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夕食会・午餐会感想レポート

平成30年6月午餐会「光触媒の原理とさらなる応用」

夕食会・午餐会感想レポート

6月20日午餐会

東京大学で光触媒の研究を行い、東大教授、東京理科大学長を経て東大特別栄誉教授、東理大栄誉教授で文化勲章受章者の藤嶋昭さんの講演。紹介者の佐々木毅元東大総長ご在任中、栄誉教授の制度を作り、その第一号選任が藤嶋先生であるとコメントもあった。

東大大学院で本多健一教授のもと、葉緑素から酸素を発生させる光合成の研究を行っていた。二酸化チタン結晶に光を照射すると酸素が発生することを発見、Nature誌に投稿。当初だれも信用してくれなかったが、のちに2万件の引用があった。高価なTiO2結晶に変えてチタン板を酸化した電極と他方に白金電極を使い太陽光を照射したところ酸素と水素を発生することができ、JECSに投稿した。エネルギー源を考えていたが、効率が低いのでほかの用途として殺菌効果を確かめたところ、極めて効果的。手術室の壁をTiO2にして無菌室にしたり、新幹線の空気清浄機に利用、ウイルス防止にも効果がある。曇り止めで車のバックミラーにも利用されている。

酸化分解、超親水性、セルフクリーニング効果があり、地域浄化にもなる。特に建築用タイルとして、丸ビルは第一号利用例である。ほかに真っ白な建物に活用されている。ご自宅も利用されているとのこと。(実は我が家も光触媒タイルの外装で、いつも真っ白が保たれている。)講書始で天皇陛下はじめ皇族方の前で講義を行った。蚊や蚕も「頭」と数えることは天皇も皇后もご存じだったというエピソードも面白かった。

東理大野田に光触媒国際研究センターを作り、日光東照宮の漆の黒化防止、タジマハール大理石のコーティングや、マラリアやデング熱防止のための蚊取り、手足口病防止(おもちゃを介して伝染する)、インプラントによる歯周病防止(口中の光源が問題)、スペースコロニーなど、工学から医学などすべての日常生活に関わりのある分野での光触媒の適用を研究しているとのこと。この技術の応用範囲の広さに感嘆した。

別件として、科学の歴史を紐解いていくと、多くの研究が3人一組で行われていることが分かる。また逆に一人の研究者が3役を演じていることも多い。最近「世界の科学者まるわかり図鑑」にまとめた。

もう一つ、科学者と中国古典との関係も面白い。科学者の行動規範の多くが中国の古典に書かれているものと合致している、として講演を終了された。
単に二酸化チタンの光触媒作用と考えていたが、その応用範囲は驚くほど広く、理科大の研究センターでは現在そこへ向けての研究が進められていることに大いに期待したいと思った。

なお、いくつかの質問に応答してもらえたが、私まで順番が回らず残念であった。二酸化チタンの光触媒作用の物理的あるいは化学的エレメンタルプロセスは何なのか、どういうことが起こっているから光触媒作用があるのか、二酸化チタンでない他の材料では同じことは起こらないのか、についてお伺いしたかった。もし回答が頂けたら有り難いのだが。

(東大・工 遠山 嘉一)


藤嶋先生が研究されている、二酸化チタンの驚くべき力に感動しました。

先ずは、太陽からの光子の刺激によって、水分子から酸素を遊離することです。生物である植物のもつこの力を、単純な構造の無機物が持っていることを発見されたことは、いわばコペルニクス的転回です。また、水からエネルギーを取り出す試みでは、実験装置を作って、1日で6リットルの水素ができたものの、その水素が燃えるのは一瞬だったという事実に、切ない気持ちになりましたが、私たちの生活に必要な量と比較して無限にも思える太陽エネルギーの利用に秘められた、無限の可能性を感じました。

そして、大腸菌やウイルスまでも殺せる力にも驚きました。たばこの煙の臭い消しにも実際に使われていることを知り、すでに身近なところに利用されていることが分かりましたし、病院のオペ室の壁材に塗布されたものがあるとは知りませんでした。いずれにしても、光が当たらないと効果を発揮しないという点が残念でもありますが、逆に光がスイッチの鍵となっていることに応用の可能性を感じました。

さらに「世界の科学者まるわかり図鑑」のご紹介では、3人一組や1人3役という見方、この発想がさすがだと思います。3という数に秘められた力かもしれません。

之を知るものは好むものに如かず、好むものは楽しむものに如かず。実験研究活動を最高に楽しんでらっしゃる先生に倣って、自分も楽しむことで何事かのホンモノをつかみたいと一念発起!な気持ちになりました。素晴らしいお話をありがとうございました。

(東大・農 中山 基)