総選挙後の政界新地図
岸井 成格 (毎日新聞特別編集委員・早稲田大学客員教授・二一世紀臨調運営委員)
No.857
(平成18年3月)号

官から民へ、中央から地方へ
 皆様こんにちは。毎日新聞特別編集委員の岸井でございます。現下の政治状況もくるくると大きく動いておりますので、今日は一時間という限られた時間で、圧縮して早口でお話することになって、重要な点が抜けるかもしれませんけれども、ご容赦頂いて、話をお聞き頂きたいと思います。

 政治状況全般について、お話したいことはたくさんあります。八月八日の参議院での郵政法案否決、直ちにこれを受けて衆議院を解散いたしまして、総選挙の結果は予想をはるかに超える、自民党圧勝ということになりました。自公あわせて三百二十七議席と、三分の二を七議席も上回る、圧倒的多数を獲得したということになります。

 その勢いを駆って小泉総理は、靖国神社にも参拝をされました。これは中韓の反対だけではなくて、歴代総理が何度も中止を要請していたのですが、そうした反対を押し切って参拝された。そして、郵政民営化に反対票を投じた造反議員に対しても、今までの自民党の文化からすると、やりすぎじゃないかというくらい相当に厳しい処分が下されて、除名十人、離党勧告、党員資格停止、役職停止と、全員処分となりまして、さらにその勢いで内閣改造に踏み切った。今、第三次改造内閣ということであります。

 現在は外交日程が非常にタイトで、十一月十五日のブッシュ大統領の来日に続き、二十一日にはプーチン大統領との日ロ首脳会談、その間に小泉総理はAPECでプサンにも行かれています。この後、十二月十二日からは第一回東アジア首脳会議もあります。それまでの間に、盧武鉉韓国大統領の訪日が実現するのかどうか、またクアラルンプールでの東アジア首脳会議で、中国の胡錦濤主席との対談が実現するのかどうか、この辺が当面注目をされているところです。

 二〇〇六年九月の任期切れで、総理はもう辞めるとおっしゃっております。私ももう辞めることは間違いないだろうな、場合によっては、議員バッジまではずすのかなと予測しております。では、小泉総理は構造改革続行内閣と名づけた現体制で、最後の総仕上げとして、任期中に何をやるのか。これまでの道路、郵政以上に、大変なハードルが待ち構えているかもしれないという気がします。

 ご存じの通り、三位一体での地方分権、公務員制度改革、医療制度改革、これが重要な課題になってまいりますが、中心テーマが、いわゆる「官から民へ、中央から地方へ」という、小泉さんが年来主張してきていることの総仕上げということになると、まず、ターゲットは公務員制度になるのでしょう。中央省庁のまさにリストラです。これは歴史的な、律令制度以来の大変なリストラだとか、いやいや、江戸時代の大変なエリート官僚たちだった侍がいなくなった、あの明治維新以来だとか、いろいろ言われています。当面の目標としては、五年間で公務員を五パーセント削減。概算で三万三千人をとにかく五年間で減らし、十年間で、人件費ベースで半減すると、こう言っております。

 権限を地方に移すことと、徹底的な歳出及び機能の見直しを行って、削減できるものはどんどん削減していくということですから、これは相当な問題で、道路族や郵政族を抵抗勢力と位置づけて、世論のバックアップで乗り切ってきた今までとは、ちょっと違う様相を示すのではないかなという気がいたします。

 実は、今日午前十時から厚生労働省で、新厚生労働大臣の川崎二郎さんも出席されて、社会保険庁をどうするかという会議がございました。これまでも何回も議論をやってまいりました。あれだけ批判を受けた組織ですし、不祥事続発で、世論の怒りは収まっておりません。乱暴かもしれませんが、基本的にはとにかくもう解体せよという声が圧倒的に強いんです。しかしながら、納付と給付とを半永続的に続けていく公的年金制度という組織の特性から言っても、これをなくすわけにはいかない。解体的出直しで、どういう組織でやるか。もう今日の議論でも、国家行政組織法上、どう位置づけるかとか、新組織には民間をどんどん入れる方向で進んでいます。運営主体も民間、監査委員会も民間、その業績を評価する委員会も民間と、今までの行政組織を全部民間が周りで固めるような組織を、今作ろうとしています。

 先週はこれについて、社保庁及び厚生労働省の職員組合、自治労とかいろんな職域団体、職員組合、団体のトップの方たちにおいで頂いて、ヒアリングをやりました。社保庁の人員を大幅に削減する。七年間で二〇パーセント削減し、なおかつ機能を維持するにはどうしたらいいかという議論をやっています。おそらくこういう問題が次から次と出てくると思います。問題は、最終的に何をもって無駄と考えるか、これを誰が判断するかということになってくるでしょう。

 小泉内閣の総仕上げのキャッチフレーズは「小さな政府」です。おそらく官から民、中央から地方というせめぎあいが、大変な綱引きになってくるのだろうなという気がいたします。予算編成を巡って、いよいよ攻防戦の火蓋が切って落とされるという状況に、今、置かれている。外交の行き詰まり打開と、次の「小さな政府」に向けた構造改革を、どうやって進めていくか。今度の総仕上げの推進役は、閣内では総務大臣に就任した竹中平蔵大臣、自民党では政調会長に就任された中川秀直さん、このお二人がエンジン役として、小泉構造改革総仕上げの両輪を担い、政調会長から経済財政担当大臣に転じられた与謝野馨さんが、政府与党全体に目配りしながら、調整役を果たしていく。こういう布陣ではないかと見ております。

