「誰も教えてくれない!新社会人のコンディショニングのヒミツ」
第5回:自分の機嫌は自分で取れ!
みなさんこんにちは。
医師の佐上徹(さがみとおる)です。
テーマごとにコンディション作りのヒントをお知らせしています。
読者の方から「自身を観察する習慣・マインド」に関して質問を頂きました。
『ストレス源を認識しても抑え込もうとしてしまいます。
大きなストレス反応に繋がる前に対処できるのか不安です。
注意点やヒントはありますか?』
私からのコメントはこのページの後半に掲載しますので参考にしてください。
第5回目:自分の機嫌は自分で取れ!
前回は「自分のストレス源とストレス反応に気づく社会人を目指そう!」というテーマでした。
今回は、自分で「ストレス解消」を積極的に行う方法を紹介していきます。
会社ではストレス解消について教えてくれませんが、社会人として働き方・休み方を考えるうえで、ストレスやメンタルの問題は切り離せません。
ストレス解消をスキルとして身に付けてしまうことが活躍の近道になるのではないでしょうか。
睡眠+食事は最高のストレス解消法
連載第2回目でもお伝えしていますが、睡眠はパフォーマンスを高めるだけでなく、ストレス解消にもなります。夜は質の良い睡眠をとることを最優先に行動しましょう。
「労働パフォーマンスの低下には睡眠による休息不足が強く関係する」という報告もあります(研究代表者:筑波大学 武田文教授、2023年)。
しっかりとした食事と食事の時間を取ることも、ストレス解消につながると考えられます。
「残業自体ではなく、長時間労働による睡眠不足と食事の不規則さがメンタルヘルスに害を与える」という報告もあります(東京医科大学精神医学分野の渡邉天志医師の論文、2022年)。
寝る、食べるという本能に近い行動を充実させることで、日中の活動が上向くことは理にかなっています。
「話す」と「離れる。ココロのもやもや
「話す」ことはストレス解消につながります。
「心理的安全性が高い職場はパフォーマンスが高い」ことはよく知られていますが、何を言っても安全だと確証ができる職場であれば、仕事上必要な意見を表明するだけではなく、プライベートの悩みごとも相談できる環境であり、安心して仕事をすることができます。
逆に「やれと言われたことだけをやればよい」という職場はどうでしょうか。
このような権力勾配の大きい環境は、言いたいことを言えず、言われたことに逆らえないため、ストレスが大きいといえます。
遠慮をする必要のない、家族・友人とのおしゃべりやランチタイムが楽しいと思えるのも、仕事上の上下関係から離れて、言いたいことが言える(心理的安全性が高い)ことの裏返しです。
「話す」と自分が抱えている気持ちが「離れる」ので、ストレス解消なのです。
風通しのよい職場であれば、働きやすくストレスも少ない、ということが理解してもらえると思います。
まとめ:ストレス解消=食べる+寝る+話す・・・
次回は、疲労と「うつ」の関係、休養と運動についてお話しします。
佐上 徹(医師・学士会会員)
佐上医師への質問・コメントなどお待ちしてます!
『佐上先生に訊いてみよう』
5月22日(水)に配信の「第4回目:自分でストレスをチェックしよう!」について、会員のKさんから質問を頂きました。
Kさん:
前回は「自分で(自分を)観察する習慣・マインドを持っておく」というお話でした。
そこで質問です。
『うわ~、このひと絶対私のこと嫌いだ。私もなんだか苦手』と感じることがあります。
こうした心の動き(ストレスの芽)を客観的に捉えることはできるけれども、『いやいや、いちおう先輩だから』と自分のなかで抑え込もうとしてしまいます。
自分のこころやからだの状況について、観察はするけれども気にしない ⇔ 限界値を超える前に何か対処するの判断がきちんとできるのか不安です。何かアドバイスはありますか?
普段は帰宅後にカップアイスを1個食べるとだいたい気が晴れるのですが・・・
佐上:
ご質問ありがとうございます。
まず、どんなときでも自分の初期設定に従って行動するのがいいのではないでしょうか。
例えば「感じよく過ごす」「他人に親切にする」など、行動原則のようなものをお持ちであれば、それに反さない行動が一番しっくりくると思います。
相手が自分のことを嫌いだと思っているはず、自分はこの人が苦手だというネガティブな印象を持ったままでいると、萎縮してしまい自分の次の行動に制約ができてしまいますので、こういう印象はなるべく拭い去りたいものです。
いったん、いやだなぁという気持ちはあっても致し方ないと思います。
それを打ち消す(「抑え込む」)のではなく、そういう自分を認識したうえで、自身にしかできないレベルの高いことが要求されているだとか、この人とのやりとりにも意味があるとか、捉え直してみるのはいかがでしょうか(「苦手」を成長の機会と捉え直す、と言ってもいい)。
「観察はするけれども気にしない」については、上述のように、観察したうえでポジティブに、前向きに捉え直すことを勧めたいです。
「限界値を超える前に何か対処する」については、おっしゃるとおり自分を甘やかす行動(アイスなどの好物)を取ることで対処できる(ストレスコーピングとして知られるもの)のではないでしょうか。
この2つについては、二律背反でロジカルに考えるだけでなく、そういう自分がいるということを俯瞰的に見て、嫌なことがあったら楽しいことで上書きするくらいの軽い気持ちでいるのはいかがでしょうか。
感情は変動するし、寝たり食べたり話したりするとスッキリすることがありますので、論理的に思い込むよりもその場の感情に任せるという方略もありかもしれません。
ポイントとなるのが「いつもと違う自分に気づく」マインドだと思います。
体調も出来事もいつも同じということはありえないのですが、自分の心と体の状態が、ある程度の範囲に入っていることが確認できればいいと思います。
「判断がきちんとできるのか不安」に関しては、点推定ではなくて区間推定ぐらいの、ゆるい推定しかできないのではないかと思っています。
仮にきちんと判断はできなくても、いつもの標準的な自分と違うと認識できることで、その後の行動が変わってくるかもしれないと思えることはいくらでもあると思います。
もしアイスを1個食べて落ち着かなければ、鼻歌を歌ったり、長風呂に入ったりしてみるという自分を試してみるぐらいがいいのではないでしょうか。
「不安ごとは書き出してみる」というのも、対処法としてはありな方略です。
心理学ではジャーナリングと言ったりしますが、自分の思考や感情を書き出していく手法のことのです。
「ある場面で、ストレス対処がうまくできなかったら不安」という不安を言語化することでロジカルに対処できるようになるかもしれません。
手で書くことがポイントと言われているのと、その不安に対して、現状でどんな対処法が考えられるかをいくつか想起してみるということも有効かもしれません。
いまその現場に出くわしていない冷静な自分だったらどうするかを考えておくことで、いざ不安になってしまったら、その書き出した対処法通りに単純に実行すればよい、となりますので、シンプルに使える方略ではないでしょうか。
ご参考になるかわかりませんが、一つの見解としてお読みいただければ幸いです。
他にも質問・コメントなどお待ちしています!