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夕食会・午餐会感想レポート

平成29年9月夕食会「がん免疫療法空その効果と可能性」

夕食会・午餐会感想レポート

9月9日夕食会

河上裕教授の「がん免疫療法~その効果と可能性」のご講演を拝聴させて頂きました。河上先生は、元々、内科医で白血病のご研究をされておられましたが、1985年から12年間に渡る米国NIH国立がん研究所(がん免疫研究の世界的権威であるSteven Rosenberg博士)及びカリフォルニア工科大(Leroy Hood博士)でのご研究と1997年に帰国されてからのご研究に関して、最新の知見も含めて、お話されました。IL-2活性化キラーT細胞、ヒトがん抗原の実体、ヒトがん細胞を認識するT細胞受容体(TCR)の遺伝子解析、免疫系からの腫瘍の逃避機構、そして、がん免疫療法の可能性に関するご研究の概括をされました。

ご講演の中心は、新規抗がん剤、抗PD-1抗体のお話でした。本抗体は、免疫チェックポイント阻害剤ですが、PD-1自体は、本庶佑先生(京大教授時代)が同定された物質で、本抗体の臨床試験は、河上先生の同僚により初めて実施されました。抗PD-1抗体のがんに対する奏効率は、悪性黒色腫で28%、肺癌で18%等、多くのがんで一定の効果(10-30%の奏効率)を得ていますが、本抗体医薬は(日本ではオプジーボで発売)、非常に高価で、進行した肺癌患者5万人に投与すると年間約1.75兆円にもなる。従って、河上先生は、本抗体が適用できる患者を選択するためのバイオマーカーの研究を精力的になされておられます。PD-L1分子の発現以外に、腫瘍浸潤T細胞が抗PD-1抗体の奏功には重要であるとの知見から、β-カテニンシグナル亢進、ケモカイン欠失、樹状細胞DC減少等の現象を見いだされ、これらも含めて、バイオマーカーの同定を行っています。免疫チェックポイント阻害治療の今後の課題として、1.使用時期(未治療、アジュバント治療)、2.いつまで続けるのか(無駄な治療をしない)、3.バイオマーカーの研究が重要と指摘されていました。抗PD-1/CTLA4抗体治療では、多彩な自己免疫性副作用(重症筋無力症、糖尿病、心筋炎等)もあり、現時点では予測できないので、早期診断、適切な治療が必須で、そのためには、チーム医療の体制が必須であると強調されておられました。

私は、河上先生と時期を同じくして、1980年代は、分化誘導因子による白血病治療薬やCTLが認識する肝がん関連抗原の研究(現在、国立がん研究センター理事長の中釜斉先生等と共同研究)、90年代は、ヒト型抗体を用いた肺癌治療薬の研究をしてきたので、今回のお話は非常に身近に感じられた次第です。

蛇足ながら、今後の医療、特に地方医療に触れたい。私は、茨城県大子町(高齢化率40%)で慈泉堂病院や老健等を運営している鈴木直文理事長の下で、働いていますが、本病院は、地方都市とはいえ、24時間体制で救急患者の受入体制を整え、鈴木理事長を含む医師群で、地方医療を守っている。本日の先端的医療が、個別化複合免疫療法として、日夜奮闘している医師で守られている地方の医療にも、浸透する時代が早く来ることを切望する次第です。地方の患者の利益のために!

(東大・工 吉成 河法吏)