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夕食会・午餐会感想レポート

2019年7月夕食会「米中関係の行方と日本に及ぼす影響」

夕食会・午餐会感想レポート

7月10日夕食会

現下最大の時事問題につきメディアの報道では隔靴搔痒の感があったのですが、主に中国側の情報に基づき「米中関係の行方」というよりは日中関係と「日本に及ぼす影響」に重点を置かれたお話と拝聴させて頂きました。

とりわけ質問に対するご回答において「中国は変わるが、それは必ずしも平和的な方法とは限らない」と明言されていた点が印象的というか、ある意味衝撃でした。しかし、中国の歴史を踏まえると宜なるかなと受け取りました。

物足りなかったのは米国の側からの分析です。とりわけ新冷戦の契機になったともいわれるペンス演説につき言及のみで掘り下げた言及がなされなかったのは遺憾です。質問にて聞こうとしたのですが、中国女性の質問に封じられた格好になりました。

それから「一帯一路と自由で開かれたインド太平洋の共生を」提唱されていましたが、双方の戦略をすり合わせよと説いているみたいで、そんな曲芸みたいなことが可能なのでしょうか。可能であれば世界の平和に貢献するわけですから、これまた深堀して欲しいと思っています。

ともかくも初めての参加でしたが、貴重な機会となりました。事務局長はじめ主催の皆様に心より御礼もうしあげます。

(京大・法 井口文男)


トランプ政権誕生以来、米国の内外には様々な波風が立って来たが、日本にとって目下最大の関心事は米中関係の悪化であることは言う迄もない。その先行きについては不明であるとし乍ら、かかる時こそ日中関係の持続可能な発展を図る好機とする講師の卓見に接し、あらためて両国関係の意味とその重要性を考えさせられた。

世界では客観的に見て米中関係が主、日中関係は従という中、日本が果たす役割とは何かについて講師は強引・奇抜ではない、穏健で極めて常識的な路線を提案されているように感ずる。それは繁文縟礼・樽俎折衝を事とし、一定の制約を受ける外務省本流の人とは異なる知識人としての体験と交流を踏まえた良心によると推測する。

日中関係に影響する四つの要因中の国内政治では、中国の集団指導体制という権力闘争に勝ち残った者のみが日中関係を左右するという側面から見れば、日本は中国に対して絶えず受身の外交しか出来ないことは明らかである。尖閣にせよ南シナ海問題にせよ、明らかな論拠があったとしても、対中批判の効果は限られている。

イメージが未だに未確定の中国の「一帯一路」と日本が主張する「自由で開かれたインド太平洋」の共存を望む講師の見解は納得出来る。米中摩擦を「対岸の火事」とし、中国の弱点を突くのではなく、知的側面における交流を図る方向に賛同する。併し、その前提として国民レベルでの深い相互理解が必要であり、容易でないと思う。

在日中国人でさえ本国の現状を敢えて明らかにしない中国の経済に関しては、講師の知人の率直な意見が興味深かった。楽観論・悲観論の何れが正しくとも、世界や日本に与える影響を考えれば急激な変化がないに越したことはない。成長率の数字自体よりも大国の経済運営に対する人心の動揺の有無が焦点であり、重要である。

日中関係は小泉政権以来、靖国と尖閣で揺れ動いて来た感がある。靖国が下火になった一方、中国公船の領海侵犯の回数が増えている尖閣問題の全面解決は不可能である。日中間に横たわる歴史問題の根源にあるのは米国の関与であり、それが長い時を経て米中摩擦という形となって現われて来たのは皮肉ではなく、現実である。

日中双方の国民の印象や国民感情・認識のずれは、致し方ない面は多分にある。ベースとなる知識・関心の少なさや教育面での偏りによるもので、善意の人々が多少努力したところで改善することは困難と考える。両国のメディアが自制し、真実を正しく伝える方が効果的と思われるが、逆に火に油を注ぐことになるかも知れない。

尚、講演後の質疑において2012年9月の尖閣国有化の是非をたずねられた講師より日中双方に当時代替案はなかったとの明確な見解が示された。尖閣国有化の舞台裏については月刊誌にも取り上げられたことがあるが、兎角報道から来るイメージで動かされることの多い国際問題は慎重に判断することが特に求められると感じた。

(東大・法 古川 宏)


