夕食会・午餐会感想レポート
2023年3月夕食会「幸福度ランキング5年連続世界1位のフィンランドのライフスタイル」
夕食会・午餐会感想レポート
3月10日夕食会
フィンランド国民の幸福度が高い背景について適切なキーワードを配した大画面を用いて実に判り易い説明がなされた今回講演には全く無駄がなかった。冒頭、国会議事堂の前にある大規模な図書館が映し出された。図書館では国会の様子が見られ、国民と政治との距離が近いとの紹介があり、先ずこのことが人口550万の国で効率的な仕組みの運用が可能な理由の一つであると感じた。
個人が主体性を大切にしてシンプルに生きる一方、弱い立場にある人を支えるという社会が、四季のある気候風土の影響を受けたゆとりある生活につながり、押し付けではない、国民の幸福度の高位安定となっている。それは人口の少ない国だからではなく、社会全体にそうした雰囲気が長い間醸成され、幸福感を味わえる仕組みが無理なく働いていることに由来するのではないだろうか。
シンプルに生きるというのは裏を返せば、贅沢な暮らしを諦めるのではなくそもそも必要ではないという精神の充実・充足感が大本にあるからである。日本人の一部に物に囲まれた生活にこだわる傾向がいまだにあるのは否定出来ない。フィンランドでは「衣食住」の表現が「住食衣」の語順となっているという。このことを如何に解釈するかは人によって異なるだろうが、中々興味深い。
弱い立場にある人を支えるという面では、同国でさえ女性の活躍が阻まれていると感ずる時があるとの講師の話は意外に感じた。この分野ではランキングでの下位の部類とされる日本では国柄もあり、阻害要因がなくなれば問題が直ちに解決することはなく、当分の間、諸政策を実施したとしても容易ではない。本当に改めるのであればフィンランドの事例も参考とし検討する必要がある。
社会における様々な仕組みの紹介では国民教育の質が高いことが前提となっていると感じた。企業内での仕事のやり方、休暇の取り方、コーヒータイムでの意思疎通の図り方や会議の進め方、何れも個人の主体性を尊重するにせよ、最低限のルールを守るような国民性と教育レベルに達していなければうまく行く筈はない。主体性の裏に個人の精神修養と並々ならぬ努力があるように思う。
機能性を重視するデザイン、自然や多様性とマッチするイノベーションやシンプルな暮らしぶりといったものは日本の中に既に溶け込んでいる要素である。日本とフィンランドとの共通点が相互に良いイメージを生み出していることは間違いない。小生も中学生の頃の文通や、海外出張時に飛行機の隣席同士の歓談でフィンランド人に対してかなり良いイメージを随分以前から抱いていた。
講演後のフィンランド滞在経験者を含めた少なからぬ質問・意見には出席者の関心の高さが表われていた。日本人にとってのフィンランドに対する親近感の根源は前世紀以来の同国外交、北欧に対する漠然とした憧憬、或いは現代の戦略家が高く評価しているフィンランド軍の実力といったものなのかも知れない。今後も相互理解が進み、両国関係が一層強化されることを望む次第である。
(東大・法 古川 宏)