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夕食会・午餐会感想レポート

2020年夏期講演会「現代社会のストレスにどう対処するか」

夕食会・午餐会感想レポート

8月27日夏期講演会

久保九大総長は心療内科医であり、その経験に基づき懇切丁寧に講演がなされた。私は大学では原子力工学を専攻し、通商産業省(澖経済産業省)に入省した国家公務員だが、有給休暇等を活用して「精神保健福祉士」資格を取得し、退職後の職場においてハラスメント対策事業の企画にも携わった。

先生の講義は現代社会のストレス研究の実学として興味深いものだった。

戦後75年を迎えた本年、まさに太平洋戦争をやむなく戦った先人たちのストレスは当時の状況を映像等で忍ぶたびに、現代社会では計り知れないものだった。戦争に実際に携わった方々の受けるストレスはいつ死ぬか分からない恐怖、出撃することを前提とした選択の余地のない「特攻」という究極の戦闘行為、飢餓、感染症に襲われる恐怖、人を殺さざるを得ないストレス及び銃後でも都市空襲、原爆に襲われるストレスなど、一見平和な現代社会に生まれたことの幸せを噛みしめる。ただし、戦争のような厳しい環境下でも「この世界に片隅で」に描かれる普通の人「鈴さん」がいたことは嬉しい。もちろんナチスのようなユダヤ人抹殺行為に関われば話は違うが。

昨今のコロナストレス。幸い我が国の新型コロナウィルスによる死亡者は少ないが、著名人が亡くなったりすると、その不安(通り越して恐怖)は計り知れない。私の家内など、見なければ良いのにスマートフォンのSNSを見て人に解説しすっかりストレス症になり、診療所通いをして、弱い安定剤のお世話になった。医師に拠れば、そういう人が増えているとのことだった。

現代医療は大いに進歩し、結果として我が国の少子高齢化は進んでいる。これに伴い社会変化も合いまちストレスによる病気の進行は進んだ。ストレスが病気の大きな要因ならば、ストレス緩和は病気予防に貢献する。もちろん人には寿命があり、天寿を全うして人生を謳歌し、社会に貢献したい。先生は「病気は素因と人生体験の結晶である」とおっしゃる。私は、公務員時代に優れた産科医等との出会いにより、電子カルテネットワークと予防医療をお手伝いすることになった。私に「恐怖症」がなかったら、医学の道に進むこともあったかもしれない。私が先生に直接お訪ねしたのは、「高所恐怖症の克服法がないか?」という一見つまらないことだった。明確に「暴露療法です。」とおっしゃった。認知行動療法の一つである暴露療法は、私のエンディングを支援してくれるだろうか?

(東大・工 上林 匡)


長い間、封鎖されていた学士会主催の講演会が再開され、しかもコロナ禍(COVID19感染)で特殊なストレスに見舞われていた時期に開催されると聞いて、是非、ストレス対処のメカニズムをお聞きしたかったために申し込みをしました。先生のお話は、九州大学でのストレス対処に関する長年の研究成果と診療の実績を踏まえて、大変分かりやすく、最近の自分のこころのあり様や鬱積したストレスを再認識しながら、現在起こっているストレスフルな出来事と不安の連鎖にどのような対処法が有効かを自覚させるものであった。また、それぞれの性格によって起こる心理的反応の違いやそれによって発症する病気の種類がこれほどまでに多様であることに改めて驚き、無自覚から脱して、正しく自己を認識することの大切さを実感させられた。

また、会場には、聴講者の間にアクリル板が立てられ、会話も制限されてはいたが、会館側の配慮に万全を期す心使いが感じられ、このような対策を立てながら、少しずつ新しい生活様式に順応していくこともストレス対処につながるのではないかと思い、このような機会を与えてくれた主催者と講演をお引き受けいただいた久保先生に心からの謝意をお伝えしたいと思った次第です。なお、私自身が福岡の西区で幼少期を送った者であり、九大の新校舎が伊都国の遺跡という歴史ある地に広大なキャンパスとしてスタートしたことをパワーポイントで示していただき、その構想の素晴らしさに感動させていただきました。

(東大・衛生 鈴木和子)


本講演の題目は、「現代社会のストレスにどう対処するか」として、ご案内いただいたが、前半は、伊都キャンパス、屈指の基幹総合大学としての九州大学、デジタル化社会に対応した教育環境の構築、学府ー研究院制度と学際・文理融合、教員ポストの再配分、九大ルネッサンスプロジェクトなどの大学改革活性化制度について、九州大学の過去から未来に至るまでのご紹介とご説明をいただいた。

後半のご講演についても、意欲的かつ広範な内容であり、現在のストレス社会、ストレスと心身の反応(こころと身体の結びつき)、心身医学療法、ストレス対処について、分かりやすいご説明をいただいた。筆者にとっては、ロボット手術が高度先進治療の中で益々重みを増して来ている事や、ストレスが物理的、化学的、生物学的及び心理的ストレスに分類できる事などのご説明は、興味深いものであった。

質疑応答の時間に、前半の講演で触れられた1922年のAlbert Einstein博士の九州大学訪問について、当時の九州大学において目を引くような物理学研究があって、同博士が訪問されたのか、或いは他に特筆すべき理由があったのかとの質問を行い、船中で体調を崩された同博士が、九大三宅速教授から治療を受け回復されたためお礼に同学に立ち寄り講演をされたとのご回答をいただいたが、同博士の訪問が、九州大学にいかに大きなインパクトを与えたかについてうかがい知る事が出来た。世界大学ランキングの議論の中で、他の国立七大学の総長の中には、同学入学時点の学生の学力は、世界の他の一流大学のそれと比べ遜色ないが、4年間の在学中に差が生じるという発言をされた方もおられた事を踏まえ、英米語圏における情報量、言語の多様性や柔軟性の差などに起因しているものと思われるが、九州大学総長として、どのように考えておられるのかという質問を行った所、同学では、学習法によって対処する事を心掛けているとの回答があった。

セッション終了後、ストレスが病気に与える影響についての知見は、学問的進歩によって体系的に変化しているのではないかとの質問をがん疾患でのヘリコバクターピロリ菌の例を挙げて行ったが、がんには、(従来的な意味での)ストレスに起因するものもあるとの説明があり、講師の医学者としての適格な対応に信頼感を覚えた次第である。

(京大・工・工博 本田 博)