ただの変人ではなかった小泉総理
 まず、この関連のいろいろな政治状況を見る時に、どうしても避けて通れないのが、先般の総選挙の結果であり、選挙のやり方です。結論から申しますと、小泉さんは、ただの変人ではなかった。森(喜朗)さんの言葉を借りると、超変人、変人以上だと。今度の選挙において、解散への決断の仕方と、公認候補を立てて造反議員を徹底的に追い詰めて息の根を止める、刺客と言われるような候補者選び。これは今までの自民党ではちょっと考えられないやり方で、そこが変人たるゆえんでありますが、相当に常識をはずれている。勝負師であることは間違いない。マスコミの中でも、変人からちょっと見直すような空気が、今醸し出されているというところだと思います。

 では、どこが勝負師的なのか。今度の選挙結果の絡みで、選挙制度についても触れてみたいと思います。

 まず、選挙があるかないかという政治判断から始まり、マスコミも、野党も、造反した議員さんたちも、選挙はよもやあるまいと読んでいた。いよいよ解散不可避となっても、なお半信半疑だった。これが最終的に後手後手に回り、終始受け身に回った―つの原因であり、自民党勝利、総理の勝利をもたらした要因だろうと思います。ただ、解散はできまいと思うのも一理あって、自民党がこれまで惨敗をしてきた経験則、惨敗の三点セットと言われるものが三つ揃っていた。

 一つは投票率が上がるだろうという予測です。事前の世論調査で、郵政民営化の是非を巡る攻防戦というのは国民の関心を集め、解散があれば選挙にいくという人の数字が非常に高くなっていた。ここ十五年から二十年間、浮動層を取り込めるだけの魅力を失っていた自民党は、投票率が上がって勝ったためしがない。投票率が低いほど組織率が物を言う世界ですから、投票率が上がると危ないのが自民党で、もっと弱いのは完全な組織政党である公明党です。与党である自公ともに、投票率が高くなるのは、致命的要因になりかねない。これが一点です。

 もう―つは、シングルイシューです。小泉さんのやり方は、もう郵政民営化是非の一本やりで、すべてそれに収斂させていったわけですね。結果的にはみごとに争点化されたんですが、この問題がまさか争点化されるとは誰も考えなかった。郵政民営化の是非だけで解散総選挙なんてありえないと考えていた。政権与党が今までの外交、内政、万般にわたっての実績評価を受ける、そして次にこれをやりたいという指針に対する信任を問う、これが解散総選挙です。シングルイシューというのは非常に珍しい上に、今までの選挙の経験から言うと、野党が攻勢をかける時に効果を発揮するのがシングルイシューだったわけです。

 大平総理の時、もう消費税を導入しなければ日本の財政は破綻する、どうにもならんと、国民に直接問うた。大蔵省出身の大平総理は、非常に使命感を持っておられた。今度の小泉さんと同じなんです。しかしながら、まだ一般消費税を容認するだけの、国民的コンセンサスがなかった。むしろ反発だけが非常に強くなって、野党はそこにつけ込んで、徹底的にシングルイシューをやった。シングルイシューというのは、まず野党の専売特許と見たほうがいいわけで、自民党が勝ったためしがない。それを敢えてしかけるなんて、常軌を逸していると、こう思うのが普通です。

 そして、何よりも三点セットで決定的なのは、分裂選挙です。分裂選挙をやって勝てるはずがないというのが、もう、今までの常識、経験則です。衆議院議員で三十七人が反対票を投じていることはわかっていますから、完全な分裂選挙です。組織が分裂している十三の選挙区とあわせて、五十の選挙区が分裂です。

 分裂選挙、必至。投票率が上がること、必至。そしてシングルイシューである。三つ揃っては自民党が勝てるわけはない。野党にも反対派議員にもマスコミにも、これがまず、頭にあったんですね。

 それに対して小泉さんは、郵政法案がもし参議院で否決されれば、これは不信任だ、とにかく衆議院解散だと明言していました。乱暴な論理ですが、解散によって、参議院で否決されたのを衆議院で解散するということに正当性があるのかという議論を、みんな吹っ飛ばしてしまったわけですね。

 その時の典型的なやり取りが、あの森元総理の直談判だったと思います。いまだに本当のところはよくわかりませんが、あの会談の核心部分は、森さんが解散を思いとどまらせようとしたということです。とにかく、三点セットが揃っている。参議院で否決されたけれど、五票差とは言え衆議院では可決しているんだから、衆議院を解散するという大義は立たないじゃないか。分裂選挙で死屍累々になった時に、どうやって責任を取るんだ。無茶な解散をやれば、あんたがこれだけ執念を燃やしてきた郵政民営化法案は完全に吹っ飛んで、もう二度と日の目を見ることはないだろう。一部修正をすれば衆議院に戻る。修正されれば参議院先議ということになって、衆議院に戻っても過半数で成立できるから、廃案になるよりも、そのほうがよっぽどいいだろうと、森さんは迫ったと思います。しかし、小泉さんはN0と。今さら修正なんて、それは否決と同じだと。

