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夕食会・午餐会感想レポート

2023年5月午餐会「『成長の臨界』にどう対応するか?」

夕食会・午餐会感想レポート

5月22日午餐会

「成長の臨界」という表現は成長を至上命令とする資本主義体制のもとで成長を阻む要因の分析と対策を論ずる立場では言い得て妙である。冒頭、コロナ収束後、毎月出張して各国経済の著しい変化を目の当たりにした後で戻ると日本だけは何も変わっていないことを痛感するという指摘があった。

安定を好む国民性が迅速な改革を阻んで来たことで日本経済の成長が長い間足踏みを続けたのは事実であり、それを踏まえた数々の分析には傾聴に値するものが多かったが、結果として目まぐるしい世界経済の変化に翻弄されずに持ちこたえた政策の一貫性に何らかの意味はあるように思われる。

日本の長期停滞をもたらした多岐に亙る問題の中では企業経営・雇用および社会保障・税のあり方が取り上げられ、日本型雇用の特質の一つとして管理職の「遅すぎる選抜」の指摘があった一方で、欧米型の人事制度のそのままでの移植では組織の沈滞を招くおそれがあるというのは納得出来た。

10年間の異次元緩和の大実験について講師は400万の雇用増はそれがなくとも達成されていたとする。少子化対策の財源を社会保険料でまかなうと非正規雇用を増やすとの持論、被用者皆保険の整備策、財政健全化のための小刻みな増税や「社会連帯税」の導入への賛同者は少なからずいると思う。

終了後の質疑応答では出席者4名よりMMTの効用に関する賛否両論の討議を望む意見、消費税率引き上げの悪影響、短期所得への課税の是非に加え、シンガポール・香港と比較した日本の所得税の高さの指摘があったが、それぞれの関心の所在と講師の意見は極めて妥当なものであると感じた。

著書の「成長の臨界」は事前に拝読、幅広い分野の専門家との対話から得られた各種の説を引用・紹介し、より高度の視点から練られた内容であると感服した。過去の経済的停滞は講師の分析によりその原因・背景を小生なりに理解することが出来た。提言を盛り込んだ経済運営に期待している。

(東大・法 古川 宏)