夕食会・午餐会感想レポート
2023年7月夕食会「次世代原子炉SMR~脱炭素技術としての期待と課題」
夕食会・午餐会感想レポート
7月10日夕食会
最近、燃料価格の高騰や太陽光発電買取りによる上乗せなどで、電気料金の高騰が大きい。そのような中で原子力発電所を再稼働している関西電力や九州電力は値上げを保留してくれている。また、現在太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーによる発電が推進されているが、天候に左右され安定した発電が不可能で、森林伐採、環境破壊、低周波音による健康被害などの問題が指摘されている。特に廃棄される太陽光パネルの有害物質の処理なども問題視されている。
このようなときに、今回の小宮山涼一氏の講演は時宜を得ており、期待して聴講した。SMRと言うのは Small Modular Reactor の略で、日本では一般に「小型モジュラー炉」と言う。基本的に原子力エネルギーはクリーンな電力、水素、熱の供給源であるだけでなく、火力発電とは異なり国内の燃料在庫で数年間電力供給が可能と言う準国産エネルギーであることが大きい。またコストに占める燃料費の割合が小さいので燃料価格高騰の影響を抑制できる。当然ながら、脱炭素、CO2ネットゼロの実現には不可避なエネルギーである。
経済産業省は現在の原子炉よりも安全性が高く、燃焼効率が高い特長を持ち、既存の軽水炉型の原発をベースに安全性を高めた「次世代革新炉」を打ち出した。地震や津波等の自然災害への対策強化、事故への対策強化、テロへの対策強化、受動的安全性(自然に冷却する)、放射性物質排出防止機能等が考慮されている。5種類のタイプがあり、SMRはその内の一つである。
SMRの特長はいろいろある。モジュール化により工場で生産出来、工期が短縮され建設コストの高騰が抑制できる。柔軟な出力調整により太陽光発電などの自然エネルギーの発電量の波を補完できる。小型の為分散して利用が出来る。ロシアでは船に乗せた海上浮揚型原子炉等の例もある。また事故が起きた場合の避難範囲が大型炉とは異なり敷地内に限定出来る。
逆にスケールメリットが小さいので大型炉に比べてコスト高になる。大型炉とのコスト差を縮小するために、高い安全性による安全対策費の軽減、生産拡大により習熟効果によるコスト軽減が図られている。その他課題としては、上述した事故が起きた場合の避難範囲が限定されるなどのメリットのためには安全規則の規制や審査の整備が必要である。
現在の原子力発電所で10基の再稼働中の炉の中で46年稼働している炉もあり、設置変更許可されたものの中には48年と言うものもある。一番新しい炉でも13年経っている。従って新たに炉を建設して新陳代謝を図るべきと小宮山教授は強調されていた。帰り際に名刺交換した際、「規制等で原子炉が制限されると原子力専攻の学生や技術者が減らないかと心配している」と話したら、「原子力以外に、電気、電子出身の技術者もサプライチェインの企業に結構います」と言う答えを聞いて安心した。
(東大・工 加藤 忠郎)