 それじゃあ、継続審議にして、秋の臨時国会で仕切り直しをしたらどうだ。それまでに状況も随分変わってくるだろう。この一年で随分変わってきて、自民党内では圧倒的に賛成が多数になったという流れがあるのだから、時間をかけて説得すれば、反対と言っている人たちも賛成に回るかもしれない、とさらに説得しても、小泉さんはN0と。それも廃案と同じだと。

 最後に森さんが、「ここまで言っても駄目なら、もう俺は匙を投げる」と言うと、「結構だ」と言った後に、ここが小泉さんらしいところ、真骨頂だと思うのですが、「森さん、あんた、まず解散権は総理の専権だということ、わかっているね」と。森さんもそれはわかっている。「そんなこと、わかっているよ。だからこそ、あえて乱暴なことはさせられないから言っているんだ」と答える。「そういう判断は俺に任せてくれ。森さん、あんた言っちゃ悪いけれども、総理大臣一年しかやっていないじゃないか。俺はもう四年半やっているんだ。そういう判断は総合的にやるんだ。俺に任せてくれ」と。缶ビールの缶を握りつぶして怒ったというのは、この瞬間だと私は思うんです。いろいろな説があります。缶をつぶして渡したのは小泉さんのほうだという人もいます。だけど、「あんたは一年しかやっていない。俺はもう四年半やっているんだ。そういう判断は俺に任せろ」なんて言われたら、いくら人のいい森さんでも、やっぱりこの瞬間は缶を握りつぶして怒ったと私は思うんですね。

 翌日、私は田原総一郎さんの朝の番組に呼ばれて、「解散なんかできるわけがない」と言い張っている亀井静香さんが来るので、一緒に横にいて聞いていてくれというので、TBSの番組の後、テレビ朝日に駆けつけました。冒頭で、森さんのあのパフォーマンスの解説を求められて、まだ取材ができていませんでしたから、よくわからない。推測だけれども、あの表情を見ていると、森さんが小泉さんに怒っていて、もう匙を投げたというのは本当だろう。同時に、もう解散不可避であろう。解散なんてないと言う人もいるけれども、もうこれは止めようがない。もうすでに総理の腹は固まったということをアピールしていると、私が解説したとたんに亀井さんが、「だからマスコミは駄目なんだ。なんちゅう馬鹿な間違ったことを言うんだ」と反論して、「どうやって解散なんかできるんだ。できっこないよ。衆議院で可決されて、参議院で否決されたから、衆議院を解散するなんて、そんな馬鹿なことが議会制民主主義の下でやれるはずがないじゃないか。あえてやろうとしたら、それで立ち往生だ。どっちにしても、解散はできないんだ。これが政治だ」と、断言された。亀井さんがそこまで自信を持って言いきったように、解散できないと思って反対票を投じた方も随分いるんです。

 ああいうことがなければ、ポスト小泉の最有力候補の一人であった平沼赳夫さんも、反対票の青票を投じました。平沼さんはずっと一貫して、小泉さんの最近のやり方はもうとにかく気に入らない。政治手法についても反対だ。だから、反小泉で動くことについては私も同意するけれども、郵政民営化だけは一緒にしないでくれ。私は小泉内閣の重要閣僚として、郵政民営化は賛成支持の立場でやってきたし、今も私は賛成なんだ。だから、反小泉の動きと、反郵政を一緒にしたら、私はやれませんよ、と亀井さんに言い続けてきた。平沼さんと亀井さんとの関係も非常にデリケートで、難しいんです。郵政民営化に賛否どちらを投じるか。ポスト小泉の政局で、亀井さんがあの派閥の代表で立つのか、世代交代で平沼さんが立つのか。そういう問題を抱えていたので、ぎりぎりの段階でどういう約束があったか、わかりません。

 私は亀井さんに「とにかくあなたが政治生命を賭けて、最後の勝負を賭けて、とにかく小泉を倒すという、その政治行動は誰も止められないですよ」と申し上げた。郵政民営化も信念で反対ということであるならば、それは筋が通ります。「しかし、一緒に連れて行かれる方たちの立場も考えなくてはならないんじゃないですか。特に平沼さんが、場合によっては一緒に散ってしまうかもしれない、そのほかのメンバーだって、本当に解散になった時に、自民党から敵にされて戦えますか、下手をすれば政治生命を失うんですからね」、と申し上げたのですが、亀井さんは「関係ない。明日小泉は辞めるんだ」と、これ一点張りでした。亀井さんはいつもそうなんです。ものすごく強気ではっきりしているんですが、今まで大体読み間違っているんですね。だから、どっちの肩を持つというわけではなく、あの強気が空回りして裏目に出なきゃいいなという思いがありました。

