国70年までに大陸間弾道ミサイルを完成させるのではとの予測がある中で、時間がたてばたつほど選択肢は減ると言われている。ただ現実に核戦争が勃発することは北朝鮮含めだれも望んではいないと思う。いったん戦火が起きれば圧倒的な攻撃力を持つ米日韓に北朝鮮が対抗するには、核を使用する以外抵抗方法はないだろう。そうすれば、ソウル、東京も壊滅的な被害に曝される。

中国は、自国への脅威を除くためにも核抜きで北朝鮮を生かさず殺さず保ちたいというのが本音だと思う。北朝鮮の貿易の9割を占める中国にはこれで生計を立てている人も多くいるだろうし、間違っても北京に核弾頭が飛んでこないように考えるのは自然である。今は大国として国際連携を重視し、9月の国連決議の完全履行を約束している。これにより中国から北朝鮮への石油製品の供給は従来の約3割減るとされている。これに対して北朝鮮は、経済の各分野で自給自足を最短期間に実現する方針を立てたが、実現できるかは不明である。習近平氏は、経済制裁にはもう少し時間がかかるとし、更なる圧力強化には慎重である。急激な圧力強化は、窮鼠猫をかむ事態を恐れていると思われる。中国にとっては、非核化された南北朝鮮が存在する、さらにその先は、米軍基地のない親中国統一政権が朝鮮半島に存在するのが一番望ましいはずだ。

一方日本は、いつまでも「核の恫喝」に晒され、拉致された国民を取り戻せないような状態には一日も早く終止符を打ちたい。北朝鮮の非核化に関しては主張が一致する米韓さらに中国と緊密な関係を築き、民主主義、自由、人権の価値観を共有する各国と連携して、トランプ氏が韓国国会で述べた様に、何としても北朝鮮の野蛮な政権が孤立し白旗を上げるために、今こそ力を結集しなければならない。

(北大・教育 牛島 康明)