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夕食会・午餐会感想レポート

2019年11月午餐会「はやぶさ2~深宇宙探査技術の最新動向」

夕食会・午餐会感想レポート

11月20日午餐会

数々のトラブルを克服して「イトカワ」から無事帰還した「はやぶさ」のことを当時のプロジェクトマネジャーだった川口淳一郎氏の講演で聴いたことがある。中和器が壊れたら、もう地球には戻ってこられないので、「中和神社」と言う神社に神頼みしたと言うようなことも話されていた。「神頼みは、自分たちは本当にやるべきことをやり尽くしたのか?という自己点検になった、本当にやれることは全てやり尽くしたうえで願を懸け、それで運を拾えたとすれば、それが御利益なんだと思います」と仰っていた。そのような訳で「はやぶさ2」の津田雄一氏の講演は是非聴きたいと思っていた。

「はやぶさ2」のプロジェクトマネジャーの津田雄一氏は軌道設計の担当をされていた由。「はやぶさ2」は2014年12月3日に打ち上げられ、小惑星「リュウグウ」に到着したのは2018年6月27日。津田氏の誕生日は6月26日で、「あえて1日ずらした」と聴衆を笑わせた。地球から2.4億km離れた「リュウグウ」から11月13日に出発して来年11月から12月には地球に帰還すると言う。何故「リュウグウ」なのか?「リュウグウ」は炭素と水が存在する星で、地球の生命は隕石から持ち込まれた炭素と水が地球の環境で育まれ生命が誕生したと言う説が有力であり、「リュウグウ」からサンプルを持ち帰れば生命の起源や地球の歴史が解明できるだろうと言う理由なのだそうだ。また地球のようにマグマが無い小惑星は物質がそのままの状態で残っているため大昔の太陽系の歴史も分ると言う。

探査技術には単に近くを通り過ぎる「フライバイ」、周囲を回る「周回」、「着陸」、「サンプルリターン」と言う順番に難しくなるが「はやぶさ1」も「はやぶさ2」もこの最も難しい「サンプルリターン」を達成している。アメリカもそれを試みているがすぐには追いつけないだろうとのこと。サンプルを採取するには着陸しなければならないが、着陸するために十分な平らな土地が無いことが分かった。着陸精度は±50mだが、平らな土地は直径20mだった。そこでターゲットマーカーを投下してそれを追跡する機能を用いてタッチダウン(着陸)することに成功した。穴を掘り起こしてサンプルを採取したのは地下の状態を調べるため。凄いのは二度もタッチダウンして地下物質を採取できたことである。この記録は20年間は破られないだろうと自慢されていた。

講演後の「はやぶさ2」の成功の要因の質問に対しては、過去の失敗の経験を参考にして信頼性の向上に努めたことが50%、新しい挑戦が50%と答えておられた。次に何を考えているかとの質問に対しては、火星には2つの月があるが、その一つに探査機を飛ばすことなどを考えているとのこと。帰り際に、川口淳一郎氏の講演を聴いて感動したと津田氏に話をしたら、川口氏は直属の上司でいろいろ教えて戴いたと仰っていた。

(東大・工 加藤忠郎)


完璧なミッションの成功を一技術者として誇りに思う。

イオンエンジントラブルを克服しつつ劇的に地球に帰還し映画にも描かれた「はやぶさ初号機」に対して、幾多の困難な課題を一見さしたる問題もなく予定したミッションを遂行し、後は無事な帰還(サンプルリターン)を待つだけとなっている「はやぶさ2」の成功のポイントは何か?「プロジェクトリーダーの講師を含むJAXAスタッフ及び関連技術者の適格な計画と判断だったのか?」と尋ねたところ、講師は「初号機に起こったトラブルの原因と対策を徹底的に究明し対応した総合結果である」と謙遜と安堵の気持ちを滲ませつつ答えられた。

太陽系の小惑星の多くは地球と公転軌道が重なるので、地球と衝突する蓋然性があり、地球生態系にとって危機を生み出す可能性がある。一方、地球の万物の営みに恩恵をもたらす水等を構成する多くの元素を小惑星の衝突の結果であるとの仮説がある。その意味で小天体「リュウグウ」への到達・着陸と地下サンプル採取成功は我が国のみならず世界の生命科学を含む科学者等が待ち望んだ成果といえる。

ミッションの基礎となるイオンエンジンの進化の詳細な説明があった。イオンエンジンはマイクロ波により推力を発揮するエンジンであり、ロケットエンジンより数段高い燃費・軌道変換能力を有する。「はやぶさ2」の機体は比較的軽量に作られているため、他のJAXA衛星のイオンエンジンと比しても効率が高くなる。イオン生成はJAXA宇宙科学研究所において「はやぶさ初号機」に比して更に寿命・性能を向上・改良されたマイクロ波放電方式が用いられた。

「はやぶさ2」から分離された探査段階で用いられた着陸船ミネルバⅡ-1はJAXAと国内各大学との共同プロジェクトとして実施され、探査機MASCOTはドイツ航空宇宙研究センター及びフランス国立宇宙研究センターとJAXAの国際協力共同開発で行われた。

「はやぶさ2」は講師が謙遜される以上の成功である。それは、上述に加えて「はやぶさ初号機」では未完であった小惑星探査の本格実現における課題の調整と克服があるとともに、着実な技術研究・能力の継承が確認された。それらは宇宙技術の比類ない進歩に道を開くものである。