 しかし、自民党惨敗の三点セットが揃っている。亀井さんのように確信を持って、解散なんかできっこないと思うのも、否定できない部分もありました。それを敢えてやってしまったところが、勝負師だと思うんですね。誰もあんなに勝つなんて思っていません。小泉さんだって、あれほどの圧勝とは思っていなかったでしょう。もう、なんだかよくわからない人がどんどん当選するという珍事まで生み、東京ではみすみす社民党に一議席渡すことになったことを見ても、あそこまでの勝利は想像していなかったでしょうが、解散の時点で、「勝てる」という確信を持っていたのは、おそらく総理一人です。間違いなくそう思います。ほかの人はみんな半信半疑、自民党執行部はもう本当にはらはらして解散閣議を迎えたと思います。

 そういう勝負師の勘はどこから来るのか。総理を四年半やっているから、というだけでは説明がつかない。逃げるわけではないんですが、最近はもう「隔世遺伝だろう」と言っているんです。おじいさんの任俠が、孫に今よみがえった。一匹オオカミの時は単なる変人だったけれども、総理という地位と権力とを持ったら、その変人の勝負勘が今のところことごとく当たっている。こんなについている人はいないと評する人が多いんですが、一つの勝負の結果でしょうね。

 イラクヘの自衛隊派遣にしても、北朝鮮への最初の訪問にしても、リスクを賭して決断しているのは、間違いないと思うんです。小泉さんの口癖は、「やってみなきゃわからないんだ」と、何事も勝負しないことには、結果はわからない、というのですから、ついていくほうは、常にもう危なっかしくてしょうがないんですが、小泉さんはそういう勝負師的勘で判断をして、これが吉と出るか凶と出るか、占いが難しいということではないかと思います。

政権の基盤強化と外交
 結論から言うと、やはり選挙は勝たなきゃ駄目だということです。政権が基盤を強化するということは、もろに外交に影響します。竹下登内閣が政治改革の始まりであり、小選挙区制度の始まりでもあるんですが、竹下内閣は八九年に退陣をしています。そして、小泉さんが二〇〇一年に就任するまでの十二年間で、なんと総理大臣十一人です。宇野宗佑さん、羽田孜さんは三ヶ月に満たない。総理大臣が一年半足らずでくるくる変わるということは、いかに外交上の足場を弱くするか。「どうせお宅の政権はまた変わるんじゃないか」と、相手が足元を見て強気で押してくれば、外務省もなかなか押し返せません。どうせまたすぐに総理大臣が変わると思われていたら、外交にならない。

 今度の選挙結果で非常に大きいのは、表向きの批判とは別に、中国も韓国も、そして何より北朝鮮が、ものすごく重く受け止めているということです。おそらく自民党が大勝して、小泉さんが政権基盤を強化したという結果は、非常に誤算であるし、これはあまり突っ張っていくと、日本の国民を敵に回しかねない、もし反日の運動を容認して、煽ったりすると、いつそれが自分の政権に跳ね返ってくるかわからない。そういう危険性を孕んでいるので、今はかなり慎重です。とりわけ北朝鮮は、選挙結果が出たとたんに、日朝の政府間対話に積極的に乗り出してきています。向こう側が非常に関心を持っているのは、二〇〇六年九月に本当に小泉総理が辞めるのかどうかということです。いくら我々が、小泉さんというのは辞める人だと言っても、信じない。中国や韓国の総書記や大統領で、権力のトップに立った者が自らその座を退くということは、ちょっと考えられないんでしょう。しかも選挙で大勝している。ひょっとして、みんなから任期を延長してくれ、さらに総理大臣をやってくれと言われたら、また総理大臣をやるんじゃないか。そうなると、安定した基盤の中で、さらに長期政権になってくる。そういうことを前提に外交をやらなければならない、ということになるんです。

 中国も韓国も、小泉批判と対日批判は徹底的に今、押さえこんでいます。特にネット上の反対の動きは、その三分後にはもう消えているというくらい、徹底して反日の動きを抑制している。靖国問題を中心とする歴史認識問題というのは根が深いので、甘く見るわけにはいきませんし、中国や韓国、北朝鮮の、歴史上の感情に配慮しなければならないというのは、まぎれもない事実だとは思うのですが、今申し上げたように、選挙の結果、非常に対応が変わってきました。

 おそらく総理の靖国参拝は、あと一年近くはないでしょう。来年の春の大祭もおそらくない。元々公約が八月十五日で、遺族会の要請も八月十五日だから、タ力派の麻生太郎外務大臣、安倍官房長官、三人揃って靖国に行くんじゃないかと一部で囁かれていますが、さすがにそれはないと思います。その根拠は、靖国にとっていちばん重要な行事は秋の例大祭で、A級戦犯が合祀されるまでは、昭和天皇も歴代総理も靖国参拝は、秋の例大祭を選ばれていて、秋の例大祭参拝が本来の筋であるということ。A級戦犯分祀問題が最近動き出しまして、山崎拓さんや福田康夫元官房長官が中心となって、無宗教の追悼施設建設の動きが超党派でありますが、このA級戦犯分祀と、国立の追悼施設の建設は、遺族会と靖国神社にとっては、絶対避けなければならないことで、二つともN0です。そういう中で、今年の八月十五日については、遺族会も靖国神社も、八月十五日に参拝して欲しいという要求は取り下げています。それが秋の例大祭を参拝に選ぶ、非常に大きな根拠になりました。来年も八月十五日は避けられて、いよいよもう総理を辞める直前の、秋の例大祭に参られるのではないでしょうか。靖国参拝がしばらくないということは、外交上、大きいですね。日中、日韓との関係は、冒頭に申し上げたように、盧武鉉大統領が来られるか、あるいはクアラルンプールで胡錦濤主席と会談ができるかどうか、そこを見て占わざるを得ないのですが、反日が大きく動くとか、もっとこれ以上悪化して、関係がギクシャクするということは、おそらく当面避けられるのではないかな、という感じで見ております。

