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夕食会・午餐会感想レポート

平成30年12月夕食会「中間選挙後のトランプ政権の行方」

夕食会・午餐会感想レポート

12月10日夕食会

久保文明教授の講演「アメリカ新大統領と今後の日米関係」から2年が経った。イデオロギー・マイノリティ等の政治・経済・宗教・文化的側面が交錯した多様性を持つ独特の国柄に関し、評論・解説に触
れる度に深奥を覗くが如き心地がする小生にとって、今回の『中間選挙後のトランプ政権の行方』は甚だ関心のある演題であった。

率直なメッセージで際立って見える個性的な大統領の存在が全世界に直ちに伝播するというダイナミックな宣伝効果がある中で、下院は民主党が制し上院は共和党が過半数を超えるという先月行われた中間選挙の洗礼を経て、毀誉褒貶の中で「毀」と「貶」が突出しがちな大統領の今尚、意気軒昂な姿には米国の懐の深さを感ずる。

他国が模倣・追随することの出来ない米国政治の状況を連邦公務員として間近に観察されて来た講師ならではの指摘の中には、911後の情勢変化による米国としての包容力の欠如があった。自信喪失と排外主義が911が生んだ結果であるのならば、現在の状況が20年近く前から続いて来た大きな流れであることを再認識した。

初の黒人大統領のオバマに綺麗事が多くとも余り触ることの出来ない雰囲気が当時のワシントンにあった一方、同政権時代には支持率が低かったオバマケアが現政権になって以来支持率が急上昇したというデータの紹介に、制度の理解には時間を要するとする、講師のオバマケアへの実務面からの賛同の思いがしんみり伝わって来た。

中間選挙に関する様々なデータを取り上げた説明の中で、同選挙で野党勝利の三州(ミシガン・ペンシルバニア・ウィスコンシン)のうち、現大統領が一州でも勝利することが再選の鍵となるだろうとの見立ての背景には、共和・民主大統領候補の毎回勢力伯仲の状況があり、次回の選挙も接戦になることが予想される。

現大統領の「アメリカ第一主義」は、何れにしても大国としての自信に満ちた方針表明である。前政権からの流れである「世界の警察官・調整役の座を捨てる」ことから一歩進んで、米中間の摩擦さえも意に介しないという姿勢は大きな変化であり、日本のような親米国家がこの対応を間違えれば、災難となるのは当然のことである。

トランプ現象と言われた、政党としての規律・一体性と矛盾する予測不可能な言動が米国の利益に結びつくという見込のもとに一定の支持を得て再選される運びとなるのか否か、また、アジアに限れば米中衝突と北朝鮮問題の対応が今後2年の注目点である。安保体制上、日本の対米関係重視の姿勢に当分変化はない筈である。

尚、TIME最新号(12月17日)に掲載されたブッシュ(父)元大統領の追悼記事では、彼の愛国心の出発が1941年の日本の真珠湾攻撃だとしている。現大統領がかつて経済的苦境にあった頃、日本人との交渉で苦労したという話は或る雑誌で読んだことがある。首脳同士の原体験が積み重ねられた日米関係の更なる発展を期待する。

(東大・法 古川 宏)


中林美恵子氏の講演は、アメリカ中間選挙の結果分析からアメリカの底流でうごめく動向をつかみトランプ再選を占うものだった。ラストベルトでの中間選挙結果がミシガン、ウイスコンシン、ペンシルバニアで共和党が敗北したことは、再選を目指すトランプ氏が巻き返すために今後の日米貿易交渉にも強い影響を及ぼすことは大いに予想される。

プアホワイト層の不満が爆発したようなトランプ大統領実現であったが、TVショー的トランプ氏の日々の動向が世界を混乱させ困惑させている。アメリカはもはや世界の警察官ではないという前大統領の発言から、アメリカは中国を始めとした貿易相手国に搾取されているという認識に進んだ国民感情は、今後も当分変わることはないだろう。トランプ氏は大統領就任演説で「すべての決定はアメリカの労働者と家族の利益のために下されます」と述べたが、この路線でアメリカ―ファーストが進められている。しかし自国の利益が一番はだれもが認めるところだが、グローバル化の進展の中で、世界の国々がお互いに支え合い助け合わないと、結局自国にも悪い影響を及ぼすことも自明の理である。自国民の利益の獲得にのみ突き進む結果が領土と食料の奪い合いになることは歴史が教えてくれている。我が国も遅ればせながら帝国主義の道を進み、その結果今だに隣国諸国と軋轢が絶えない。国が行う政策は現世代に影響を及ぼすだけでなく次世代、次々世代にもつけを回すことになることをよくよく考えておかなければならない。正に国家百年、二百年の計である。

