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夕食会・午餐会感想レポート

2022年7月夕食会「RCEP~その特徴と日本経済に及ぼす影響」

夕食会・午餐会感想レポート

7月8日夕食会

バブル崩壊を契機とした日本経済の停滞から30年、焦眉の急とされた財政再建が後退する中でのコロナショックで大型の財政出動は当たり前のこととなった。他方、各種指標の比較により日本の経済力の低下を憂慮する各種報道に、停滞・低下と見るか成熟と見るかで異なると小生は感じていた。

今回の講演ではRCEPほかの経済連携の枠組において日本が積極的な役割を果たしていることの説明があった。RCEPは世界の貿易総額の3割、日本では貿易総額の5割を占め、TPPよりも影響力が大きいとのことであるが、それだけに経済以外での足枷をもたらすことにならねば良いと思う。

講演後半はウクライナ危機や円安についての講師の見解が示された。注目ポイントとして、米国側は大方が予想している今年後半から来年にかけての景気後退で物価を下げたいことから、自国通貨が高い方が都合が良いという。それにしても、コロナショック時の円高懸念が嘘のように思われる。

円安は大企業にプラスの効果が大きいが、中小企業には厳しく、現状は行き過ぎとの指摘があった。いずれは調整局面があり、程良いところで落ち着くのではないだろうか。1998年に150円に届くような円安があったが、過ぎてみれば大したことはなかった記憶がある。急激な円安はあり得ない。

国際的に見た日本での賃金の低下傾向は社会システム等の諸要因があり、物価や失業率との兼ね合いを考えれば、無理・拙速に問題を解消するために右往左往しない方が良いのではないか。この40年に限ってみれば、日本経済は寧ろ好転しているというのが、小生が日頃感じているところでもある。

個人としての受け止め方はともかく、国家の根幹である経済について楽観的な見方は禁物である。結果として種々の制約から低欲望社会を是とする成熟国家のほかに道はなくとも、日本国が数字には表われない面で自信を取り戻し、世界の安定に寄与し続けることを一国民として望む次第である。

尚、講師の近刊「日本病」(講談社現代新書)」および2年前の「経済危機はいつまで続くか」(平凡社新書)を興味深く拝読した。エコノミスト諸氏が冷徹な現状分析をもとに政策に批評を加えることで当局を動かすのは大いに結構なことであると考える。講師の尚一層の啓蒙活動に期待している。

(東大・法 古川 宏)