会館落成に就ての挨拶
佐野 利器
(専任技術委員)
No.483(昭和3年6月20日発行)号

学士会館落成内見会(昭和3年5月14日)

 学士会は5月14日を期し会館建築に特別功労ある人々並に関係者を招待し会館の竣成内見の会合を催せり。会する朝野の名士百余名に上り盛会を極む。来会者一同は会館建築の宏壮とその設備の完全とを嘆賞しつつ館内を隈なく一巡し、歓喜と談笑の渦館内に満つ。(此の頃既に階下休憩室にては撞球、囲碁等の余興に興ずるものもあり)休憩後5時半に至れば予定の如く二階大集会室の集会に移り、ここに阪谷理事長の開会の辞に次ぎ会館諸般に関する報告演説に移り、終って大食堂に於ける宴会場に入る。席定まるや阪谷理事長立て別項の如き挨拶をなし、君が代を唱え、万歳を三唱す。食後、原法相、小野塚東大総長事務代理及び牧田環氏のテーブルスピーチあり、歓尽きず。時移るに及び、最後に阪谷理事長立って謝辞を述べ閉会の辞を以て盛会裡に散会した。(9時5分)

 来会会員諸君に対しては当日学士会会員章、会館新築記念絵葉書一組、会館案内を贈呈した。

会館落成に就ての挨拶
  専任技術委員 佐野 利器氏

 建築に関する専任技術委員たるの御委託を受けまして此の会館の工事に微力を致しましたことは私の誠に光栄とする所であります。

 ここに技術上に関しまして簡単にご報告を申上げます。敷地は先づ千坪と御承知を願います。建物の建坪は三百六十二坪強、延坪は千六百四十五坪強、高さは地盤から七十六尺であります。構造は鉄骨構造でありまして、壁床等重なる部分は鉄筋混凝土で出来て居ります。どう云う部室が何所に配置されて在ると云うことは、もう実物を御覧下すったことと思いますから略します。建築工事費は建築其のものに於きまして六十九万円です。之を延坪当にしますと云うと一坪四百二十円程になります。既に御覧の通り此の講堂即第二層と此の下即第一層とは天井が著しく高くございますから、工費も従ってちょっと割高になって居ります。それから暖房、換気、電気、瓦斯、排給水、昇降機、家具装飾等一切の設備を入れて二十三万三千円、即建物費の約三割に当たっております。次に外圍庭園下水等に一万五千円、事務費約六万円、支出総計約百万円でありまして、予算の百万円は一文も超過して居りませぬ。其の代りに殆ど一文も余って居りませぬ。丁度ぎりぎであります。

 それから建築工事は先程皆さんから御話のありましたように、我会の会員たる戸田利兵衛君が請負われたのであります。其の他の工事のことをざっと申上げて置きますが、暖房換気は、齋藤省三君、衛生工事は齋藤久孝君、昇降機は日本エレヴェーター会社、電気器具は東京工業社、家具の中一階の部分は寿商会、二階および四階は日本楽器、三階の集会室、図書室、特別集会室等は旭家具会社であります。敷物全部は高島屋、窓掛類全部西村氏であります。戸田君は勿論その他の大部分も会員であり又は店員として会員があります。斯う云うような訳であって、何れも皆犠牲的に工事をやって下すったのであり、理事長が最初に御話になったように、学士会でなければこれ丈の金で是丈けの工事は出来なかったろうとは此邊のことを意味されたものと存じます。

 次にそれから工事関係技術者と致しましては工学士高橋貞太郎君、其の他数名でありますが、外に暖房換気昇降機其の他機械設備一切のことは、矢張り会員たる大蔵省の北浦技師にご尽力を願いました。又、電気的の設備一切は矢張り会員たる大学の大山助教授の御骨折に待ったのであります。此の機会にそれ等の諸氏に御礼を申し上げて置きます。私としては専任技術員という任にはありましたが微力にして甚だ不行届きであったことを恐縮に存じ居ります。

 其の他工事上に付ては警視庁、復興局等色々交渉があったのでありますが、各方面の会員諸君に色々ご尽力に預かりましたことを感謝いたします。私として特に申上げて置きたいことは、着手後に置きましては何分寄付金の申込の高や、現金の這入り高等を伺って居りますので、工事はどんどん進んで来るが、金がどうなるのかと云うようなことを内々少なからず心配して居りましたが、理事長始め実行委員長赤星建築事務長其他御関係の方々は私に何等の心配をも与えずどんどん片端から当事者に御支払下すったことを厚く御礼申上げます。 (拍手)

 

理事長 阪 谷 芳 郎氏

 是で諸般の報告が済みました。一時間ばかりもかかりまして御食事の御妨げをしたようでありますけれども、是は我々責任解除を求める意味に於てどうしても皆さんに聴いて貰わなければならぬのでありまして、是で理事長始め実行委員長の他総ての責任解除を願います。而して此の家は詰りは大学の家でありますけれども即ち諸君の家、我がホームと思召してどうか御家族なり御友人なり自由にご誘引の上で御出御使用を願いたい。又、ホテルは至って安いから泊めて貰いたいと云うお尋ねですが、今晩だけは特権を最も骨を折った委員諸君に与えたいと存じます。但二十九しか部屋はありませぬ、それから来る二十日開館後は先ず以って地方在住の方に宿泊の特権を与え、余りあれば東京在住の方にも御宿泊の便を与へます。

 それから地下室の食堂は随意に御家族や御友人を御誘引何時でも御使用を願います。又、理髪所や「シャワーバス」もあります。屋上園遊会も出来ます。又、今に「ロンテニス」も出来ます。部屋代其の他は御覧の通り余程安い、是は御寄付に依て建物が出来たのでありますから世間普通よりは安い半額以下になって居ります。皆さんの御婚礼とか、学会、送別会に自由に御利用を願います。我々のホームと云うことを御記憶と願います。但し倶楽部としての行儀作法は堅くお守りを願います。(拍手)