夕食会・午餐会感想レポート
2022年6月午餐会「日本語の世界―オノマトペ―」
夕食会・午餐会感想レポート
6月20日午餐会
言語はその民族の特徴を表していて非常に興味深い。「雨」は英語では「rain」一つだが日本語では、霧雨、村雨、狐の嫁入り、五月雨、時雨、利休鼠の雨、その他無数にある。「わらう」も日本語ではこれだけだが、中国語の漢字では「笑」の他に、あざけって笑う「嗤」、口を大きく開けて大声で笑う「呵」、含み笑いをする「哂」と、笑いの種類でいろいろある。英語でも、声を出して笑うlaugh、微笑むsmile、冷笑するsnicker、フフッと笑うchuckle、クスクス笑うgiggle、歯を見せて笑うgrin、馬鹿笑いするguffaw等と豊富にある。言語に興味のある小生は山口仲美氏の講演を楽しみにしていた。
オノマトペは擬態語・擬音語を意味するフランス語。日本語は他の言語に比較してオノマトペが豊富で、広辞苑で調べたところ、英語の5倍あるそうだ。多くの言葉がオノマトペが語源になっている。叩く、吹く、吸う等も擬態語に「ウ」行の字を付けて動詞化したもの。徳利(とっくり)もトクトクと注ぐことから来ている。鳥や動物の名前も然り。ネーと鳴く動物に可愛いものに付ける語尾「コ」を付けて「ネコ」。ヒヨヒヨ鳴く「ヒヨコ」、ベーと鳴く「ベコ(牛)」も同様である。
犬の鳴き声は「ワン」だが、江戸時代以前は「ビヨ」と言っていた。犬の飼い方で鳴き声も変わって来たと言う。ドイツ語でも犬の鳴き声は「バ」行の「バウ」なので「ビヨ」と聞こえるのも理解できる。江戸時代以前は犬は放し飼いだったので、遠吠えの「ビヨ」と聞こえたが、縄でつないで飼うようになってからは身近な鳴き声「ワン」になったと言う。『大鏡』にも犬の鳴き声として「ひよ」と言う言葉が出て来るそうだ。昔の日本語の表記は濁点「〟」を付けなかったから「びよ」だったのだろう。オノマトペは文化史も明らかにしている訳だ。
荻原朔太郎や幸田文もオノマトペを多用し、創造的な表現も作り出している。オノマトペのリズム感を強調しているのが宮沢賢治だろう。「雪渡り」と言う作品で、子供と狐が、キック、キック、トントンと雪沓を鳴らして踊る場面が出てくる。滑稽話で面白いのが、カラスとスズメは親子と言う話。カラスが「コカ(子か)」と鳴き、スズメが「チチ(父)」と鳴くから。
最後にオノマトペが輸出文化を担っていると言う話をされた。日本のアニメや漫画には「どおかあん」、「びよーん」、「ズザザザザザ」、「カキーン」、「ビュー」等とオノマトペがふんだんに出てくる。外国人は珍しさもあってか喜んで受け容れているようだ。
山口仲美氏はユーモアもあり話が上手で久し振りに楽しくも興味深い話を聴いた。著書もいろいろ書かれておられるので、読んでみたい。
(東大・工 加藤忠郎)