文字サイズ
背景色変更

夕食会・午餐会感想レポート

平成28年10月夕食会「リチウムイオン電池 現在・過去・未来」

夕食会・午餐会感想レポート

10月11日夕食会

吉野彰先生の講演のテーマは「リチウムイオン電池 現在・過去・未来」であった。

講演は、シンガーソングライター渡辺真知子のヒット曲「迷い道」の歌詞で始まり、車社会の近未来を予告する衝撃的な内容で締めくくられた。まさに先進企業の研究所で新製品の開発に当たってこられた極めて優れた技術者であり、柔軟で多様な発想をお持ちの方という印象であった。

リチウムイオン電池(LIB)の開発には、携帯電話やノートパソコン、デジタルカメラなどの電子機器を携帯可能な大きさにするために、従来のニッケル水素電池では限界があり、高容量・小型・軽量で充放電可能な新たな二次電池のニーズが高まっていたという背景がある。LIBは正極材量が1980年にアメリカで開発され、1985年にはLIBの原型が吉野氏らにより完成された。1991年には商品化、1995年には市場拡大、2001年にはIT変革を背景に特許出願の最初のピークを迎え、2010年に同出願件数がさらに大幅に増加している。性能が急速に向上し、コストも大幅に下がるにつれLIBの需要は高まりその市場は拡大した。1997年には2,000億円であったが、2011年には1兆円規模に成長した。また用途も電子機器から自動車用へと向かい、2009年には本格的にハイブリッドカーに利用され始めた。ただかって9割以上のシェアを誇った日本は、今日では早くも中国、韓国の後塵を拝している。LIBは充放電が可能な電源として電子機器を小型で携帯できるようにしたが、今後地球規模での環境問題の切り札として期待される電気自動車への搭載も急ピッチで進められている。世界中の人々の生活、ビジネスに多大な影響を与え、生産性向上、生活の質的向上に大変革をもたらした新商品誕生の裏にLIBの存在があるわけだが、緊急の課題として更なる安全性の向上がある。不良化率100万分の1とされているが、携帯の発火などは重大な事故につながりかねない。今後電気自動車への利用が進めば安全性への要求は更に高まる。世界中の多くの優れた研究者のたゆまぬ研究の集積が今日のLIBを生んでいるわけだが、吉野先生に続く多くの研究者達が、迷いながらもより品質の高い製品を開発していく様に、今後の活躍を願うと同時に、日本はこの分野でも世界のトップランナーでいて欲しいと思う。

(北大・教育 牛島 康明)


リチウムイオン電池の技術開発に関連し、タテ糸(現在・過去・未来)と、ヨコ糸(テスラ、自主運転、地球環境など)から観た、専門家としての講話、大変興味深く拝聴しました。特に、中国がEVで急速に市場規模を伸ばしてきている事実に驚かされるとともに、テスラ、アップル、グーグルの未来戦略への我が国の立ち遅れに焦燥感を抱きました。

リチウムは地球上に偏在し、ボリビアやチリなど南米大陸で多く産出するほか、中国奥地の塩湖で、その埋蔵量には膨大なものがあると聞きます。中国は自国内に偏在する資源の価値を、EV生産で先手を打つことで、より高める国家方針に違いないように思います。

また、新しい技術革新で新しいサービスを開発する先導役として、EV生産を手掛けるようなベンチャー企業を国や地方政府が陰に陽に支援しています。 新技術や新サービスは、今の先進諸国を一気に追い抜ける蛙飛び(frog-jumping)を可能にし、中国の国際的位置を急速に向上させることが分っているからだと思います。ベンチャーの起業率は今や米国を抜き、これを支援するベンチャーキャピタルの資金規模は、米国に次いで世界2位にまでなりました。尖閣や南シナ海で起きている軍事力のようなハードパワーだけでなく、技術、サービス、ベンチャー、経済といったソフトパワーで力を付けています。

翻って、日本はどうか。お寂しい限りの所がありますが、少なくとも、昨日の先生の講話や、上記のような指摘が様々な媒体を通じて、我々日本人の目に、耳に幅広く、深く入ることが大変重要だと思います。

テスラ、アップル、グーグルについては、新聞、雑誌、インターネットに情報が溢れていますので、この場での感想やコメントは省略します。

(東大・法 安村 幸夫)