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夕食会・午餐会感想レポート

2020年1月午餐会「歴史の中の台湾総統選挙」

夕食会・午餐会感想レポート

1月20日午餐会

12年前の総統選挙の直前に知人を訪ねて台湾に行き、現地で選挙終盤の雰囲気に触れたことのある小生にとっては、台湾歴史の中で考える選挙の意義についての今回講演内容は興味深く新鮮に感じた。

講師の指摘するように、先般の選挙の後に、世界80ケ国の首脳からの祝賀メッセージが現総統に届いたというのは、民主的な選挙による総統選出という明らかな事実が認知されたからにほかならない。

資料として示された、アイデンティティと国家選択に関する各種世論調査の数字により、自己を台湾人と認識し、現状維持を望むという大方の傾向は長期間の台湾の位置付けが然らしめたものと思う。

中国の脅威が続く中、統一・独立何れでもない状況を選択する傾向の是非と妥当性はさておき、李登輝元総統が司馬遼太郎氏に語ったという台湾人の「悲哀」は一部で風化しつつあるのかも知れない。

米中という両大国が台湾の存在を内政に生かすことは当然の成り行きであるが、両国の台湾総統に対する好悪の感情が外交に反映されるという観点から言えば、総統には穏健な政治姿勢が求められる。

曖昧な国際的地位・存在に甘んじている台湾にはそれなりに保証されるべき人権や自由があり、米中の狭間の総統選挙が今後続くという前提があれば、お先真っ暗で救いようがないという訳ではない。

「台湾は今後如何なるか」、「中国の武力行使はあるか」という出席者からの質疑があったが、これこそ総統選挙の歴史的意義に関わることであり、米中以外の国が画策しても効果は自ずと限られる。

多大のコストを伴う武力行使は困難という見方は当然であり、台湾が軍事面で大陸と事を構えず、経済面でも苦境に陥ることなく安定が続くよう、出来れば諸国が歩調を揃えておくことが期待される。

尚、領有後の明治から戦前に現地で熱帯病研究・帝大教育・高砂族調査・総督府勤務等に鋭意努めた祖父や親戚をもつ小生としては台湾に思いを寄せ、なにがしかの貢献をなしたいと常々念じている。

(東大・法 古川 宏)


『歴史の中の台湾総統選挙』と題した若林先生からの御講義(講演)を興味深く拝聴させていただき、ありがとうございました。お話しの中で「七二年体制」にとって北京とワシントンの「好ましからざる人物」とのかかわりあいと、「台湾独立」「中国と統一」を掲げない候補と「現状維持」の民意について六択方式で状況分析されていたことに、台湾住民の国家選択に関する態度の変遷等を明確に理解することができました。

台湾を中国から守るとの立場をとる与党・民主進歩党の蔡英文総統が再選を果
たしたことで「独立した民主主義」という台湾のアイデンティティは維持されたものとと思います。初代の民選総統は台湾民主化の父と言われた国民党の李登輝であり、そして、陳水扁(民進党)、馬英九(国民党)と歴史的変遷のとおり、中台関係の位置づけが香港趨勢を反映して、台湾住民が台湾人と考えるように目覚めた結果だと思いました。

台湾の国際的立ち位置を反映して「現状維持」の民意が定着したことは、先生がおっしゃるように、明確な結果であると思います。

(阪大・文 久我照雄)


台湾は国共内戦の激戦地金門島も訪れたことがあり、大陸のアモイが目前に見え、激戦の跡が多く残る状況が印象に残っている。また1996年に行われた台湾総統選挙で李登輝優勢の観測が流れると、中国軍は選挙への恫喝として軍事演習を強行し、米国海軍は、これに対して、台湾海峡に太平洋艦隊の通常動力空母「インデペンデンス」とイージス巡洋艦「バンカー・ヒル」等からなる空母戦闘群、さらにペルシャ湾に展開していた原子力空母「ニミッツ」とその護衛艦隊を派遣し牽制した。李登輝は大陸への反感に後押しされ地滑り的な当選を果たした。今回の総統選も当初不利を伝えられていた蔡英文が中国の香港への対応の不味さから台湾住民の大陸への反感や不安に後押しされ大勝利を果たした。李登輝が総統になってから初めて白色テロ228事件の謝罪を行い、台湾の民主化も進んだ。私は日本にとっても重要な地政学的な位置にある台湾には関心があり、今回の講演会は是非聴いてみたいと思っていた。

台湾の総統選は事前投票や在外投票が認められず、しかも戸籍地まで行かないと投票できないにも拘らず74.9%と言う驚異的な高投票率には吃驚した。やはり総統選は一大イベントなのである。講師の若林氏は「過去の総統選の経過」、「台湾住民のアイデンティティーへの意識」、「国家選択意識」の調査結果の経過等の資料を用意してくれていて非常に理解に役立った。過去7回の総統選の解説もして戴いた。2回の馬英九総統の時を除いて5回は北京の「好ましからざる人物」が当選したことになる。

台湾住民の自らのアイデンティティーをどう見ているかの調査結果の紹介は非常に興味深かった。「台湾人でもあり中国人でもある」と言う両論を排除した二択の調査では2000年では「台湾人である」が58%、「中国人である」が18%だったのが、2013年にはそれぞれ、78%、13%と、台湾人としての意識が高まっている。国家選択意識もアイデンティティー意識の変化を反映している。同様に「現状維持」を排除した二択の調査では、2007年3月では、「台湾の独立を望む」が55%、「中国との統一を望む」が25%だったのが、2013年10月にはそれぞれ、71%、18%と「独立」が増えている。2020年の今調査をすれば「台湾人である」も「台湾の独立を望む」も更に増えているだろう。

講師からは特に詳しい話は無かったが、総統選は大勝利でも議員選挙では民進党の大勝利とは言えない。民進党は過半数を制したものの、議席を7減らしたが、国民党は3増やしている。若い人は古い政党から新しい政党に流れ、台北市の柯文哲市長の結成した台湾民衆党が一気に5議席獲得した。講師は締めくくりとして国際的にはいわば「ネガ」のままに押しとめられていた台湾が「ポジ」になろうとしていると示唆しておられた。ただアメリカはこれに対して時に好感し時に持て余し、中国はその無効化を図ろうと努めている。

(東大・工 加藤忠郎)