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夕食会・午餐会感想レポート

平成30年10月午餐会 「誤嚥性肺炎から命を守る術―自分自身と家族が出来ること―」

夕食会・午餐会感想レポート

10月22日午餐会

最近、食事中にむせて咳き込むこともあり、誤嚥性肺炎にならないかと気になっていたので、学士会の午餐会でこのテーマの講演があると聴き、日程をやりくりして聴かせて戴いた。

講師の稲川利光先生は、冒頭から冗談の連発で、終始聴衆をリラックスさせながらのお話で、時間の経つのがとても早い気がした。

以前はよく稲川淳二に似ていると言われたので髭を剃ったなどと笑わせながら「誤嚥」の原因になるいくつかのポイントを非常に分かり易く解説された。

良く噛めば、唾液も沢山出て味覚と風味を楽しめると同時に、飲み込むことに役立つ筋肉等を鍛えることになり、また唾液による殺菌効果も向上する。

私は日頃男声合唱団で活動しているが、今回の講演を聴いていて、合唱の練習は誤嚥防止に非常に役立つのではないかとも思った。

フレイル(虚弱)予防として、活動的な生活をすることが大事と強調されていて、「教養」と「教育」が大事とのことであったが、冷静に反芻してみると「今日用がある」と「今日行く所がある」ことが大事とのこと。歳を取っても家に引きこもっていなくて、色んな所へ出掛け、色んな人と喋り、色んな行動をすると言ったことが、高齢者の健康対策にとって大事なことだという事を改めて再確認させられた。

(京大・経 鶴谷緑平)


稲川医師の誤嚥性肺炎防止を中心とした介護医療に関する真摯な取り組みを彷彿させる講演がなされた。筆者の父は脳梗塞に伴う要介護状態の中で、入院中に誤嚥性肺炎を発症して亡くなった。私自身も、将来誤嚥性肺炎を発症させないための対応のヒントを得るため、本講演を聴講した。

脊椎動物は気管と食道が同一の管(くだ)を利用しているため、飲食が誤って気管内に進入し、肺炎等の病気を起こすことがある。素朴な疑問として、「飲食物を誤って気管内に混入させないための複雑な仕組みをつくりながらしばしばそれが誤って働き、肺炎等の重篤な障害を起こすことがあるのであれば、介護対応とは異なる興味本位の疑問だが、どうして進化上それらを単純に別々の器官に分けなかったのか」というが思いが浮かんだ。

講演中、咀嚼は、通常の栄養摂取に加えて口腔内抗菌や消化促進のために重要な唾液の発生を促すことや右前頭前野を賦活(ふかつ)させ、意欲・記憶・食欲を増す効果をもたらすことが説明された。また、気管は声帯を通して他人とのコミュニケーションの媒体になっている。即ち、現在のヒトの内臓の仕組みは、生存に便利なよう既に機能を発展させている。

例えば、ヒトを含めた高等生物にとって明白なオスの生殖器と泌尿器が同一となっている等の共有化システム状態がある。そのアナロジーから本問題を類推した。たまたまそういう状態になっているのではなく2つの機能が一つの器官で担われるのは、進化上必然的理由がある。即ち、進化の課程で生物は分化の失敗による劣化を嫌い、共有できるものは共有して済まそうとしたのではないか。工夫により共有出来るものであれば、一つの器官に複数の機能を持たせた方が進化上有利だと判断した。ホモサピエンスにとって、誤嚥は(訓練によって克服できる)マイナーな事象だったのかもしれない。誤嚥性肺炎がヒトの生存を脅かす死亡要因ということになれば、一定の期間を経て、気管と食道は分化を始めるかもしれない。ただし、それぞれが多数の内蔵システムを抱えていることを考えれば、このシステム変更は大変である。超長期的レベル進化過程によれば、ヒトは何とか生きてきたと判断されているのかもしれない。

筆者は「食道と気管が一つになっている」理由に関して講演者に質問した。ご回答は「神様の振る舞い」の理由はわからないという、極めて適切で正直なものだった。「気管と食道が別れている高等生物があるか」ということも確認したかった。「ほ乳類にはない」ということが正解だとすればホモサピエンスは「誤嚥」という究極の課題を抱えているのかも知れない。

(東大・工 上林 匡)