小選挙区制度とは
 ここで小選挙区制度の問題について、考えてみたいと思います。

 竹下内閣のリクルート事件を端緒とする政治不信の高まりの中で、自民党に後藤田正晴さんや伊東正義さんを中心に、政治改革本部ができました。これに呼応するように、民間にも学者、マスコミ、経営者、労働組合という四者構成の政治改革臨調が立ち上がり、そのスタートから私は参画しています。当初、マスコミも労働組合も、徹底的に今日の小選挙区制導入には反対でした。反対した理由が二つあります。

 まず、小選挙区制は一党だけが多数の議席を占有して、一大政党の独裁体制が生まれる可能性があるということです。小選挙区制度というのは民意の集約といって、多数決原理を貫徹します。もし三百の小選挙区で一票ずつ自民党が競り勝ったとすると、一票差でも当選は当選ですから、自民党単独で三百議席を独占、野党議席ゼロということになり、全国で何千万という人が投票しても、最後の議席を分けたのは三百票だということになる。これは机上の理屈で、現実にはなかなか起きないことですが、それが小選挙区制だということです。

 かつて鳩山一郎さんが、憲法改正をしたい、賛成票三分の二を得たいからと、小選挙区制を考えたのも、また田中角栄さんが小選挙区制導入に執念を燃やしたのも、自民党を強く大きくしようということだったでしょう。保革伯仲、与野党逆転が続いて、革新自治体がどんどん伸びてくる。自民党側からすれば、自民党が壊れるだけでなく、このままでは日本の戦後政治そのものが没落する。何とかしなきゃならない、という危機意識があったのだと思います。それが、選挙制度改革による、小選挙区制導入の動機だったと思います。鳩山さんにしても、田中さんにしても、大きくて揺るぎない自民党を作りたいという意図があった。それは小選挙区制の持つ一つの特性です。ですから我々も、当然反対をしました。

 しかしながら、小選挙区制のもう一つの大きな特徴として、ほとんどの国で二大政党制が展開されていくわけですね。二大政党になって、いつでも政権交代が可能な政治体制ならば、非常に緊張感が生まれる。政官財の癒着とか、国会対策とか、派閥政治という、談合政治の元は、どうも中選挙区制からきている。元々選挙制度は―つのものがずっと長くなると、政治家も有権者もそこに胡坐をかいてしまうというところがあります。日本の場合、戦後、万年与党と万年野党が定着し、野党にはもう政権をとる意志も能力もなくなってしまった。中選挙区制が日本にはなじんでいるし、国民性から言っても合っているけれど、小選挙区制を導入すれば、おそらく各国で実現したように、二大政党制に進むだろう。日本の政治も国民意識も成熟してきているのではないかと、この制度を導入したんです。ニ大政党の流れは確かに進んできましたが、それでも多数決原理のマジックで、今度の選挙では自民党が圧倒的な議席を得る。これは小選挙区制以外ではありえないという、制度の持つ怖さでもあるんです。

イギリス型選挙―世代による温度差
 刺客騒動、あるいは造反議員の息の根を止めるやり方とか、これは日本の政治風土、国民性に合わないという批判がある一方で、最近は若い政治学者や小選挙区制しか知らない若い政治家が増えてきています。安倍さんも、民主党代表になった前原誠司さんも、細川護熙政権成立の九三年、五五年体制を崩壊させた総選挙が初当選で、その後は全部小選挙区制です。足掛け十二年たって、いよいよ日本の小選挙区制度がイギリス型に近づいたと見ている人も多いんです。

 イギリス型というのは、事実上の総理公選制です。ニ大政党のそれぞれの党首を総理にするための選挙が総選挙で、党営選挙であり、政策中心選挙で、党の執行部が全権を握って、候補者も決めるんですね。

 イギリス型小選挙区制度の根本にあるのは、総理の事実上の公選制である、党営選挙である、政策中心であるということで、党議決定された政策について反対する人は、公認候補にはなれない。これはもう常識です。もしあくまでも反対というのであれば、党を出て行くしかない。ここがまだ、日本では理解が進んでいない。とりわけベテランの方たちで、小選挙区制に変わったことを感じないくらい選挙に強い方は、どうしても「悪いのは小泉。悪いのは武部執行部だ」と、一法案の賛否くらいで除名にしたり、党公認にしないで対抗馬の刺客を送るのは、どういうことだとなる。しかし、これはイギリスでは当たり前のことで、あのサッチャーさんは、若い頃はまさに刺客人生で、確か六回か七回、選挙区を変わって、そのたびに対立候補たちを落としてきている。特にライバルである労働党の、将来党首になり、いずれ総理になるかもしれない候補が出てくると、その選挙区にサッチャーさんを送り込んで、その芽を若いうちに摘んでしまうんですね。そうやって連戦連勝したのがサッチャーさんです。あらゆる選挙区から、今度は我々の選挙区から出てくださいという要請が、サッチャーに殺到するというふうになっていくわけです。

