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学士会メールマガジン

2006年2月号 号外


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 ■□ 学士会メルマガ+(piu) □■   2006年2月号 号外(不定期発行)
            http://www.gakushikai.or.jp          
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 今回初めての試みとして、学士会メールマガジンの番外編を発行いたします。
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  その時々のイベントに合わせて旬な素材がご用意できた時に発行する、
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   ヴィヴィットでアクチュアルなメルマガを目指します。
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         ◆--------------------------◇
           トリノ冬季オリンピック
         ◇--------------------------◆
                  マリオ・ベルタイナ Mario Bertaina
                   (理化学研究所研究員 / トリノ出身)


トリノ冬季オリンピック開幕まであと1日である。

突然だが読者の皆さんに1つ質問させていただきたい。


     ◆ トリノはイタリアのどこに位置するでしょう? ◆


そう聞いてすぐに地図上でこの街を指せる人は、相当なイタリア通。
聞いたことはあるが、トリノって一体どこにあるの?というのが普通の反応だ
ろう。

では、もう一つ。


         ◆ フィアットを知っていますか? ◆


もちろん!と殆んどの人が答えるだろう。

では、トリノとフィアットって一体何の関係があるの?という質問が出てくる
かもしれない。
実は、トリノはフィアット自動車発祥の地なのである。


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前置きはこのくらいにして、ここで簡単に自己紹介をさせていただきたい。
私はトリノ出身のイタリア人(マリオ・ベルタイナ Mario Bertaina)で、
和光市にある理化学研究所で宇宙物理学の研究をしている。もうすぐ在日4年
目になる。
今回企画課の黒渕さんの友人からの依頼で、トリノ冬季オリンピックに因み、
この場でトリノという街を紹介させていただくことになった。これは、私が
イタリア語でトリノについて話した内容を、友人が日本語に訳しながらまとめ
たものである。ご興味があれば、是非読んでいただきたい。

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     ◆◇◆ 冬季スポーツのメッカ・トリノ ◆◇◆
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トリノという街は、イタリア北西部のピエモンテ地方にあるイタリア第4の都
市である。日本で言えば、福岡や仙台くらいの規模であろうか。そのトリノが
今回の冬季オリンピック会場に選ばれたのは、ほかでもなくこの街がヨーロッ
パ最大の山脈の麓に位置するからである。
そもそもピエモンテとは、山の麓(ピエ→Pie・・足の意、モンテ→monte・・
山の意)を意味する。勘の良い方はお気づきだろうが、この山とは、「アルペ
ン」スキー発祥の地であるアルプス山脈のことである。これで、アルプスの山
脈の西南に位置するトリノという街が、冬季スポーツのメッカであることが分
かっていただけただろう。

冬季オリンピック開催地としてトリノが選ばれたもう一つの理由は、この街の
地の利にあるだろう。隣国のフランスやスイスからは車で1時間、同じく国境
を接するオーストリアや旧ユーゴスラビアのスロヴェニアやクロアチアなどか
らも車で数時間である。また、パリやフランクフルト、ロンドンなどヨーロッ
パ主要都市からも飛行機で1、2時間である。
大げさに言えば、トリノ冬季オリンピックはヨーロッパ全体に住む人々にとっ
ても一大イベントなのである。すでに市内外のホテルは予約が一杯で、会期中
は国内外から大勢の観光客がどっと押し寄せることになる。 

これだけの観光客を受け入れるだけのインフラが整っていなかったトリノでは、
すでに2002年から市内のあちこちで工事が行われてきた。そのハイライトとな
ったのは、地下鉄工事である。
この地下鉄工事についての話をするためには、簡単にトリノの歴史について触
れなければならない。

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         ◆◇◆ トリノの歴史 ◆◇◆
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ご存知のとおりイタリアという国は、1861年に統一されるまではいくつかの王
国の集まりであった。トリノという街はサヴォイア王国の首都であった。その
ため市内中心部には17世紀から19世紀までの美しい歴史的建造物が立ち並んで
おり、なかなか情緒がある。しかし、サヴォイア王国がイタリアに統一され、
ローマが政治的首都、そしてミラノが経済的首都となってから、トリノは急速
に衰退の危機を迎えた。

そこへ、19世紀末フィアット自動車がトリノに創業する。そして、第二次大戦
後には、ミラノを意識した経済的発展を目標に掲げて工業都市へと発展してい
った。ところが1980年から90年にかけて不景気が起こると、自動車工業以外の
活路を見出さざるを得なくなった。
それ以来、この街はサッカーのワールドカップ、トリノ国際映画祭など数々の
イベントを行い、新しい街としてのアイデンティティーを探りながら少しずつ
街興しを図ってきた。

そして、今回の冬季オリンピックをきっかけに、政府や地元企業の大きなバッ
クアップもあり、地下鉄工事や空港のリニューアル、また空港への鉄道延長工
事など、これまでなかなかできなかった工事を一気になし遂げ、街全体が抜本
的にリニューアルされる運びとなった訳である。

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      ◆◇◆ トリノのアイデンティティー ◆◇◆
      ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

さて、地下鉄工事の話に戻ろう。冒頭でトリノはイタリア第4の都市であると
書いた。それなのに、この街にはずっと地下鉄というものがなかったのである。
何故だろうか? ご存知のとおり、この街の近代的発展がフィアットの自動車
工場とともにあったからだ。
今回の地下鉄工事のため、市内では大がかりな交通規制が行われていると友人
から聞いた。市内のおもな道路には工事専用車レーンが設けられ、そこはマイ
カー通勤をあきらめた市民のための代替運送バスさえ通ることができない。よ
って、移動にとてつもない時間がかかり、大変な不便を蒙っているそうだ。

