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夕食会・午餐会感想レポート

2019年11月夕食会「防災・減災を目指した考古学の新たな挑戦~災害痕跡データベースの構築」

夕食会・午餐会感想レポート

11月8日夕食会

30年ほど前、名古屋に居たころ、日本三津と言われる「安濃津」らしき古い港が見当たらず不思議に思った。やがて津市の沿岸部に痕跡があること、地震の津波で壊滅したらしいことを知った。それ以来、「災害史」を調べれば伊勢湾の防災に役立つと名大土木の先生に進言したものの、なかなか難しかったのであろう。最近は、東北震災の津波で、寺の古文書や御堂の位置、石碑などで、かつての津波遡上高がわかると着目し始めた。今回の奈良文化財研究所 埋蔵文化財センターの村田先生のお話は、文化財発掘調査で地中に残る痕跡や地層、文献から、災害の時期と範囲をデータベース化することで、現在の災害予測や防災・減災に生かす試みが広がりつつある、とのお話であった。

埋蔵文化財調査は、先生もお話しされたように地道で大変な作業で、全国市町村や教育委員会の方々(先生は普通のオジさんオバさんと言っていたが)の努力と紹介された。私は公共土木に長く携わったので、予定地に埋蔵文化財が出ると、普段ブルドーザーやショベルで土工を行うのが、スコップとハケの作業(オバさんが多かった記憶)になるから、その大変さを別な意味でも感じていた。先生がお話になられたように、(近代)土木は明治以降のもの、データがあるのは高々100年程しかなく、数百年単位で起こる自然災害に全くデータ不足である。こうした歴史遺産というか、歴史の痕跡を探す作業が必要なのだが、なかなか人材や予算で苦労されるようである。土木の専門家は古文書を読めないし、文化財調査にほとんど無知である。文化財調査の方も土木や自然災害に疎いので、この分野はまさに境界領域である。私もことの重要性に共感したが、会場からもぜひ予算を取ってもらいたいと意見が出た。冒頭、村田先生が、文化財調査をしている歴史の連中から、妙なことをやっていますねと奇異に見られる、との紹介があった。しかし、日本は世界に冠たる災害列島である。地震、津波、火山爆発、洪水、台風が全国を襲い、地域に大被害をもたらしたり、時に政権を揺るがしたり、大事変をもたらす。幸いにして当日配られた資料を読むと、データベース化のみならず、地質学の専門家と連携し、こうした災害の痕跡を容易に判定するマニュアルつくりや、火山噴火予知協議会との協力・連携も進んでいることを知った。また、三重県の「阿濃津遺跡」についても1997年に津波災害の痕跡調査がされていることを知った。ぜひ村田先生にはこの分野の学問(「地震考古学」「災害考古学」「地質考古学」と一定していないようだが)を保守本流として広め、深めて、ご活躍いただくことを願うものである。

最後に、私は、モロッコはジブラルタル対岸(スペイン領)ぐらいしか知らないが、当日出されたモロッコ産「海の幸クスクス」は思いがけずおいしくいただいた。クスクスのイカやタコを噛みしめているうちに、そういえばポルトガル領マディーラ諸島とスペイン領カナリア諸島がモロッコ沖と、地域の複雑な領土関係を思い出し、これも大航海時代の歴史の痕跡と、マディーラ島西岸の絶壁から見た大西洋の大海原がふと頭に蘇えった。

(東北大・工 宮地陽輔)