 あくまでも公募制で選挙をやる。一定期間、一定の選挙区で活動させて、レポートも提出させて、選挙民の評価も受けて、公認候補を決める。相手の出方もあるので、選挙区は決めない。何よりも、その選挙区に縁がないということが大事な基準なので、落下傘候補も当たり前です。一部の学者さんが言われるように、なるほど自民党の今度のやり方は、まさにそういうイギリス型であったし、ひょっとすると国民意識も、日本人とは思えないような変化を起こしているのかな、という気もします。なぜ広島六区でホリエモンがあんなに票を取れるのか、なぜあれだけ強い自民党の岩盤の、野田聖子さん人気のある選挙区で、地元に何の縁もない佐藤ゆかりさんがそれなりの票を取れるのか。選挙民のほうが、かなりその辺の理解は進んでいるのかなと思わせます。

 日本の国民性から言って、現時点ではとんとんとイギリス型に行くのは、なかなか難しいように思います。ベテラン議員や、自民党の基盤の強いところが、まだ混乱しています。新聞社の中でも、先輩になるほど怒っています。「何だ、最近の新聞、テレビは。まるで小泉がやっていることが正しいように報道しているが、冗談じゃないぞ。解散のやり方も、刺客の送り方も、処分の仕方も、これでは日本の国そのものが駄目になる。一日も早く小泉には辞めてもらわないといかん」と、憤慨している方はたくさんいます。

 これは世代によってかなり温度差がありまして、八十代の方がいちばん批判が激しい。その次は七十代で、六十代はやや迷っている。毎日新聞に限らず、どの新聞の社説も、郵政民営化賛成に転じた後は、小選挙区制の下で解散するのも、刺客を送るのも、すべて当たり前だという論調でしたが、これを書いたのは五十代です。当たり前とまで書くのは、ちょっと半信半疑で、「いろいろ問題があるけれども、やむをえないだろう」というのが、我々の世代ですが、五十代の連中は各社みな例外なく、「当然」と社説を書く。もしそれをやらなかったら、制度の趣旨が貫徹しないとまで書いている。随分急激に変わってきたんですね。

 現場の記者に至っては、造反した議員を議員として認めない。あれだけ政治生命を賭けて勝負して、読み違えて、負けたら潔く姿を消すのが当たり前、という論理です。一法案の賛否くらいのことで、処分とか、公認しないのはけしからんという議論には全くならない。それは小選挙区しか知らない世代です。時代の変化と、制度がもたらすすさまじい変化が、意識まで変えてくるということだと思います。

有権者の使い勝手のいい選挙制度
 アメリカの下院は、イギリス型とは全く違い、もう地元、地元、地元です。私も日米の経済摩擦の激しい頃にワシントン特派員になりまして、いろんなカルチャーショックに見舞われましたが、その一つがこれでした。日本の電化製品が議員によって叩き壊されたり、シカゴなど自動車の産業地には、日本人は危ないから足を踏み入れるなと注意を受けた頃で、特に激しかったのかもしれません。とにかく下院議員さんは、毎日のように決議案は出すわ、法案は出すわで、いかにして日本を制裁するかということばかりやっている。BSEを巡って決議案や法案を出すのも、彼らにとっては当たり前のことで、それをやれなかったら、彼らは政治生命を絶たれてしまうんです。

 なぜアメリカの下院議員は、臆面もなく、そこまで徹底的に地元利益を代表するかというと、大統領制だということと、優位性をもった上院があるからです。大統領が圧倒的に強くて、議会に対して拒否権を持っている。外交や基本的な内政問題についても、上院が優位性を持っている。二院制をとる以上、チェックアンドバランスで、下院には徹底的に地元利益を代表してもらう。地元代議士、地元大臣という役割を与えているわけです。

 イギリスとアメリカでは、全く違うことをやっている。今回、よく引き合いに出されたカナダでは、政権政党の百五十何議席かが、総選挙でわずか二議席に転落しました。カナダの国民は、政権与党が失政をしたり、スキャンダルに見舞われたら、与党候補者には投票しない。必ず政権交代させて、新政権を見た上で、あらためて判断する。国によって、同じ小選挙区でもやり方がみんな違うんです。結論から言うと、有権者が、いちばん国民性にあった、使い勝手のいい選挙制度にしている。文化の差も出てくると思います。

 小選挙区が日本で根付くのか。そして、根付いた上でイギリス型にいくのか、カナダ型にいくのか。大統領制ではないので、アメリカ下院型にはならないと思いますが、日本の選挙制度がいわゆるターニングポイントに、今差し掛かったのかなという感じで見ております。

