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夕食会・午餐会感想レポート

2021年新年祝賀会「はやぶさ2地球帰還~挫折から掴んだ成果」

夕食会・午餐会感想レポート

1月5日新年祝賀会2021

大分前に、「はやぶさ」プロジェクトマネージャ川口淳一郎教授の講演を聴いたことがある。数々のトラブルがあったにもかかわらず、あきらめないであらゆる手を打ち無事地球に帰還させた。川口教授は京都の飛行神社にお参りしたことは知っていたが(東京の飛行神社には私もお参りしたことがある)、なんと不安定な中和器の無事を祈って岡山県真庭市の中和(ちゅうか)神社にもお参りしたそうだ。教授は「神頼みというより、やることは全部やり、人事を尽くして天命を待つという心境です。個人の資格でお参りしているので政教分離には違反していません」と仰っていた。燃え尽きると思っていた「はやぶさ」とカプセルを繋ぐケーブルの一部がカプセルに残っていた。それは「臍の緒」のように見えて川口教授は涙した由。川口教授は「はやぶさ」と帰還したカプセルを出産と見ていたのだろう。

今回は「はやぶさ2」のミッションマネジャーの吉川真氏のお話。今回の「はやぶさ2」は100点満点で1,000点いや10,000点と言う声もあるほど、全て順調だったが、何故「挫折から掴んだ成果」と言う題名なのかの説明があった。数々のトラブルがあった「はやぶさ」始め、過去の太陽系天体探査機の不具合に対する対策を取ったことを指しているのかと思ったが、それだけではなく、いろいろなご苦労があったとのこと。2005年末、「はやぶさ」がトラブルで、地球に帰還出来るか分からない、サンプルも採取出来ていない可能性があるということで、翌年の2006年に「はやぶさ2」を提案したがプロジェクトとして認めて貰えなかった。「はやぶさ」のコピーで「新規性が無い」との指摘を受けたのである。それではと2機の探査機を打ち上げてプラネタリーディフェンスも考慮した先進的提案をしたが、今度は「コストが高い」との指摘。コストを下げるためにNASA,ESAに協力を依頼したが断られる。しかし「はやぶさ」が地球帰還すると状況が変わり、2011年5月、「はやぶさ2」がプロジェクトとして認められた。

小惑星の探査機は世界で4例あるが日本以外の米国の2例は着陸さえしていない。「はやぶさ2」が成し遂げた工学上の世界初は①小型探査ロボットによる天体表面の移動探査、②複数の探査ロボットの小天体上への投下・展開、③小惑星での人工クレーターの作成とその過程・前後の詳細観測、④天体着陸精度60cmの実現、⑤同一天体2地点への着陸、⑥地球圏外の天体の地下物質へのアクセス、⑦最小・複数の小天体周回人工衛星の実現、⑧地球圏外からの気体状態の物質のサンプルリターン、⑨C型小惑星の物質のサンプルリターン、等があるとのこと。

「りゅうぐう」からのサンプルも最低0.1gを考えていたが、想定していた以上に沢山のサンプルが得られ、数ミリサイズのサンプルがゴロゴロ入っていてびっくりしたと聞いた。太陽系や生命の起源や進化の解明がなされることを大いに期待したい。

(東大・工 加藤忠郎)