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夕食会・午餐会感想レポート

平成30年5月午餐会  「ピラミッド研究の最前線」

夕食会・午餐会感想レポート

5月21日午餐会

河江さんの話は,ピラミッドの内部の空間の解明に素粒子宇宙線の利用なども引用しながら,ドローンによる3D計測に関するホットな状況に関するものだった。

彼の講演には地中海にまつわる数学者の名前は一つもなかったが,自然に意識されたのがピタゴラスの歴史的な意味である。サモス島に生まれた彼は18歳のときミレトスに行きターレスからエジプト行きを勧められた。実現したとき37歳であり,2550年も昔のことである。ピラミッドの建設が始まったのはそれよりも2000年昔である。その考古学のために18歳の河江さんは単身エジプトに赴いた。この2人が私の脳裏に重なった。

ピタゴラスがエジプトの神官から,後にはバビロンで見たり訊いたりしたのがさまざまの計算の秘術である。それは2000年の経験則として伝授されてきたものであろう。ピタゴラスはその奥のなぜ!に強い関心をもった。ピタゴラスの数学は宗教的な色彩を帯びて地中海各地で発展し,それを厳密な論理として大成して幾何学原本を完成したのがユークリッドである。それが西欧の科学の基盤になり,今日では全人類の知恵であり,さらにそれを超えて,時空の4次元非ユークリッド幾何構造とされる宇宙空間の発生と進化の解明が先端研究の一つになっている。

河江さんのテーマはピラミッドの内部の空間の解明である。現代科学のフロンティアとの共通点が重力の問題であるのが微妙に面白い。重力によって,空間それ自体が曲がる。巨大な連星が合体するときに起きる空間の曲がりが波動として光の速さで伝播するので,人類はそれを天文学の新しいツールにしようしている。

ピラミッド内部のフク王の玄室の天井の石にひびがある。それはなぜか?いつひび割れたか?その上に積み重ねられた岩石の重みの分散計算のエラーなのか重量による岩石自体の歪のしわ寄せなのか?・・ピラミッドの建設の現場監督は構造計算などの数学知識に卓越していたのだろうが,河江さんの話が聞き手を惹きつけたのが未知の部屋(chamber)があるらしいこと,それを宇宙線ミューオンの透過率から計測する話である。あるとしたらどんな形の部屋か?そしてその目的は?

ここに加わる決定的な面白さがドローン計測である。ピラミッドを構成する何万もの石の寸法と位置を至近距離から3D計測して,重量解析しようとするのだろうか?

科学技術の最先端によって解明される4600年昔のピラミッド時代の数学・科学との出会いの不思議な余韻を覚えさせる講演であった。

(東北大・工 見城 尚志)


「人生の接点」

午餐会の楽しみと云えば、勿論、各界の講師による滋味豊かな講演を聴くことである。食事の方も、今回は学士会館設立90周年ということもあって、心なしかいつもより美味しく感ぜられた。

さてもう一つ、時に講師の活動や講演テーマが、偶然にも自分自身の人生の軌跡と交差した瞬間があった、と知った時の、何とも云えぬ感興を覚えるのも、 午餐会の楽しみの一つだ。

今日の午餐会は、考古学者河江肖剰氏による「ピラミッド研究の最前線」だった。

テーマは、あのクフ王の大ピラミッドの内部がどうなっているのか、まだまだ発見されていない空間や埋蔵品があるのではないか――、その可能性を、最新の学説と3D映像を駆使して解き明かしていこう。というものであった。

さて、スライドを使っての氏の講演が始まり、興味深く耳を傾けている内に、私は思わずハッとした。

それは、氏の今回のピラミッド探査活動は、映像会社テレビマンユニオンが制作・放送中のTBSテレビ番組「世界ふしぎ発見」とコラボレーションしていく中での共同作業だった、と知ったからである。

テレビマンユニオンは、あの政情不安定だった1970年に、TBSの現役社員ディレクターたちが、20人ほど集団で退社して立ち上げた、日本初のテレビ番組制作プロダクションであるが、実は私も、TBSラジオから飛び出して設立に参加したメンバーの一人なのである。

「世界ふしぎ発見」という番組は、既に放送開始から40年以上も続いていて高視聴率を誇る、テレビマンユニオンの看板番組の一つとなっている。

が、この番組の放送が始まる以前に、いわばその前身とも云える海外取材クイズ番組を、同社は制作していた。それは、「クイズジャンボ」という番組で、TBSの土曜夜7時半からの30分番組、司会はマエタケこと前田武彦さん。日本人の海外旅行がそろそろ増えはじめた時代で、大きな話題を呼んだ。

そして私は、実はこの番組の企画者であり、同時に海外取材ディレクターとして、世界を飛びまわったものだ。

河江氏の講演を聴きながら、私はいつしか、私もその一員であったテレビ番組会社の後輩の方々の活躍を頼もしく思い、またそうした海外取材活動のトップバッターをつとめた、半世紀も昔の自分の日々を思い起こしていた。直接ではないが、私も河江氏の現在の研究に、僅かながら交差していたのか・・・。

私も81才-立派な隠居老人である。しかし過去の活動の名残りが、明日を拓く研究者の活動に少しでも関わりを持っている、その喜びこそ、これからの人生の拠りどころになりそうな気がする。

(東大・文 武本 宏一)