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学士会アーカイブス

學士會と帝國大學との關係を論し併せて學士會の任務に及ぶ 森 外三郎 No.127(明治31年 9月)

     
學士會と帝國大會との關係を論し併せて學士會の任務に及ぶ
森 外三郎 No127号(明治31年 9月)

去る七月學士會總會に於て菊池大學總長は學士は大學に對し最も親密の關係を有するものなるか故に常に大學の發達を企圖せさるへからす我學士會は此目的を達するに最も適當なる團結なり云々と述へられたりと聞く盖し總長の意は學士會を以て大學の發達を促す機關と見做さるゝか如し學士會たるも豈に之を歡迎せすして可ならんや余輩は年來學士會の任務に就て聊か考慮する處あり甞て二三の會員に告けたることありしも未た公然之を會員一般に謀るの機會を得さりき然るに今や總長の説あり又外山博士の之に對する意見も聞くを得たり是れ實に余輩の宿論を公にするの好時機にあらすや
抑學士會なるものは大學を出てたる者並に大學に關係深き者の組織する團體なれば本來其性質に於て少くも大學の休戚を以て喜憂となし大學の發達改善を企圖すへきは當然の任務ならすや、退いて現今の會狀を觀るに大に之に反するものあり學士會なる者は單に會員の親睦を謀るに止るか如し勿論時には學術講談を催したることなきにしもあらされとも各地の會合は毎時飮食、雑談、「ダジャレ」に了り月報は此有樣を記載するの外殆んと官報の抜萃に過きす門外漢の時に學士會を稱して「ノンキ」會となすも余輩之れか辨解の辭なきに苦しむ、思ふに會員時に相會し飮食を共にし「ノンキ」を交換する必すしも不可とせす然れとも之を以て直に學士會の能事了れりと云はゝ余輩甚た惑はさるを得す
試に思へ學士會なる者は各自専門の學藝あり且つ常識以上の見地に在る者の集れる一大團體ならすや宜く社會に立て随時之を風動するの擧に出てゝ然るへし若し夫れ國家民人の休戚利害に關する大問題の起る如き場合には學士會は正々堂々其意見を發表し世人をして適從する所を知らしむるも可なり或は帝國大學の得失に關し或は一般教育上の施設に關し事に依り機に應して當局に献策し助言するか如きも至當の業ならさるへからす學士會にして斯の如き任務なくんは假令新舊學士相集りて親睦するも何のも益なかるへきなり大學の如きは畢竟文部省の手を離れて獨立すへきものなれとも之を獨立せしむるには社會に信用あり且つ學識に富瞻なる監督機關なかるへからす而して此責任を完ふすへきものは我學士會を措て他に求むへからす唯た今日の學士會を以てしては余輩其難きを知る學會たるもの振刷一番し堂々其幟を明かにし積極的方針を立てゝ社會に臨み眞に有爲の團體なることを世に公示せさるへからす
外山博士も亦學士會と大學との關係に就て説あり余輩頗る賛成を表する者なり
余輩は更らに博士の案に加ふるに左の二項を以てせんとす
 一、大學敎授缺員ある場合には學士會をして其候補者を撰定せしむること
 一、外國へ留學生を派遣せんとするときは學士會をして其候補者を撰定せしむること
之を要するに大學の敎授は實に社會に於ける無上の榮職にして學德共に天下の模範たるへきものなり從て其撰定の如き最も公平に最も嚴格にせさるへからす
外國へ派遣する留學生の如きも眞に篤學有爲の人物を撰定せさるへからす此二件の如き實に我學會の盛衰に關するものなり焉そ之を輕々に附すへけんや是れ余輩か外山博士の案に此二項を加へんと欲す所存なり
以上は菊池外山兩博士の高説に賛成を表すると同時に聊か平生の所懐を開陳したるものなり兩博士及ひ會員諸君の賛同を得は幸の至なり

 (明治三十一年九月十日)
會員 森 外三郎