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夕食会・午餐会感想レポート

平成28年12月夕食会「アメリカ新大統領と今後の日米関係」

夕食会・午餐会感想レポート

12月12日夕食会

精緻な内容を簡潔明瞭に述べられた講演はお見事であった。配布された90枚のスライドコピーの全てに言及される時間は勿論無かったが、後刻熟読すれば主要な視点が洩れなく網羅されていた。言及されたのは一部だったが、資料中の世論調査や支持者の属性などの数字データは、我々には容易には入手できない貴重なものだった。時折秀逸な「真面目なジョーク」が飛んだ。冒頭から「このように大勢の方に聞いて頂けるのはTrumpさんのお蔭。」「米国脱出者が増えることを危惧してCanadaは国境に壁を築くという話もある。」と爆笑を誘い座を和ませた。

次の点を学ばせて頂いた。米経済は人口増やShale Oil/Gasの成功、挑戦の文化(言及されなかったが当然ハイテクの成功も)などで一応順調に推移しており、先進国では質量ともに先頭を行く。しかしそれにも拘わらず一般庶民の60-70%は「米国は悪い方向に向かっている」と感じ、低学歴の白人労働者を典型として庶民の生活は困窮しており、十数年前よりも悪化している。局面の変化を希求する庶民の願望が、それを受け止めると訴求したTrumpを当選させた。一方Hillary Clintonは、高学歴者と女性から支持を集めた反面、嘘つきで信頼できないという庶民の不信に足を掬われた。加えて一党の3連勝は歴史的にも稀という逆風があった。

Trumpには政治経験が無いから現状に疎く、しかも勉強が必要との認識が充分見えていない。主張の強い経済人・軍人を多数登用しスタフを揃えつつあるが、大統領とスタフの政策決定メカニズムがまだ見えていないのが日米関係に関しても不確定要素である。寛容な米国と不寛容な米国の間の幅のどこに落ち着くか注視を要する。

我々としては今後の推移を見守るしかないが、そのベースとして今この講演で頭の整理が出来たことは大変貴重であった。

(東大・工 松下 重悳)


昨年5月発行の会報(第912号)での「2016年米国大統領選挙の見方」と題する講師の寄稿を一読した頃より今回の選挙には非常に興味を抱いていた。結論として民主党三連勝の可能性に慎重な講師の見解通りとなった。選挙戦の展開は正にメディアの仕掛けた興行のように感じられた。

米国で日本叩き等の諸問題が起き、米国全体が些か自信を喪失していたように見えた1980年代とは全く異なる環境のもと、選挙期間中に喧伝された米国内の分断という問題がセンセーショナルに取り上げられ過ぎたが故の意外な結果であり、メディアの猛省につながったと言える。

講演資料の中では、両候補についての見方が併記されている。トランプ氏という強烈な個性の分析に関し、政治経験がない上に、メディアの報道では「暴言」ばかりが目立った人に対しての評価という面では非常に公平であると感じた。これも当選したればこそで、当然のことである。

長丁場の選挙過程において共和党主流派がトランプ氏の独走を追認する形で選挙戦が行われたのは主流派にとって誤算であったと思われる。選挙確定後に双方が予想より早期に歩み寄りを見せつつあるのは、今にして思えば、トランプ氏の思い描いたシナリオ通りということである。

日米関係での焦点として、尖閣・TPP・安保等の諸問題に加え、台湾の蔡総統との電話協議が挙げられている。資料では台湾の箇所が朱字となっている通り、本気で「既存の外交方針に挑戦」するということであれば、中国を牽制する上で、日本の安保体制上、大きな影響が出て来る。

講演の最後に述べられた「アメリカは衰退しつつあるか?」という問い掛けについては、独り勝ちの時代は終わってもさすがは米国という感じがある。日本が米・中・露といった大国のはざまで存在感を発揮して行くためには、引続き米国の政治・経済・軍事政策に敏感とならざるを得ない。

日本が国際政治という寄せ来る大波に程良く適応して、世界における地歩を固めることを継続するには、与論が納得する必要があり、識者による冷静な分析が絶えず求められる。講師の今後の一層の研究に期待するところ大である。

(東大・法 古川 宏)