今後世界の人口は増え続け、食料や水が不足すると言われている。気候変動も想像を超える激しさである。ますますひどい目に合い食えない人々が増えていく。その時の世界は生存をかけた戦いになる。その前にあまりに偏った富の再配分を世界で協議する場が必要だ。悩める超大国アメリカ。建国以来「自由・平等・個人主義・民主主義・法の支配」をアイデンティティとしたアメリカである。今回の中間選挙では女性議員やヒスパニック系議員が増え、ネイティブ系の議員も誕生した。移民国家、多民族国家を束ね、真の世界観を持った大統領が選出されるように、アメリカ国民の良識に期待する。さらに日本政府の方針が日米同盟を基軸としたアメリカとの良好な関係の下、米中の軋轢を和らげ、世界が法秩序の支配下に置かれるよう努めることを見守りたい。

最後に中林氏は、アメリカで政府の仕事をされ、生活されただけにアメリカ人の心情を良く理解されているように窺えその点も大変興味深かった。

(北大・教育 牛島康明)


私事であるが、30年近く会員でいたが年金暮らしで経済的に不如意になり退会を決めた。会費を払い続けてきて今まで会員としての機会を活用したことがない。上京時に都合が合う今回の夕食会に参加した。

議会も政府の機能を構成する一員として役割を果たす米国の政府と日本との違い。議会の専門委員会で働くstaffは公務員であるが、はじめに共和、民主いずれかの党に属してから雇用されること。民主主義を透徹して厳密に運用するだけに、選挙の結果はただちに自分の雇用に跳ね返り、「民主主義は厳しい」と身を持って経験した実感。

トランプ大統領の予測のつかない、時に差別も敢えて口にする特異な言動。マスコミあるいは個人的な反発は強いが、国際協調や人道的という正道の議論では言い出しにくい、しかし有権者の本心を代弁してくれる政策を選挙公約通り打ち出す。共和党内でも多くの反対者があるにもかかわらず、それでも大統領について行くのは、その政策の根幹に共和党保守本流の志向に沿ったものが多く支持を得る素地があるからであること。次期大統領選挙に向け、トランプ大統領が重点的に対象とするであろう選挙民、選挙地区を定量的に指摘。これらを明快に提示した。

トランプ大統領の成功で、ブラジルやフィリピンなど米国内だけでなく国際的にミニトランプ流が出現し、欧州ではポピュリスト政党が躍進している。今後の世界にどのような影響を与えるだろうか、質問して見解を聞きたいと思った。比較するには全く場合が異なるが、かってヒトラーが初期に躍進していた頃、ミニヒトラーが複数の国で出現した。後年、戦争や非人道的所業に突き進むが、当時はインフレの克服、国家財政の再建等評価される向きもあった。

常に新たな人材が流入し、社会層間の軋轢と矛盾を引き起こしながら、一方で国の活力のエネルギー源として作用する多民族国家、米国の内側からの姿を改めて把握した。

今まで会報で各講演内容を興味深く拝読してきたが、今回初めて講演に臨場し拝聴した。明快でわかりやすい講演と人柄に興味深く聞かせて頂いた。また講演前に参加者一同で食べる料理もシェフが作るだけに消化の良い食べやすい食事でおいしく頂いた。

地方在住ということもあるが、今まで参加しなかった一因に自分が参加するには?と、敷居高く考えていたこともあった。同じ性向の人は一定の割合でいるものと思う。わたしはもうすぐ退会するが、同じ考えをもって会費を払うばかりの方には、一度ぜひ参加し会員の権利を活用することをお薦めする。

(東大・工 亘理文夫)