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夕食会・午餐会感想レポート

平成25年1月午餐会「日本経済と世界経済の動向」

夕食会・午餐会感想レポート

1月21日午餐会

武藤敏郎氏の講演「日本経済と世界経済の動向」は、時の話題かつ時の人の講演とあって大変な盛会だった。短時間だったので不用意な聴衆には判り難い面があったかも知れないが、要点を押さえて明快であり、最新データに基づく正確な情報と示唆に富む内容であった。
安倍政権の経済再生の三本の矢(金融・財政・成長)が選挙で主張された途端に円安株高になったが、その持続性への楽観を諌められた。
不勉強を突き付けられた点があった。GDPの物価デフレータの調査データから明らかなように日本は毎年1~2%の物価下落を経験しているが、家計支出に関わる消費者物価の下落は年平均0.1%とほとんど下がっていないことが示された。また給与総額はこの1-2年下降しているにも拘わらず 消費支出はスマホ普及らしき原因で昨年は増加していた。一方金融政策で日銀は政府に手篭めにされるのかと 感じていたが、1年前の2012年2月の日銀政策決定でも金融緩和方針は明確で、気分と修辞法以上の政策変更は少ないと知った。日本の労働生産性がイタリアより低いのは驚きであった。
聞いていて思った。安倍首相は、日本経済立て直しに成功すれば、日本の英雄になるだけでなく、日本化が進み未だ対策を知らない先進国の先導者になる。
失敗すれば借金を大幅に積み上げたA級戦犯と後ろ指を指されるだろう。安倍首相個人にとっても日本にとっても大きな賭けだ。

(東大・工、松下 重悳)


大和総研の理事長、武藤敏郎氏の講演は一時間程であったが、日本経済と世界経済の動向を包括的に理解する上で大変役に立った。現在、安倍総理は三本の矢と称してインフレターゲットの導入、機動的財政政策、民間投資を喚起する成長戦略を打ち出し、円安や株価の上昇を誘導している。問題は労働生産性の向上(設備投資の低減と生産年齢人口の減少の問題)であり、究極は民間の設備投資を活発にする成長戦略にかかっているという指摘は首肯する。その成長戦略に関して、グローバル化(TPP他)への対応も勿論大切であるが、要は如何にイノベーションを喚起するかにかかっていると思う。
20年前のバブル不況の時は、バランスシート不況といって金融を緩和しても企業はお金を設備投資には廻さず、借金返済に充てた。今回は、投資するイノベーション分野がないためにお金が企業内部に滞っている。今後、日本の景気が良くなるためには日本に独自のイノベーションが育って欲しいところだがこれが米国と異なり、甚だ難しい。アベノミクスの副作用も心配であるが、新しい成長の兆しとして大学や企業の創造力に期待したい。
中国、EUと日本を取り巻く経済状況は内憂外患の様相を呈しているが、今こそ、人口減少の課題先進国の日本で新しい経済の処方箋が出てきても良いのではないだろうか。私のような理系の人間にも理解可能な正鵠を射た講演であった。

(東大・工、武田 英次)