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夕食会・午餐会感想レポート

平成27年7月午餐会「日本経済再生の処方箋」

夕食会・午餐会感想レポート

7月21日午餐会

常に産業界を魅了する冨山氏の講演を目当てに、午餐会は満席だった。世の中には目新しい理論を披瀝される方は多いが、氏は独特の見識を編み出されただけでなく実行され実績を上げておられるから迫力が違う。隣席の女性コンサルタントは、氏の著書は読んでおられ賛否のご意見もありながら、ナ マの話を聞きに来たと言っておられた。私も同様だった。元大企業幹部の同級生も珍しく来ていた。この企画を立てた方に賛辞を。

冨山氏の最もユニークな点は、日本経済を世界で競争するG型(←Global)経済圏と、地元に密着しているL型(←Local)経済圏に二分する所だ。L型が雇用数の8割、GDPの6-7割を占め、主体は今やサービス業だという。例として氏は、氏が経営に関与しておられるオムロン㈱と 地方バス会社の岩手県北自動車㈱を挙げられた。G型とL型は全く特性も位置付けも異なるので、混同すると統計も施策も経営も間違えると言われる。このL型が栄えないと日本経済は盛んになることはなく、益々格差や社会の二分が進むと警告される。

また氏は、言い難い事実を明言され、日本は百数十年にわたって地方の才能を東京を初めとする少数の都会が吸い上げて来た結果、都会と地方では経営力に差があるという前提で諸施策を実施されている。勿論氏は偏差値では計れない人間力があることは先刻ご承知の上でのことであろう。また、G型とL型は実際には綺麗に二分できるものではなく、地元の中小企業が海外に工場や販売拠点を持ち、特殊製品のニッチ市場で頑張っている中間的存在もご承知の上で、典型的なG型とL型を論じておられるに違いない。

そういう前提で氏は、G型は百米競争を10秒台で競う世界だから、規制緩和で自由に世界と競争させるのが望ましいとする。世界展開の中で日本をマザー工場大国に育成すべきだとも。一方L型の多くは経営の計数化にも不足がある状態で生産性が悪く、百米40秒の世界だから、伸びしろが大きいと言われる。経営力を外部から導入し、あるいは少ない経営力の下に合併統合して普通に努力すれば、直ぐ百米20秒程度には改善でき、それで格段に生産性も業績も向上し、生活にこと欠かない給料が払えるようになると、ご自分の実績を例に主張された。G型とL型とは昔は親会社と取引先・下請の関係があったが今では、極めて緩やかに結合した言わば別経済圏になってしまったから、アベノミクスで元気になったG型からL型には恩恵は及び難い。だから別施策が必要だと説かれる。具体的には、L型には「生産性向上」と「新陳代謝(安易に救済しない)」が重要施策であり、それが「日本経済再生の処方箋」だと言われる。

今回資料にはあったが言及されなかった氏の持論では、大学もG型の世界で活躍できる高度専門人材を育てるG大学と、L型の世界で生産性向上に寄与できる実学型のL大学に分けてTwin Peak型に育成すべきだとしている。

午餐会や夕食会で、こういう実学の講演がもっとあっても良い、特に今回の講演は素晴らしかった、と感じた。

(東大・工、松下 重悳)