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夕食会・午餐会感想レポート

平成30年4月夕食会  「朝鮮半島情勢の不確実性―五つのシナリオ」

夕食会・午餐会感想レポート

4月10日夕食会

北朝鮮は、南と分断された国家で、強い統一願望がある。一方韓国(南朝鮮)は北朝鮮と共存を望み、統一とはいわない。その点で、朝鮮半島の核兵器をめぐる様相は、インド・パキスタン、中東などと異なる。一方アメリカは、キューバ危機、ニューヨーク貿易センタービル攻撃への対応にみられるように、自国領土を聖域視し、その安全確保には敏感に反応する。北朝鮮が、核兵器を搭載したアメリカ本土に届く長距離ミサイルを開発し、数か月後には完成しようと予測される事態には、あらゆる策がテーブルにあるという表現で、予防戦争までを示唆する。しかし、先制攻撃には、中ロ韓、国連、米国議会は同意しまい。それでも、議会・官僚経験のない不動産王トランプ大統領はやるかもしれない。北朝鮮はアメリカの敵視政策が根源的に清算されないかぎり、非核化の交渉には応じまい。日本にとっては、中距離ミサイルも脅威で、拉致問題と合わせて、米国とは異なる事情をかかえる。日本の植民地支配の過去を清算する経済協力が、北朝鮮の経済復興に寄与し、非核化を確実にするかもしれない。

北朝鮮は、国家核武力技術の完成を宣言したあと、それを背景に外交政策を転換した。オリンピック参加を糸口に韓国にしがみつき、「先南後米」で、民族の利益を掲げて、韓米軍事同盟を無力化しようとし、さらに韓国、中国、アメリカ、ロシアと、次々と首脳外交を展開するシナリオで生き残りを図っている。米国の「最大限の圧力」政策とどう取引するか、状況は予断を許さない。朝鮮半島で、南北共存メカニズムを創造し、関係諸国が北朝鮮非核化の目標を堅持しつつ、安定的な南北共存を図ることが、非核化の土台である。

錯綜しつつ急展開しつつある状況を適切に描いた講演で、マスコミにあふれる類似の解説のなかで、ひときわ光っていた。

(東大・工 加納 剛)


分断国家の核保有と戦争の恐怖を背景に、これ迄の経緯からすんなりと事が運ぶとは到底思えない北朝鮮問題の諸事項が整理され、結論として、軍事行動・米朝取引・偶発戦争・経済的圧力・南北対話、の五つのシナリオのうち、経済的圧力と南北対話の「せめぎあい」の現状であるが、最終的には軍事行動か米朝取引になる可能性もあり、後者の場合日本はどうするという、実に含蓄に富む講演内容であった。

911の惨事発生より今秋で17年、欧米の動揺や中国の内部闘争は一旦収まったものの、世界にくすぶっている火種の中で、半島情勢の不透明性が突出して来た。北朝鮮問題には、欧米的価値観を是としない個人商店的国家からの異議申立という側面がある。人民の生活水準を抑制する独裁体制存続と国際的地位の向上への欲求に根ざした意図があることは言う迄もない。意表を突く外交に楽観は禁物である。

かつて北朝鮮問題解決のため、六ケ国協議が真剣に行われていた。交渉を続ければ続ける程、物事は前に進まず、現状維持・固定の効用のある時間浪費以外の何物でもなかった。目下、米中が積極的役割を果たそうとしているものの、本当に実効があるのかは後になってみないと判らない。偶発戦争が起き、つばぜり合いが始まった後、時間を掛けて局面を打開してから交渉に入るというのでは手遅れとなろう。

以前の状況同様、国際社会がさんざん振り回された挙句、最終的に体制存続に手を貸す結果となるような気がしてならない。それでも講師の説く「南北共存メカニズムの創造」を目指して、韓国はもとより、利害関係のある日本が後追いで加わり、本来持つべき解決能力を発揮して新たな枠組に基づき地域に安定した構図が出来ればとは思うが、様々な準備・努力を積み重ねても肩すかしに終わるかも知れない。

「百年河清を俟つ」ことの出来ない米国の主導による根本的解決を一日本国民として切に望むものの、先ずは御手並拝見といったところであり、今後もメディアを通じての講師の御見解には一層期待する次第である。

(東大・法 古川 宏)


朝鮮半島の核を巡る動きは一気に加速してきた感がある。今回の小此木政夫先生の講義はまさに時期を得たものであった。北朝鮮の核の脅威と拉致問題の解決という重い課題を抱えている我が国にとって、どういう姿になるのが一番望ましいのかを自分なりに考える上で、いろいろな材料を提供していただいたと思っている。

戦後から70年を経過した今日でも我が国と北朝鮮との間では国交がない。この間政府、政党、民間関係者の国交正常化に向けた努力はあったものの未だ大きな進展がないばかりか、むしろその関係は悪化している。

北朝鮮は、経済規模でいえば、GDPでアメリカの100分の1以下、日本の300分の1以下と言う規模で有るにかかわらず、これだけ世界の注目を集めるのは、核兵器を所有していることとアメリカの勢力と中国の緩衝地帯という特殊な地理関係による。

金正恩の韓国、中国そしてアメリカとの首脳会談のあわただしい動きは、今までのミサイル発射に対する、日米韓を中心とした国際的経済制裁の効果と、軍事的圧力の効果が相当なものだったことが容易に想像できる。ただ核戦争勃発の脅威を最大限与えて、突然の和平への動きの陰には、彼自身の生き残りをかけた用意周到な戦略も垣間見える。
恐怖政治を根底に、国民の多様な組織化および徹底した情報統制と自助努力的利益追求を国民に課すこの独裁者は、どこまで生き延びることができるのだろうか。

安全保障の観点から我が国として果たさなければならないのは、核無き北朝鮮であり、戦争状態に終止符を打つことである。この機を逃さず、核廃止を完全実施するまで、各国との連帯の中で人道的措置は別として、制裁を緩めることなく続けるべきであるし、そののちの国交正常化、経済協力も視野に入れての対応が望まれる。

一方我が国の政治の現状は、モリカケ問題に端を発して、いまだ混迷が続き安倍首相への支持率は下がる一方である。より早くこの状態から脱出し、新しい顔で国難に立ち向かうことを望んでいる。

(北大・教育 牛島康明)