 オセロゲーム制度と言われる小選挙区制度の特性は、二大政党を進めると言われる中で、今回民主党がほぞを嚙み、自民党が手ごたえを感じているのは、インターネット選挙です。ネットに参加している層と無党派層とは非常にダブります。今まで自民党に入れたことのない人が、今回は投票所に足を運んで、自民党に投票した。なぜか。小泉さんを応援するためです。とにかく選挙戦中、ネット上で匿名のものすごい数のブログのやり取りがあるなかで、圧倒的に自民党小泉応援のブログが強かった。政党や候補者が名前を名乗ってホームページやブログで選挙運動をやると、これは公職選挙法違反です。公職選挙法は、今のネット社会を想定していないので、次の通常国会ではおそらく大改正をやると思いますが、選挙が変わったんですね。世論調査にしても、学問的には同じ設問でなきゃ世論調査の意味をなさないんですが、今度はあらたに、ブログの世論調査を継続的にやっていく必要があるでしょう。そうでないと、本当の世論の動向とか、選挙の最後の議席が読めなくなった。これが、非常に大きい変化だと思います。

ポスト小泉を予測する
 さて、ポスト小泉について申し述べたいと思うんですが、課題は先ほど申し上げました。エンジン役は竹中さんと中川秀直さん、これが党と政府の両輪で、与謝野さんが調整役を果たす、ということになると思います。そういう中で、私は、現時点で本命は谷垣禎一、対抗馬麻生太郎、ダークホースは難しいんですが、敢えて言えば、安倍晋三さんか、福田康夫さんか。

 なぜ谷垣さんを本命にしたのか。目の前の外交は安定を思わせる兆候がたくさんありますが、米軍再編問題に各自治体が猛反発していますから、説得に失敗する可能性もあります。北朝鮮の拉致問題も抱えています。サマワの自衛隊をいつ撤退させるかという問題もあります。どれもリスクを負っている。ちょっとしたさじ加減やハンドルの間違いによって、政権の致命傷になりかねない。どのテーマも外務大臣の責任が問われやすい。その分を差し引きますと、麻生さんは対抗馬にしておいたほうがいいのかなと思います。

 あの組閣の当日、小泉さんから外務大臣をやってくれと言われた麻生さんが、いみじくも、「総理、私のようなタカ派でいいんですか。官房長官も安倍君となると、この路線でやっていけるんですかね」と、こう言い、それに対して小泉さんは「いいんだ。特にアジア外交は、タカ派のほうがいいんだ」と、中国、韓国、北朝鮮には強気でいくほうがいいという判断を示された。しかし、強気の姿勢が出てくると、どのテーマも国会答弁が非常に難しい。本命と見られても、どこかで足をすくわれるし、国会答弁で野党から追及され、揚げ足を取られる機会も多いのではないか。

 ところが、私が勝手に差をつけても、これはもう前哨戦かなと思うくらい、谷垣バッシングがすごい。

 主なものは二点あります。一つは、政府系金融機関の統廃合です。八つを一つにする。まずは五つを一つにする。ODA関連は切り離す。ものによっては民営化、あるいは統廃合と、新聞紙上をにぎわしていますが、小泉さんは、あくまでも一つにこだわっている。これに対して最も抵抗しているのが財務省です。その財務省の意向を受けて発言している谷垣さんに対して、何が構造改革の旗手だ、何がポスト小泉の有力候補だ、そんなことでは有力候補になれないぞと、竹中さんと中川さんから、どんどんバッシングが始まっています。もう一つ、いちばんのハードルは消費税です。

 私の出ている朝の番組で、谷垣さんが中継で出られて、びっくりするようなことを二つ表明された。一つは、ポスト小泉への意欲。「麻生さんははっきり意欲を示されましたが、谷垣大臣はいかがですか」という問いかけに、「私は性格的に言っても、麻生さんほど歯切れはよくないですけれども、逃げるわけでも、避けるわけでもありません」と、あの谷垣さんとしては相当思い切った言い方をなさった。今までは谷垣さんの上に加藤紘一さんがいたので、加藤さんの気持ちが吹っ切れるまでは、谷垣さんは政権への意欲を口にしたくてもできなかった。加藤さん自ら派閥を離れられて、谷垣派になりましたので、政権への意欲も、彼なりに発言されたのだと思います。

 問題は消費税です。「二〇〇七年の通常国会に法案を提出するつもりです」と言われたので、私は思わず、「そんなこと断言していいんですか」と聞きました。今は財務大臣ですが、その時は総理大臣になっているかもしれないわけです。二〇〇七年は統一地方選挙があります。七月には参議院選挙があります。これも経験則として、増税問題というのは、選挙が相次いである時にはタブーでした。「いくら国民の理解が進んでいるといっても、消費税率アップを掲げて選挙に勝てるという見通しは、誰も立たないと思うんですよ。非常にリスキィですよ」と言いますと、谷垣さんは「避けて通るわけにはいきません。誰かがやらなきゃならない。その責任を私も避けるつもりはありません」と、言われた。

 二〇〇七年の通常国会に提出するとなれば、来年中に決定しなければならない。自民党や政府税調の試算では、一二~一四パーセントと、谷垣さんがこのまま財務大臣で、来年総理になられると、その新内閣最初の決定が、消費税率アップということになります。これは大変なハードルであり、リスキィだと思うんですね。

