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夕食会・午餐会感想レポート

平成20年12月夕食会「100周年を迎えた日伯関係の将来への展望」

夕食会・午餐会感想レポート

12月10日夕食会

ブラジルへの日本人移住者とその二世、三世の百年に及ぶ歴史的経過と現在の具体的な情況を明快に紹介された二宮サンパウロ大学法学博士教授の講演を興味深く聴講した。1988年以降のブラジル日系人およびその非日系人配偶者の日本在住、就労の増加に伴って生じた問題も講演の主要課題の一つであった。これらの人々は1991年の入国管理法改正後、急激に増大し、現在31万7千人が主に東海地方各県などに居住し、就労している例が多いようである。一方、ブラジル国内では、今や海外で最大の日系人社会が形成され、その人口は、約150万人になるとのことである。したがって、その中の約2割の人が、かつての故国日本にきて生活していることになる。しかし、必ずしも現代の日本の社会に融け込めずに生活上の困難や、時には犯罪発生などの問題もあるようである。

なぜ、ブラジル日系人家族が多数日本に在住するようになったのか。入管法改正とは別に、概していえば,ブラジル国内および最近のわが国内双方の事情によると思われる。ブラジルに限らず、北米カリフォルニアやハワイにも多数の日本人移住の歴史がある。太平洋戦争前、アメリカ合衆国では、一時期、排日的な政策がとられ、また、戦時、日系人は強制的に隔離収容された。そのような苦境にもかかわらず、今日、合衆国の日系人は確固たる基盤を築いて生活するようになったといって差し支えないであろう。日系人の多く住む地域がロスアンジェルスなどに形成されているが、彼らは2世、3世と代を重ねるごとにアメリカの社会に融和しているように思われる。それは、以前の日系人に対する不当な圧迫改善への日系議員の努力の効果などもあろうが、なにより、戦後の日米両国の緊密な関維持によると考えられる。一方、ブラジルではどうであろうか。二宮教授の講演によれば、ブラジル日系人は各界で活躍する有力者も多くなり、社会的な地位も確立されているとのことである。ただ、ブラジルの国情は、各種産業の近代化、高度化が進んでいるものの、中南米金融危機とか、すさまじいインフレに見舞われるなど、不安定な要素もあり、それらが、日系人の生活にも影響し、日本への就労を促したことの背景にあるかもしれない。
では、受け入れるわが国の情況は如何。今や少子化、高齢化の時代である。様々な業務の担い手として、アジア諸国などから他民族の就労も受け入れなくてはならない情況にある。ブラジル日系人家族の日本就労も円滑に行われ、彼らの生活が安定するように努めるべきではなかろうか。二宮教授の講演中、「日本は、少数者を救うような社会ではない」という言葉が気になった。今こそわれわれ日本人は、秩序ある平和の維持を第一義として、大きな視野をもって、これら海外からの人を受け入れ、諸外国からも尊敬される、包容力のある、たくましい国を構築していかねばならないと思う。

(東大・農、後藤富士雄)