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夕食会・午餐会感想レポート

平成30年2月夕食会「食の進化と共生」

夕食会・午餐会感想レポート

2月9日夕食会

ゴリラ研究に独自の境地をひらき、霊長類・人類学を通じて、人間のあるべき姿を提示し、現代社会の抱える深刻な問題点を浮き彫りにした名講演が聞けたのは、学士会ならではのことであった。

演者・山極壽一氏は、ゴリラに似た重厚な紳士で、我々の父祖の武士に似た佇まいを保っているのは、研究のためにゴリラに接近するに際し、己の人格を変革し、ゴリラ格を修得せざるを得なかったことによって、自然に身につけられたものと拝察した。我が母校京都大学も総長に、恰好の人物を選んだものと敬意を表したい。

ゴリラは、群れの仲間の中で序列を作らず、喧嘩をしても勝ち負けを作らぬ行動をとる性質があり、一方、チンパンジーや多くのサルは、勝ち負けの世界で生きるよう宿命づけられているという。

人間には自由意志が、これら動物とは格段に違う範囲で行使できるよう与えられているが、近代に至り、特に第一次大戦後、文明を飛躍的に生長させ、今や子供でもコンピュータのゲームに興じるようになった。個々の人間が本来あるべき一人前の大人に生長するのに必要な親の世話が受けられない社会、あるいは受けずにすむ社会が出現している。

そのような人達が形作る社会は、共食いまでするサルの社会に似た世界を招来させているのではないか。演者はお立場上、激越な物言いは避けられたが、ヒト科人類の将来に、鋭い問題提起がなされたのである。

山極氏の講演を聞きながら、昨今の世界強国のリーダーの言辞が、チンパンジー的発想そのものを平然と言ってのける風潮にあり、我々もそれを奇異に感じなくなっている世相は、ヒト科の危機であり、この講演を聞きながら、全く新しい啓示が我々には必要であると思料するに至った。

(京大・工 表 雄一)