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夕食会・午餐会感想レポート

平成26年6月夕食会「次世代のがん研究・がん医療とは」

夕食会・午餐会感想レポート

6月10日夕食会

昨夏、家族に癌が見つかり、入院・手術・治療で、約一年が経ちました。本人は当然の事、家族が精神的及び、副作用による苦痛や今後の不安を抱えている中で、最初にこの講演タイトルを見た時に、正直、聴講して何か直接的な“救い”が得られるのかと考え、参加を躊躇していました。
実際の講演では、“癌研究の歴史”・“癌化のメカニズム”・“治療のアプローチ”・“薬開発(医療行政)の問題点”・“予防”など、幅広いテーマを短時間で要領よく紹介して頂き、直近受けている治療とは別の次元の治療の進め方(次世代の癌研究)を垣間見る事ができ、参加して良かったと思っています。しかし、一方で、それぞれの項目に対して、重大な問題点や今後解決すべき課題も幾つか感じた次第です。
先ず、現在の“抗癌剤による治療”が、“癌細胞に対する本質的な治療”ではなく、“増殖する細胞群に対する無差別攻撃”であり、従って、癌細胞以外への影響である“副作用は不可避”であると、認識を新たにしました。この副作用による肉体的(精神的)ダメージによる体力の消耗・免疫の低下などを考えると、“抗癌剤による治療無益論”も頷けます。同時に、漢方やサプリメントを始めとする、補助医療・代替医療へ、患者がアプローチするのも、当然かと思います。そうした流れの中で、最近急速に研究が進んでいる“分子標的”のアプローチは、癌医療がやっと本格的な“癌治療”のステージに入ったと感じました。多分、このアプローチであれば、現在の抗癌剤のような重篤な“副作用”は起こらないのでしょう。
しかし、こうした“分子標的”の治療薬が、日本の基礎研究でせっかく“発芽”しているにも関わらず、国内の製薬業界がその芽を“生育・収穫”できていないのが、現状のようです。日本ではこうした“死の谷”を乗り越えられずにいる一方で、欧米の製薬業界は全く“逆位相” の動きをして、着実にビジネスにしています。勿論、この原因には、“政府の医療行政のあり方”の問題もありますが、国内製薬業界自体にも問題があると思っています。つまり、一方で“大衆薬の氾濫”や“病院での過剰な薬の支給”がありながら、こうした“将来必須である、基本的に有効な治療薬に対する開発投資”の戦略が欠如しています。癌に対する有効な治療薬に対するニーズに対するビジネス感覚が、単なる“ニーズに対する見透し”ではなく、“ニーズに対する企業トップの見極め”が必要であり、言い換えれば、“結果に対する敗者の言い訳”ではなく、“未来に対する(責任ある)判断”が要求されます。
創薬・新薬開発に高額な投資が必要であるために、薬価が高額となるのも、大きな問題です。医療技術の急速な進歩に伴い、最先端医療全般が極めて高額になっています。最近の日本の“貧富の格差の拡大”・“高年齢層の増加”を重ね合わせると、日本の将来は“精神的にも”暗い未来しか描けません。“誰でもが、必要とされる最先端の治療を、妥当な費用で受けられる”仕組み創りのために、“消費税が使われる”のであれば、増額に対して国民の賛成は容易に得られると思うのですが。現実に、こうした内容を実現している国もあると聞いています。日本人は、“百年の計”が実現できないほど、“民度”の低い国民なのでしょうか。

(京大・工、井上 実)