現在アメリカの高等教育機関で学ぶ外国人学生の三分の一は中国人ということである。

自由と民主主義を標榜するアメリカで学び生活する彼らは、故国中国やデモで荒れる香港の現状をどう観察し、帰国後はどう行動しようと考えているのであろうか。推察するに教育費が高いことで知られるアメリカで学ぶ彼ら学生は、共産党指導部や企業経営者の子弟が多いと思う。帰国後将来、指導層に入るであろう彼らは、明日の中国をどう変えようと考えているのか大変興味深い。

一方覇権争いをベースにアメリカと中国の貿易摩擦が激しさを増していることを背景に、中国は我が国との関係改善に向かっている。我が国も習近平氏を来春国賓として迎える意向をもつなど関係改善に積極的だ。中国の経済成長率が大幅に低下していると噂される中で、共産党の威厳を保つには経済重視にならざるを得ず、尖閣問題や歴史問題は一時棚上げし、日中間で緊密な関係が構築できる分野で協力していこうという関係が作られつつある。

また中国人の対日イメージは改善されてきており、中国から我が国への観光客数は増え続け、日本におけるインバウンド市場を牽引する存在である。一方日本人の対中イメージは尖閣問題、強権主義、歴史問題などが原因で改善の兆しは見えてこない。これにはマスコミの報道内容にも一因ありというのが高原氏の意見であった。確かに一連の話の中でどの部分を見出しにするのかでは、読者に与えるインパクトは違うであろう。センセーショナルな報道でなく、大局的判断の中での報道方法が問われると思う。

共産党独裁体制の中国と我が国は相いれないものも多々あるが、歴史を思い起こせば、いかに両国は綿々と交流を続けてきたか、我が国の発展にとっていかに中国は大きな存在であるかを知ることができる。

世界は、戦後築かれてきた秩序が溶け出そうとしている今こそ、国連のSDGsを始めとした人類共通の志を再認識する必要がある。世界の経済大国である日本と中国の首脳は、かって泥沼の戦争を経験した両国であるが故に、両国共通の規範である平和の貴さを強く意識して手を携えて世界の期待に応えて欲しい。

今後我が国は、少子高齢化による労働人口の急激な減少、大規模自然災害対策、原発の廃炉などの課題先進国として、その解決に果敢に取り組み、成果を出していかなければならない。その為には世界各国との友好関係の構築・継続が必須である。これからも世界の中でしかるべき地位を築き、世界各国から敬愛される国で有り続けるために、アメリカから押し付けられたという批判はあっても、平和憲法を守り、これに沿って行動していくことが重要であると私は思う。高原氏が最後に言われたことに関連するが、日本人は、中国やアメリカを変える手助けはできるかもしれない。また両国民も日本人に対し今後も大きな影響を与えることだろう。

(北大・教育 牛島康明)


米国はトランプ政権以降、協調しているように見えた時期もあったが、最近では、特定の通信会社の制裁や、「航行の自由」作戦(中国の南シナ海の不当な埋め立てによる領土拡大、基地建設を牽制するために、海軍艦船を領海無害航行)を頻繁に行うようになっている。本年、関税引き上げ措置とともに、特定の中国情報関連産業に対して安保・外交上の利益を害する者として、政府調達禁止や輸出規制対象とするとともに、米副大統領の全面対中批判に至っている。

これに対して中国は、経済減速の影響が出始めた中で「対抗しないが、歩みに即して開放するが、国家の核心的利益は譲らない」という基本方針を国是とした対応(関連法の書き換え等)を行いつつあるが、「国家の主権と尊厳を損なう」ものという批判も受けつつ、政権を維持する綱渡り的対応をしているようにも見える。

中国の傘下にあると思われる北朝鮮に対しても、米国を初めとする西側諸国の圧力に逆らえずに安保理制裁決議にも賛成し、一定の制裁を実行させる状況に至っている。その結果、中国とのバランス上「在韓米軍はいてもよい」と考えさせる状況が生じている。

中世以前中国大陸は漢、唐、元、明と大帝国かつ文化技術の中心であり、諸外国域にも影響を与え続けた。国内紛争と列強の侵略により衰退し崩壊した清でも、アヘン戦争前には世界経済(GDP)の1/3を占める経済大国だったといわれる。

