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夕食会・午餐会感想レポート

平成28年4月夕食会  「混迷の中東・欧州をトルコから読み解く」

夕食会・午餐会感想レポート

4月10日夕食会

中東と聞けば、アッシリアの昔から、民族・宗教を原因とする混沌と騒擾の地域、というのが日本における一般的な認識であろう。今日もシリア内戦を主たる要因として、500万人の難民が生まれ、欧州を目指して移動し、欧州諸国は受け入れを拒み世界的な政治問題となっている。

内藤教授の講演は、この問題についての洞察を種々示されたが、要約すると次のようになると理解する。

シリアアサド独裁政権は、反対勢力を徹底的に弾圧、時には殱滅作戦を強行し、反政府勢力も武力闘争を繰り広げ、国土は荒廃し住民は難民となって国外に逃れざるを得ない。現在のところ、トルコが滞在を許す形で、一手に引き受けている。将来は祖国に送り返す予定。その場には、EUからの資金援助が不可欠である。

トルコは、ロシアとシリア内戦の収束について検討を進めてきたが、アメリカがシリアの空軍基地を爆撃し、当事国が増加して混迷が深まった。さらにイスラエルも関心が高く、クルド問題もあって、各国の利害が錯綜して解決はほとんど不可能である。

一つの案として、シリア国土を二分し、二つの勢力を引き離すということが考えられるが、反政府勢力にも国家運営の能力がない。それぞれの体制においてまた闘争が生ずる恐れがある。出口がないようであるが、内藤教授の、EU諸国の単純な反イスラムでなく、緻密な分析による理解が必要、との示唆は重要である。

内藤教授は、トルコから新疆にいたる、スンナ派トルコ系のベルト地帯ができると予想しているが、トルコのこの問題における比重が増加すれば可能性は高いと思われる。

(東大・経 五十嵐信之)


内藤正典教授はシリア最古・最大で、アサド大統領が卒業したダマスカス大学で学ばれたそうだが、現地に居住されただけあって当地の住民の心情にも通じられているという印象をもった。イスラム教を信じる人は、世界の人口の5分の1であり、キリスト教徒の中のプロテスタント数を上回るといわれている。また欧州のイスラム教徒は3千万人に及び、ロンドン市長はパキスタン移民の子でイスラム教信者である。

これら多くのイスラム教徒の中で、なぜISを始めとした危険な集団が誕生したのか。どう解決したらいいのか。かって我が国にも宗教をベースとした危険集団のテロが発生した様に、こういう集団はどこの国にも発生する可能性のある問題であり実に根が深い。

今、世界に広がるかのような動きを見せているポピュリズム、自国中心主義。この中で日本はどのような態度で臨み、行動したらいいのか。日本はあくまで国連を中心とした国際的連携のもとでの平和的解決法を模索すべきだと思う。アメリカとの同盟は大事にしながらも、世界で唯一の被爆国ということを忘れず、決して産軍複合体の構造を持つアメリカ単独の戦闘に巻き込まれないようにしなければいけない。「やればやりかえされる」を肝に銘じる必要がある。国連の常任理事国でもなく、軍事的超大国でない日本には日本の生きる道がある。数年後にはオリンピックを控え、世界の注目を集める日本には、大規模なテロが起こされる危険性は充分存在する。拉致問題などを抱える我が国であるが決して一時的感情に流されてはならない。北朝鮮、シリアなどは大国のはざまで幾度となく悲劇を繰り返し、ぎりぎりに生きる術を身に付けざるを得なかったという側面もある。だからと言って何してもいいということにはならないが、国際的連携の輪の中に戻る様に地道に対話の努力を続ける以外に道はない。ミサイルにはテロ攻撃のお返しがあるだけだ。ただ一方的人権蹂躙を続ける暴力的政府、集団には時として力の解決も必要な時がある、正に正義の戦いだが、あくまで志を同じくする国際連携を背景に行いたい。

桜の上野公園には、西洋人、中国、韓国、イスラム諸国からと思われる多くの人々が日本の春を心から楽しんでいた。自然を愛し、尊び、宗教に寛容な日本は、これからの人口減少に備え、ますます外国人の受け入れに取り組んでいかなければならなくなる。

内藤先生のお話を聴きながら、日本を世界の平和、理想がかなう国にしていかなければならないという感を一層強くした。

(北大・教育 牛島康明)