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夕食会・午餐会感想レポート

平成29年2月夕食会「地球と共存する経営」

夕食会・午餐会感想レポート

2月10日夕食会

 明快な説明に「地球と共存する経営」を理解

小林・三菱ケミカルホールディングス会長が学士会館で講演するというのですぐに申し込んだ。小林氏は経済同友会の代表幹事もしており、雑誌「財界」の財界賞を受けるなど今、経済界では一番活躍している。同友会が昨年4月で70周年になったので11月の式典では「JAPAN2・0最適化社会に向けて」という方針を発表している。今回の講演は「THE KAITEKI CONPANY 地球と共存する経営」という三菱ケミカルホールディングス会長の立場からの講演になった。

6時からの開始よりも20分ほど前に着いたらすでに小林氏はパソコンの操作をしていた。最初に三菱ケミカルホールディングスの紹介から入った。三菱化成工業が現在は三菱油化、三菱レイヨン、三菱樹脂、田辺三菱製薬など8社を統合している。しかし、小林氏は「売り上げで見ても世界で10位である。米国、ドイツの巨大企業にはまだ追い付いていない」という。

経営方針についてはX軸で利益と効率化、Y軸で将来へのイノベーションと技術、Z軸で環境や社会への貢献、の3つで行っている。3軸による企業価値の把握と四次元経営を進めていっている。そうした中で日本の企業は為替、法人税、労働法制、通商政策など6重苦に見舞われており苦戦している。国際競争力も相対的に低下しており、稼ぐ力も欧米や新興国に比べて一人負けしている。中国の企業が競争力をつけてきており脅威になっている。

さらに日本企業は事業再編の遅れで欧米に比べて低収益な事業を抱え込みすぎている、と説明する。三菱ケミカルホールディングスの事業も新しい分野に出ているヘルスケアや機能商品などは利益が出ていない、と悩みを話す。

快適社会にするためには「環境・資源」「健康」「快適」の判断基準で経営を進めていっている。次世代の有望な事業についても農業企業(アグリビジネス)、炭素繊維・複合材料、リチウムイオン電池材料など8つを上げていた。「こうした事業が利益を上げるには時間がかかる」と述べていた。

小林氏は経営者であり利益を上げることをいつも考えている。そうした中で地球と共存させてゆく経営は多難な道を歩むだろう。

今イノベーションで注目されているイスラエルに同友会のトップとして4月に訪問しており、新しい技術についても話を聞きたかった。

(東大・経 阿部 和義)


KAITEKI経営を目指す小林善光氏の講演は、氏が冒頭自ら言われたように経営者として悪戦苦闘している姿であると同時に、今後の企業活動の目指すもの、国家価値への敷衍にも及ぶものであった。

氏は心技体の充実が基本なのは企業経営も同じで、三軸による企業価値の把握と四次元経営を語られた。三軸とは、すなわち、「心」はサステナビリティー軸で、環境・社会課題の解決に貢献。「技」は、イノベーション創出を追求する軸で革新的製品、サービスを提供する。「体」は資源の効率化を重視する軸で、人材・資源・資本を活用し利益を追求する。この3軸ベクトルの最適化、最大化を図るのが企業経営である。そこから生じる企業価値はKAITEKI価値と呼ぶものであり、KAITEKI経営は独自に構築したMOS指標で定量管理が可能とされた。MOS指標を構成するのは、重大事故や重大コンプライアンス違反の発生ゼロを必達要件としたうえで、サステナビリティ―指標、ヘルス指標、快適指標である。快適指標は、より快適な生活の為の製品開発・生産、ステークホルダーの満足度の向上、より信頼される企業への努力とされている。確かに企業価値は時価総額だけで評価されるべきではなく企業の姿を総合的にとらえることが必要でる。それを定量化しようとした試みは高く評価されるべきである。かって、化学産業は、Pollution Sourceととらえられた時代もあったが、今はSolution Providerとしての役割を大きくしている。人工光合成などの先進技術で今後も時代に光を当てていくことに大きな期待を寄せたい。

現在我が国がかかえる問題は大きく深い。少子高齢化、資源・エネルギー問題、インフラの老朽化、自然大災害発生、財政問題。数え出したらきりがないくらいである。しかしその中で立ち止まり思い悩んでばかりはいられない。慧眼とすさまじいガッツを持った政治的リーダー、企業経営者の下、国民の英知と技術を結集して、こうした課題が解決に向け前進していくことを願う。

(北大・教育 牛島 康明)


三菱ケミカル小林喜光会長のご発言は特に経済同友会代表幹事になられてから、マスコミにしばしば取り上げられるようになりました。そのご発言にはどのような基本的な事項でもいつも何故かという原理原則をお示しになる傾向があり、大変納得感があり、大変注目しておりました。

今回のご講演はそういう意味では絶好の機会を与えて戴いた感が有り、思わず飛びつきました。最近は日本のビジネス業界では修正もみられるようですが、かねてより欧米特にアングロサクソン的な価値観がそれほど考察も入れられないままに語られる場面が多いと感じておりましたので、ご自分の言葉で語られる小林さんには魅力を感じました。

小林さんの場合は長いご経験のなかで考え、実践し、自らのものにされた原理原則から敷衍して理論構築し、また他者の意見や理屈にしても、こうしたご自身の価値観に照らし合わせて、先ずはいったんご自分の頭で考えて整理し、経営の実践に組み込んでいく手法を採られていると思いました。

今回の講演は10年に亘る会社でのトップとして、厳しい経営環境に取り組まれた経験をもとにお話しになっておりましたが、時に欧米と日本の習慣の違いにも触れられながらのご説明であり、大変勉強させて戴きました。

「心技体」と連関性をもたせた「3軸による企業価値」には痺れました。ただ「心」の軸に人材育成の視点をお入れになっても良かったのではないかと感じました。

自らをEvangelist(伝道者)と称されていたのも又、印象的でした。将に自ら構築した原理原則を基に経営を説いておられることが良く分かりました。
日々の仕事に追われていると、どうしてもこうした勉強の機会が無いので、時としてこうした一流の講師の方々のお話しに接することは本当に楽しいことです。

のみならず講演に出席される方々、質問される方々のどこからともなく醸し出す何とも言えぬ知的迫力に接することで、自分への大きな叱咤が聞こえるような気持ちがしましたし、また、勇気がふつふつと湧いてくるような、言うに言われぬ気持ちになりました。

四半世紀程前自分の学士会での結婚披露宴も何故か思い出され、学士会からの大きな恩恵を実感した2時間でした。有難うございました。

(東大・法 土田 毅)