講師としてあるいはJAXAとして、「はやぶさ2」に続くミッションへの期待を尋ねた。「いくつかの基礎技術の進化とともに火星の二つの衛星のどちらかを目指したい」との回答だった。「太陽系の生態系生成の秘密が更に深くわかる。これまでのJAXA等の技術評価の上で、他の宇宙先進国も目標としている火星本体も目指してほしい。」と素人的期待を込めつつ申し上げた。講師には更に秘めた宇宙への期待があるかもしれない。

30余年前、合併JAXA成立前に種子島宇宙センターのロケット打ち上げ基地を訪問したことを思いだす。個人としても宇宙への夢は拡がる。

(東大・工 上林 匡)


津田雄一先生の講演『はやぶさ2―深宇宙探査技術の最新動向』を伺って感動し、心強い思いをしました。

ミッションは、3億㎞先で太陽を廻っている、反射率3%の小惑星“りゅうぐう”に探査機“はやぶさを2”を送り込み、それを周回し、2度も着陸して小惑星のサンプルを採集する。後は地球への帰還とサンプル回収が残っているが、まさに、現代日本の科学技術の粋を集めた結晶のようなプロジェクトです。

弱冠44歳でプロジェクト・マネージャーを勤められる津田先生は軌道計算が専門とのことでしたが、宇宙空間に行った探査機をどのタイミングでどの方向に、どのくらいの力でロケットを噴射するなどを、相手の小惑星の軌跡をにらみながら微妙な計算をして軌道を決定し、指令の電波が届くのに20分もかかる遥か彼方で、正確に制御してミッションを完成させられました。なおかつ、600人にも及ぶ他分野の方々をまとめ上げられ、緻密かつ大胆な頭脳の持ち主に違いないと畏敬の念を抱きました。なお、私にも軌道計算を勉強したという知人がいましたが、今日のお話で、その人も優秀な脳ミソなんだなと、認識を新たにしました。

私はいわゆる団塊の世代に属し、人類の宇宙界開発の歩みは、まさに自分の成長とパラレルでした。小学校3年生の秋に初の人工衛星スプートニクをソビエト連邦が打ち上げ、中学1年生の春にはガガーリン少佐の有人衛星です。アメリカのアポロ計画の時期は予備校に通っており、アポロ9号の月周回計画がうまく行ったら志望校に合格するにちがいないと、変な願をかけたものです。事実、大学入学後の7月に11号が人類を初めて月に送り込み、そして、子育ての時期はスペースシャトルで、その都度、興奮しながらテレビのニュース画面を追ったものです。

しかし、いつも違和感と悔しさがありました。米ソの科学技術を見せつけられるだけで、日本の存在は全くありません。高校時代、ラムダロケットでの人工衛星打ち上げの実況中継の校内放送を、手に汗を握りしめながら聴き、失敗でがっかりした思い出があります。幸い、私が大学に入った頃からはうまくいくようになり、今では当たり前のことで、気象衛星や通信衛星など、日常生活にも欠かせないものになりました。また、惑星探査機も打ち上げており、そのとりあえずの到達点が、津田先生の“はやぶさ2”です。ある分野では、アメリカにも先行しているとのことで、よくぞ日本の宇宙科学技術もここまで来たものだと、頼もしく思います。

かつて、アメリカ東海岸に滞在中には、ケネディ宇宙センターやゴダード研究所などNASAの施設に見学に行きました。Tax Payerに巨額の国家予算の成果を見てもらうための広報だそうです。以前は、JAXAも丸の内のオアゾに展示室を開いていましたが、事業仕分けで閉鎖されたのは残念なことです。

JAXAはこれからも火星の衛星探査など、次々と新知見を求めて、その時々の最新テクノロジーを駆使して宇宙開発を推進していくことでしょう。どうか、私たちにも分かり易い形で、その成果を示し続けて下さい。

(名大・医 小長谷正明)


大変興味深いお話し、ありがとうございました。テレビで拝見している方から直にお話しをうかがうことができて感激いたしました

お話をうかがい、はやぶさ2が他の国の探査機と比べて極めて軽量なこと、高精度なタッチダウン、サンプルリターンの難しさや意義など日本の技術の素晴らしさを改めて理解することができました。

はやぶさ2がホームポジションにいる場合でも、おそらく太陽の輻射で位置がずれていくと思いますので(はやぶさの1号機では、確か姿勢の安定に利用したとうかがったことがあります)、これに限らず、日々の運用でのいろいろなご苦労についても、もうすこしうかがいたく思いました。

なお、隣の小惑星までの距離についての質問があったかと思いますので、少々考察させていただきます。P4の図がだいたい6億キロメートル四方だとして、この中に約79万個の小惑星があるとすると、小惑星1個あたりの平均的な占有面積から半径を算出することができ、隣の小惑星までのだいたいの距離がわかります。約70万~80万キロメートル程度(地球、月間の2倍程度)になると思われます。小惑星は軌道傾斜角が大きいものも多いと思いますので、もう少しまばらにはなると思います。月の半径、約1,500kmから考えると、直径1km程度の小惑星は、月の1/6000程度の大きさに見えることから、おそらく点にしか見えず、恒星と見分けがつかないと思いますが、地球から見る小惑星と比べて距離が近い分、明るく見えると思います。また、約79万個の小惑星はある程度平面的に存在していると思いますので、リュウグウからは、他の小惑星は、明るい天の川のような感じに見えるのではないかと思います。大変大雑把な考察で申し訳ありません。

(東大・理 河合正人)