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夕食会・午餐会感想レポート

2021年4月午餐会「アジア経済の展望と中国との向き合い方」

夕食会・午餐会感想レポート

4月20日午餐会

コロナ禍への対策として東京都にも「まん延防止等重点措置」が適用されていたことから、食事会は中止となり、講演会参加者の座席にも飛沫防止用アクリル板が机の上に設置されているといった状況下でしたが、一般参加者は77名おられました。昨年まで7年間もアジア開発銀行総裁をされていた中尾武彦氏(みずほリサーチ&テクノロジーズ理事長)による“アジア経済の展望と中国との向き合い方”という講演が、私にとって非常に興味深いテーマでしたので、躊躇することなく参加させて戴きました。

中尾武彦氏は財務省時代から国際金融の専門家だったそうですが、アジア開発銀行総裁時代にアジア各国へも足をよく運ばれ、肌で感じられた内容を基にしての話でしたので非常に引き付けられました。アジアに於いては、フィリピンを初め多くの国の人々が日本に親しみを感じてくれているとの話を聞き、今後が楽しみになりました。アジアの国々が平和に徹した日本を参考に成長していってくれることを切に願う次第です。

アジア開発銀行はフィリピンのマニラに本部を置き、貧困削減、ジェンダー平等推進、SDGsその他、長期的視点からアジアの為になることへの融資に取り組んできたとのことです。今から五年前に開業した中国の北京に本部を置くアジアインフラ投資銀行とも協力する場合もあるようですが、こちらには日本は出資していないとのことでした。

心配なのは中国が軍事的暴走をしないかとの点ですが、質問に対して中尾武彦氏は、ご自分もその点が非常に心配だと仰っていました。日本の対応もぶれることのないものを堅持していかなければと改めて気を引き締めた次第です。

(京大・経 鶴谷緑平)


周到に準備された資料に基づくアジア経済の展望に関する話と中国要人との対話のご経験などから感じておられる中国との向き合い方について大変意義のある講演を聴くという貴重な時間を過ごせて有り難く感じた。

岡倉天心は「アジアは一つである」と言ったが本当はアジアは一つではなくそれぞれが独立国で地域的にも多様であり経済発展の段階も違っている。アジア開銀(ADB)が発足した頃はフィリピンの方がタイよりも経済的に発展していた。今ではタイの方が発展していると言えるがそのフィリピンも近年は新しい発展段階に入ろうとしている。しかしアジアの世紀というには尚早でまだまだ日本としてもアジアの発展に貢献できる要素があるというのは日本企業およびそこで働く人々にとって参考になる話と思う。マレーシアの指導者のように「日本を見習おう」とまでは言って頂かなくていいが日本はまだまだアジア諸国の模範になり得る国であるということは重要な指摘であると考えられる。

中国についてはアジアインフラ投資銀行(AIIB)などの件を通じて否が応でも対応せざるを得ない立場にあったと思われるが16回も総裁として訪中されて中国要人と会談された経験は実に貴重なものと思う。鄧小平の改革開放路線による社会主義市場経済のもとでの中国に発展は目覚ましく米国と覇権を争うまでになった。しかし農村と都市の格差や累進課税も相続税もない税制や地方政府と中央政府の政策の齟齬などまだまだ問題は多い。

また、対外的には拡張主義と取られかねない行動も多く、そこまで存在を強調しなくても中国は十分に尊敬に値する国であるという話は本当に傾聴に値すると思う。年号制にしても日本は中国から取り入れたもので令和という年号も萬葉集起源と言われたが実は更に古く中国の古典である「文選」の張衡「帰田賦」に遡ることが出来る。こういう事例を挙げるまでもなく日本は中国を尊敬してきたと言えるので中国がそこまで自己主張をしなくてもそこそこにやっていれば周辺諸国からももっと有り難がられる存在になれるし、中国自身が中国のためにならないことをしているというお話はズバリ言って的を射ていると思った。

私は旧関東州租借地大連で幼少時を過ごしその後も国交回復直後の技術・プラント輸出も手がけて70年以上も中国を観察してきたが「ほどほどに」という言葉はこの国の人には通じないように思う。その辺のところをもう少し中国の人々が弁えて「もう少し上手くやればいいのに」といういう講演者のお考えを中国の人々に理解してもらうにはどうすればいいかという大変重要な問題提起であると私には思えた。

(東大・理 京極浩史)