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夕食会・午餐会感想レポート

2020年9月夕食会「チバニアンの全て~最後の地磁気逆転とチバニアンの誕生~」

夕食会・午餐会感想レポート

9月7日夕食会

古地磁気学が専門の方々とは60年前から日本地球電磁気学会の研究会でご一緒してきたが、時間帯が異なる電離圏・磁気圏のセッションに参加する者には、じっくりお話を伺う機会が中々なかった。ところが幕張メッセで毎春開催される日本地球惑星科学連合と米国地球物理学連合との合同集会の見学ツアーで、2年前に市原市養老渓谷の「千葉セクション」を訪れるご縁を頂いた。Seeing is Believingである。今まで素通りしてきた古地磁気に興味を抱いた矢先、チバニアンGSSP(国際境界模式層断面とポイント)提案チーム代表を務められた岡田誠茨城大学教授の講演が計画されているのを知って駆けつけた。「3密対策」について度々電話で学士会事業課にお尋ねした後で・・・

一番興味を持ったのは物理的素養がない人に、どうやって難解な地磁気逆転を短時間で説明するかにあったが、ここは「地磁気逆転ありき」でバイパスした。先ず地質学とは何か、それは時間軸場を過去へ移動できる唯一の学問であること、海底堆積物の分析が如何に重要か、堆積物の中の磁性粒子の配列からその時代の地磁気の方向と強度が推測できることなどが示された。続いて、地質年代の「境界」を規定するために選ばれる世界の1箇所だけの場所であるGSSPの説明に移り、これに選ばれるには、豊富な化石、良好な保存(将来においても!)が求められ、今までは欧米諸国(特に地中海沿岸)と中国に集中していたこと、今回のチバニアンで初めて日本の地名が審査対象として登場したが、これは前期更新世と中期更新世との境界であり、丁度、地磁気の逆転期にあたると見られるので千葉における古地磁気完全記録がイタリアの2候補地との競争で威力を発揮したことが説明された。

これらの解説に併せ、堆積物に地磁気が記録されるプロセスや、フィールドワークでの標本採取や分析の手順も詳しく説明され、学生実習に加わっているような気分になる。最後の、イタリア2候補との競争に打ち勝つ内幕も、渦中の人だった岡田教授ならではの興味深い実録で、米国等の国際研究者の支援も大きく寄与したことを知った。限られた時間の中で、まだスパコンシミュレーションでしか実証されていない地磁気逆転の可能性を、早くも20世紀初頭に示唆したベルナール・ブルン、それが何度も起きていた可能性を指摘した松山基範京都帝大教授も紹介され、養老渓谷も含めて房総半島全体が地層の宝庫であることも力説された。

ただ時間配当が難しいが、千葉セクションのGSSP申請タスクチームが結成される20年も前から、これを前期―中期更新世境界のGSSPに、と動いた先駆者たちの顕彰と、その貴重な報告が、世界の多くの研究者が閲覧する学会誌に載らなかったために出遅れたという貴重な教訓にも触れて頂きたかった。

(京大・理 徳田八郎衛)