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夕食会・午餐会感想レポート

2019年10月夕食会「認知症への先制医療~その課題と展望」

夕食会・午餐会感想レポート

10月夕食会

秋山治彦先生のご講義は、自分自身の今後の問題としても大変興味深い内容でした。また超高齢化社会の到来を現実のものとする我が国にとっても、その対応は大変重い課題であることは言うまでもありません

我が国における認知症者の数は、現在で500万人、2025年には700万人に達し、65歳以上の高齢者の5人に1人を占めるとさえ言われています。

まず認知症とは病気ではなく、アルツハイマー病、脳血管障害などの病気による脳の基質的変化により日常生活に支障が生じる程度にまで記憶機能、認知機能が低下した状態をいうことを認識しました。

次に認知症は歳を取ればだれにでも起こりうる状態ですが、実際の症状が現れる十数年前から徐々に進行していくと言われています。このため認知症と認められる状態になってからでは予防対策は極めて困難となるのが現状のようです。これは脳の神経細胞が一度壊れたら再生させることは現在では不可能なことだからだそうです。認知症を引き起こす原因の5割くらいはアルツハイマー病で、その主要な要因は、脳萎縮およびアミロイドβ蛋白(Aβ、老人斑)とタウ蛋白の蓄積によるとのことです。Aβを標的とする根本治療薬の開発やタウ蛋白に対する治験薬開発も始まっているようです。

ただ未発症か軽度認知障害の段階でアルツハイマー病の正確な診断をつけて治験薬開発を行うには、がん克服に要する費用の数倍もの莫大な費用が掛かるので、大手製薬会社も開発から撤退する例があるほどです。このため公的資金を投入して官民パートナーシップを基盤にした開発推進が始まりました。治療薬開発の想定するゴールは、いうまでもなく認知機能低下進行の抑制にあります。高齢者やその家族の日々の営みのQOLを維持することが重要なので、こうした薬の1日も早い開発が待たれています。

認知機能低下予防方法としては、バランスの良い食事摂取、高脂血症・高血圧症などの生活習慣病のコントロール、ウオーキングやフィットネス等の適切な運動、社会交流や趣味活動、禁煙、難聴にならないことなどがあげられています。要するに体調をいつも良好な状態に保ち、やることが沢山ある状態を維持して、頭を使い続ける日々を過ごすことが大事なようです。

私もあと1年余りで古稀を迎えますがまだまだ老けてはおられません。ただ今後身体全体が少しずつ劣化していくことは避けられませんので、月並みですが「教養(今日用がある)と教育(今日行くとこがある)」をますます大事にして、趣味である登山や畑仕事それに一番の楽しみである孫の相手などで毎日の生活を楽しく充実したものにしていきたいと思っています。そしていずれ人に迷惑を掛けない穏やかで静かな呆けかたをしたいものです。

(北大・教育 牛島康明)


アルツハイマー病は、タウタンパクの神経原繊維変化及びアミロイドβタンパクの蓄積による脳細胞の破壊が原因とされる。前者は脳病変の約10年前、後者は約20年前から始まっていることがマーカー蓄積の確認(この確認は、病変の確認が患者によって異なるので、必ずしも正確ではないが、)から一定程度分かっている。従って、認知症が発症する前の軽度認知障害の段階から、治療を開始しておくことには効果がある。

アルツハイマー病患者に進行抑制のために処方されるアリセプトやメマリーは病態の根本治療を目差した薬品ではなく、それぞれ副作用は報告されている(質問アリ)。

WHOが推奨する①バランスのとれた食事、②適度な運動、③他人とのコミュニケーション、④生活の達成感、⑤知的な生活態度、⑥非喫煙、⑦飲酒の節制等は認知症の根本原因の抑制に効果があるかどうか証明されていない。しかし、健康確保に関する重要な要因なので、アルツハイマー病防止対策としても望ましい対策ではある。現在のところ、冒頭に記したアルツハイマー病の根本要因の発生原因は必ずしも解明されていないので、如何なる生活習慣等がアルツハイマー症の発生の原因かは未解明である(筆者質問)。

現在80歳を越える筆者の実母は30数年前にアルツハイマー症を発症しつつ家族のもとに同居していたが、現在は高齢者介護施設に入所しており、時折病気の症状を呈しつつも表面上は健やかに生活している。尊厳を持った生活が送れることを祈るばかりである。

アルツハイマー症の原因を踏まえた根本治療薬の研究(薬品開発)は続けられているが、母がその恩恵に浴することはないだろう(残念ながら、筆者も別途、脳のラクナ梗塞があるので安泰とは言えない。)。

根本原因の要因が未だ不明の中で、長寿が認知症の原因であるという冷厳な評価もあり得る(新オレンジプラン2060年時点で1154万人;有病率上昇推計)。人類の医療の進歩は多くの病気を克服してきたので、将来いずれかの時点でこの病気の根本治療が達成されることを祈る。各種課題を念頭に置いた臨床施設間のコンソーシアムの取り組みに期待したい。

(東大・工 上林 匡)