そのうえ、時間規制のない早朝に家を出たり、あるいは徒歩通勤に切り替えた
り、この厳寒の季節に市民は生活リズムまで変えることを余儀なくされている
そうだ。この地下鉄工事はトリノ市民にとって、かなり不評なのである。

もちろん、工事が完成した暁にはやっとトリノにも(かなり遅れて)近代的な
公共交通機関が開通したという喜びもあるだろうし、何しろ長年問題であった
大気汚染や交通渋滞から開放され、結局のところ地下鉄が出来て良かったとい
うことになるだろう。

そうなると、オリンピック以後、人々の交通手段は車から地下鉄へとシフトし
始め、少しずつ市内の車利用者の数が減っていくことになる。それは、「トリ
ノ=フィアットを中心とする工業都市」というこれまでのアイデンティティー
を少しずつ手放していくことを意味する。
実際、フィアットは労働力のより安い国へ工場を移設し始めているし、その動
きは今後さらに活発になっていくだろう。
そうなるとトリノという街の新しいアイデンティティーと主幹産業は何になっ
ていくのか?ということについて真剣に考えていく必要がある。

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        ◆◇◆ トリノの可能性 ◆◇◆
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今回の冬季オリンピックは、トリノが「観光都市」として新たな活路を見出す
最初の一歩となるだろう。さきほども触れたが、市内外にはサヴォイア王国ゆ
かりの城や美術館など、名所旧跡がいくつもある。こうしたトリノの歴史的美
の魅力がさらにクローズアップされていくことだろう。

トリノの新たな可能性は、観光だけに止まらない。ピエモンテ地方には、世界
中の食通を唸らせる数々の名産品がある。
例えば、超高級ワインの一つであるバローロ、希少なアルバの白トリュフ、チ
ンツァノやマティーニなどのアルコール類、ラヴァッツァ社のコーヒー、ヘー
ゼルナッツをふんだんに使ったフェレロ社のチョコレートなどがそうだ。オリ
ンピックを機会にピエモンテグルメの知名度が更に上がり、ワイナリーを訪れ
る観光客が増えたり、あるいはこうした高級グルメの輸出が拡大する事も大い
に期待される。

トリノの可能性は、ナノテクノロジーの分野にもある。物理学者のアヴォガド
ロはトリノ大学に学んだし、また、トリノ工科大学はミラノ工科大学とともに
優秀なエンジニアを輩出し続けている。こうした科学技術研究の盛んな土壌も
あって、イタリアにおける今後のナノテク研究の拠点は、トリノが中心となっ
て進められていく計画である。(今月21日~23日に東京ビッグサイトNano tech
 2006が行われる予定である。ピエモンテからはITP社が参加する。興味のある
方は足を運んでみてはいかがだろうか?)


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さて、話が長くなったが、根っからのスポーツ好きなイタリア人にとって、ト
リノ冬季オリンピックは一大イベントである。殆んどのイタリア人が、仕事や
勉強を忘れて一日中テレビの前に釘付けになるだろう。オリンピックの経済波
及効果などについて長々と堅い話をしてきたが、私も会期中はそんなことはお
構いなしにテレビ漬けになるつもりである。
イタリア、日本、ガンバレ!!!

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  マリオ・ベルタイナ Mario Bertaina
  1969年イタリア・ピエモンテ州クーネオ生まれ。
  トリノ大学で物理学のPhDを取得後、Gran Sasso(イタリア)、
  MIT、 Forshungszentrum(ドイツ・カールスルーエ)などに勤務。
  2003年より理化学研究所協力研究員。
  最強エネルギー宇宙線研究のEUSOプロジェクトに携わる。
  趣味はサッカー、スキー、登山。温泉とそばを愛する親日派。
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  参考サイト
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【トリノ・オリンピック】
http://www.joc.or.jp/torino/
【オリンピック(歴史)】
http://www.joc.or.jp/olympic/index.html
http://www.winter-olympic-memories.com/
【トリノ・ガイド】
http://www.japanit.it/torino/
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%8E%E7%9C%8C
【ピエモンテ州・グルメ】
http://piemonte.jp/
【フィアット(歴史)】
http://coupecoupe.page.ne.jp/fhistory.html
【ITP】
http://www.itp-agency.org/(英語)


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★: & more  ★ イタリアの多様性
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  __ ☆  今回の号外はいかがでしたか? 私にとってトリノといえば、サッ
  \/     カーの強豪チーム、ユベントスの本拠地です。オリンピックの会
   ∥      期中はイタリア国内ではサッカーの試合はもちろんのこと、ちょ
★  ̄      うどベネチアのカーニバルも開催され、よりいっそう華やいだ雰
囲気で包まれることでしょう。
私はスロベニアと国境を接するトリエステという街に数ヶ月滞在したことがあ
るのですが、従来抱いていたイタリア、イタリア人のイメージとは全く別の一
面に接する機会が多々あったことを覚えています。そこにはイタリアという国
よりも“街”や“州”の歴史が深く結びついていると感じました。
執筆を依頼したマリオさんは、フランス国境に近い街の出身。陽気だけれど、
とても真面目で誠実。そんな彼の出身地、トリノの歴史や文化をこの機会に学
んでみたいと思いました。今号の反応によって、今後も「トリノ人気質」「ト
リノの山登り」など予定しています。感想をお待ちしております!
                           企画課 黒渕美季
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   >今回の号外へのご感想はこちらへ<  info@gakushikai.or.jp
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        監  修:社団法人学士会 書記長    鎌田敬士
        編 集 長:社団法人学士会 企画課長補佐 大村 誠
        発  行:社団法人学士会
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