凡そ30年前、筆者が米国留学中に米国へ輸出される中国工業製品は、世界の工場とは言われるものの「安かろう悪かろう」と軽蔑された第二次世界大戦後の経済復興期の日本と同程度の技術力しかなかった。原発においても、量産して輸出まで進めた中国人技術者を見て、「重大事故を起こさなければいいが」と見下していた中国技術に対して、事故を起こしたのは彼らではなく我が国だったではないか。彼らが懸命に勉強していたことは認めるし、現在の中国の技術力はアメリカが如何に制裁をかけようと本物であることは否定できない。その理由は必ずしも短期間では解明できないが、中国人に脈々と流れる文化の力かも知れない。中国人に対する批判の声は、米国だけではなく、日本にも多いが、個人的に批判の対象となる人はいずれの国にもいる。優れた人はどこの国にいても優れているし、「まとも」であり、「アニメ」を象徴とする現代日本文化は中国人にとって人気の的である。

中国の人々にとって、困った(危険な)点は過剰な監視社会になっている点である。

聴衆からの質問に、「中国が普通の国になる可能性はあるか?」というものがあった。答えは「いずれ普通の国になるであろうが、そこまで膨大な時間が掛かり、争いによる混乱もあるだろう。」という回答だった。肝要な点は、争いをただ避けるだけではなく、虚心坦懐に胸襟を開いて、相手の声に耳を傾け、相手の変化を見ることではないか?

(東大・工 上林 匡)


高原院長のお話は、さすがにTVの討論番組とは異なり、大変奥が深く具体的で、中国の識者との交流で得たご意見は貴重で説得力がありました。

また米国内の政治的な背景の洞察も広く深く、表面に表れた政治的な発言が米国の中でどの位の広さをカバーしているのかもよく分かりました。

米中関係、双方の方針や政策、中朝、日中の関係、南シナ海の趨勢、どれも日本にとって等閑視出来ないことで、経済的にも軍事的にも大きな影響を持つ事項です。

経済的には、中国抜きの貿易関係は今や考えられませんが、軍事的には、日本国内で憲法改正が議論になり、その支持者も多数とは言えないにせよ漸増している状況を踏まえると米中、米朝、中朝関係の行方が北朝鮮の非核化に関してはどう決着するか、に影響を受けるでしょうから、大変気になる部分です。

先生がその点はやんわりと、言うべきことは言って、中国とは上手に付き合うとの説明は、この難しさを含んだものと思います。

過去の日本と中国の有力者の発言がお互いの見方や態度に影響したことを知れば、安易な発言がいかに信頼感の距離を広げるか、現在の日韓関係を見ても首肯できます。

ただ、中国の政治状況で日本に対する態度が左右するのは今までも目にしてきましたが、米国が中国に抜かれる又は並走する蓋然性は低くはないと思われるので、日本が中国との向き合い方を身に付け、外柔内剛的な、読みと接触の奥の深い外交努力が必要だろうと思います。

またトランプ大統領の発言を聞くと、この政策がいつまで持続するのか問題で、現状で全てを見るべきではないですが、重要な部分で国民の支持を得ている部分もあるように思います。

米国は日本に軍備を捨てさせ平和主義を植え付けた張本人ですが、古い保守層が代替わりして、日本に対する態度が変化している状況を考えると、平和主義を堅持しつつ、現実に対応したしっかりした枠組みを再構築することは必須のように思いました。

また先生は経済のことは専門外とされましたが、レジュメ中に記載された技術移転の問題、知的財産保全の問題、国営企業の改革と補助金の改革、は、日本にとっても他人事ではなく、非常にアンフェアな印象を与えます。

今年初めにそれらを含めて米中間の合意が見えてきた矢先に、中国の全体会議でひっくり返り、白紙に戻りました。

死児の齢を数える、ではありませんが、この改革は世界的にも多くの賛同が得られることであり、中国の発展にも不可欠の部分で、世界のリーダーと目されるなら、不可欠の要素だと思います。

この部分は核心的な部分です。

一旦合意できる見通しだったものが転覆したことは、中国指導層の中でも支持者がいることを物語り、この改革の合意の可能性は将来に向けては、0ではないと、思わせます。

これは将来の中国像を見る上で重要であり、中国国内の政治的な現状の力のバランス、先行きの展望等を、もう少し説明して頂ければ有り難かったと存じます。

(東大・工 大島直樹)