文字サイズ
背景色変更

夕食会・午餐会感想レポート

2019年3月午餐会「イギリスEU離脱~イギリスとEUの今後を読みとく」

夕食会・午餐会感想レポート

3月20日午餐会

3月20日(水)に開催された午餐会の講演は、これからどの様な事態になるか世界中の人たちが注目しているテーマであるだけに期待に胸を膨らませて聴かせて戴きました。

池本教授のお話をお聞きして、ポピュリズムとグローバル化が社会を混乱させていることをしみじみと感じました。ポピュリズムというのは、その時のムードで大きくある方向に揺れたかと思うと逆方向に揺れ戻すこともあります。国民投票というのは、テーマによっては使う意味があり得るかも知れませんが、国の方向性を選択するのに用いるのは非常に危険だということをしみじみ悟りました。

SNS等の世論に与える影響は非常に強く、世論の揺れ動きを増幅します。SNSを多用する若者たちの発言が増していき、更にそれが炎上することも多く、国論が揺れ動く危険が増すと考えて置く必要があるかも知れません。

イギリスは歴史的にヨーロッパ統合に消極的であったし、中東欧からの移民流入への反発や金融センター“シティ”へのEUの規制への不満など、EUから脱退したいとの声が多かったことは間違いなかったことでしょうが、離脱すればイギリスの産業、特にイギリスに進出している外国企業の行動にどの様な影響が出てくるかなどについて冷静な分析と対応策の準備がなされぬままポピュリズムに従うのは非常に危険です。

イギリスにはアイルランドを巡る「安全策」という問題も抱えているので、問題がより複雑であることも良く理解出来ました。

日本においても、日米、日露、或は周辺諸国との関係など難問山積です。ポピュリズムのみで国が揺れ動かぬよう、冷静な検討と準備を怠らぬようにしなければなりません。

国民一人一人が、ムードで動かされるのではなく、日頃から良く勉強しなければならないと改めて気持を引き締めさせて戴きました

(京大・経 鶴谷緑平)


イギリスがEU離脱を巡ってどうにも決められない状態になっていることがよく分かる講演であった。しかし、決められないことが悪いとは必ずしも言えないのではないか。一頃の日本で決められないとメディアが囃し立てたがいざ決められる状態になってみると無茶な決定が多発しているのが現状ではないか。

イギリスのこの状態の原因の一つが多数決による民主主義の限界、さらにその基底にある小選挙区制にあるというのは納得できる見解である。日本でもいざ決めるべき時にこのような状態にならないか、他山の石として参考にすべきと思う。

今から30年近く前になると思うが佐々木理事長が選挙制度改革について講演され、やらないよりはマシと言われたのを覚えているが、果たしてそうだったのか佐々木先生には悪いが疑問に思っている。

今の日本に同じような決断を迫られる問題はあるだろうか。例えば沖縄を独立させるというような問題が起こればどうか。沖縄の人々から見れば丁度イギリスのEU離脱と同じケースになる。先日の県民投票のように多くの問題が出て来るだろう。しかし、日本全体から見ればEUの立場であるから沖縄の決定次第ということになるだろう。もし、日本が米国の核の傘から離脱し、中立国になるか中国と同盟関係になるとかいう問題が起これば同じような決定を迫られるが、そいうことはあまり考えられないかもしれない。

もう一つ、イギリスの現状ではエリート支配層の劣化が一つの原因と考えられるのではないか。グローバル化の必然的帰結とも言えるが所得格差が拡大する一方で伝統的エリート層は富に対する支配力を失い、かといって新富裕層は文化的エリートにはなり得ていない。エリート支配自体にも疑問符がつく。労働者階級も移民労働者の増加で昔のようなまとまりはなく、グローバル化の縮図でそのものである。

日本で長らく言われてきたイギリスモデルの小選挙区制による二大政党モデルも色あせてきた感を拭えない。本当にこのような政治制度を続けて行っていいのか、今のような方式の多数決は本当に正しいのか、もう一度立ち止まって考えるいい機会を与えてくださった講演であったと思う。

(東大・理 京極浩史)


ブレグジット(英国のEU離脱)を問う国民投票は、2016年6月23日に行われたが、離脱支持が51.6%で、残留支持をわずかに上回り、国民のEU離脱の意思が示された。これを受けた英国政府は翌3月にEUに対し正式に離脱意思を通告。2019年3月29日が離脱予定日とされた。ではなぜ英国民の過半数は、EU離脱を選択したのか。講演者の池本大輔氏は、欧州各国と陸続きでない英国は、従来から欧州統合には消極的であったこと、さらに中東欧からの移民の流入に対する世論の反発、金融センターのシティへのEUの規制に対するエリート層の不満をあげた。

ブレグジットを巡って英国内の政治的混迷はますます高まっているが、「合意なき離脱」に至った場合の混迷が、世界経済後退の要因の一つにもあげられている。かって激しい紛争を起こした北アイルランド・アイルランド問題の「安全策」は、EUと英国の間で厳しい論争を生んでいるし、英国保守党・民主連合党は、EUとの関税同盟に永久的に留まることにつながり、第三国と通商協定を結ぶ自由を損ねることや、アイルランドと英本土の法的地位に違いが生じることに懸念を示し反発している。

3月20日に行われた池本氏の講演後、事態は進んだ。21日の欧州連合首脳会議で、3月29日に迫った英国のEU離脱時期の延長が決定されたが、英国が求めた6月末までの延期は認めず、4月12日までに欧州議会選挙に参加するかどうかを決定する様に求めた。英国下院におけるブレグジットの賛否は与野党が夫々内部で対立し、政府が下院で過半数を有さない状況の中では、多数派の指示を集めることは難しい。

日本企業の中には、混乱を避けるため英国からの撤退を表明する会社も現れ、地域の雇用に与える影響も現実化してきた。このためブレグジット反対、2回目の国民投票実施を訴えた大規模なデモも発生したと報道されている。

こういう事実は、今後の我が国にも「安易な国民投票はすべきではない」という重要な指針を表していると同時に、グローバル化批判はどういう勢力が誰のために誰を使って行っているかを良く見極める必要があることを教えてくれたと思う。

(北大・教育 牛島康明)


イギリスとEUの今後が“読みとけない”と、池本講師は冗談まじりにおっしゃっていたが、浅学非才の私に先のことなど見通せる筈がない。

政党、地域、階層等により、離脱・残留への賛否はさまざまで、一刀両断・明快に判別することは難しい。ただ、講師のお話を承り、最近の新聞記事を読む限り、摩擦を極力排した離脱という方向に向かうのではないか。

再投票あるいは残留というシナリオは描けそうにない。離脱は少なくとも短・中期的には両当事者および関連諸国の経済的不利益、混乱は免れそうにない。それなのに何故、離脱論が優勢なのか。

第一にサッチャー依頼のEUによる主権と自尊心の侵害に対する反感がある。これはひょっとすると、約1000年前のノルマン・コンクェスト以来、イングランドのエリート層に通底する心情なのではないだろうか。

(九大・経済 増田 稔)