 中川さんや竹中さんからは、順序が逆だ、増税ありきでスタートしては、どの国でも失敗している。とにかく歳出削減だ、と言われています。野球のラインアップにたとえれば、一番バッターはデフレ克服。次が景気回復。どちらもまだ楽観できる段階にはいっていない。いよいよこれからが大事なところです。デフレを脱却して、景気回復への確かな足取りが始まったという段階になって、次に出てくる三番バッターが、政府資産売却。そして、いよいよ四番バッター登場が、歳出削減で、消費税率アップという増税路線は、五番バッターだ、この順序だけは絶対に間違えては駄目だというのが、「小さな政府」路線の、今の自民党三役と竹中路線です。おそらくこれは、小泉さんがバックアップし、またご自分もそう思っている路線だろうと思います。

 そうしますと、谷垣さんも厳しいですね。麻生さんと同様、来年の通常国会での答弁は、かなり縛りもかかるでしょうし、本音も言わなきゃいけない。与謝野さんは、消費税率アップはないという誤解を国民に与えると、だまし討ちになる。やはり増税路線が不可避だという納得が得られるように、今から一所懸命、機会をとらえて説明を続けていくべきだと、谷垣さんを弁護するかたちになっていて、この辺の温度差と言いますか、路線の違いがあるんです。

 どちらにしても、対抗、本命、お二人ともなかなか大変です。競馬にたとえれば、予算編成までが第一コーナー、ここでどういう政策でやっていくか。外交も打開の糸口がつかめるかですね。第二コーナーが来年の通常国会、予算成立までの国会答弁で、ポスト小泉の総理大臣ということを前提に、その答弁で力量が試されます。この第二コーナーでの言動が、非常に重要になってくると思います。第三コーナーが連休明け。ここでいよいよ、ポスト小泉レースが本格的にスタートします。名乗りを上げるのなら、ここで正式に名乗りを上げて、政権構想を発表する。本格的なレースは来年春の連休明けかなと思っていたのが、もう第一コーナーが始まっているということであろうかなという気がします。

 あの内閣改造直後の恒例の記念撮影。最前列の立ち位置は、わざわざ指示して、間違わないように名前まで書いて、全部総理が決めたんです。両脇の女性閣僚は華やかにという演出だろうと思いますが、その両脇に麻生さん、谷垣さんを置いたんですね。これはもう明らかに党と内閣に対して、本命と対抗はこの二人だよ、この二人に競ってもらうよ、そう思って、この二人を遇してくれという、非常に明確な意思表示だと思います。

 これは教えて頂きたいんですが、右と左とどちらが上なんでしょうか。左大臣・右大臣、右近の桜・左近の橘と言いますし、日本では左が格が上ですが、儒教の国、韓国だと、親父さんから見て右が長男です。わざわざ指示して、間違えないように名前まで書いて、総理の右に麻生さん、左に谷垣さんを立たせたということは、小泉さんはそこまで知っていてやったのかどうか。

 それはとりもなおさず、安倍さんについてはダークホース的存在、あるいは次の次に温存したという見方もできるのではないでしょうか。国民世論の支持率は、ダントツでいちばん高いです。有資格者というのを、世論的、マスコミ的に言えば、圧倒的に、一馬身も二馬身も先行しているのは安倍さんだと思います。世論の支持率が高いのは、タカ派路線です。靖国神社、断固参拝する。次の総理も、次の次の総理も、参拝すべきであるとまで言い切っている。対中姿勢も、石原慎太郎さんほどではないですけれども、相当にはっきりと強硬です。そういう世論の堅い支持は、逆に今、小泉内閣の行き詰っているアジア外交を打開するには、果たしていかがなものかなという声が、党内的には非常に強い。世代交代が進むことに対する警戒心、ジェラシーもあると思いますが、今、非常に安倍さんに対するブレーキがかかっているという現実があります。ここで飛び出して、つぶしてはいけないという配慮があっても、おかしくない。一年たって、世論的にも党内的にも、それなりに実績を積めば別ですが、今はちょっと本命、対抗からははずしているのではないかなということです。

 福田康夫さんは、コースの外に出て、コーナーに入っていない、レースからはずれたのかなという感じが非常に強いんです。ただこれも党内的、マスコミ的にみますと、行き詰って、レームダック化して、一年後に退陣ということを前提に想定すれば、その時は構造改革路線や、タカ派路線の人では無理なので、福田さんが、外枠から突然、第四コーナーに走って出てくるという見方も多いようです。福田さんは、ちょっと斜に構えるところがありますから、あれだけ、構造改革、構造改革、競え、競え、と言われると、なんで俺が一緒に競わなきゃいけないんだ、俺は競わないよという意思表示かもしれません。森さんも小泉さんも、福田さんからすると弟分です。これは独特な福田ファミリーの秩序があるでしょうから、小泉さんもそれなりに、兄貴分的な遇し方を考えるでしょうし、完全にはずれたということではないだろうと思います。

 現時点でお話できる選挙結果、とりわけ選挙制度の問題と、ポスト小泉について、触れさせて頂きました。どうも長いこと、ご静聴ありがとうございました。

(毎日新聞特別編集委員・早稲田大学客員教授・ニー世紀臨調運営委員・慶大・法・昭42)
(本稿は平成17年11月21日午餐会における講演の要旨であります)