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会館と活動の変遷Ⅱ

鉄骨工事(昭和2年4月)鉄骨工事(昭和2年4月)

関東大震災の翌年である1924(大正13)年、焦土となった地に再び仮会館を落成するとともに、震災で中断していた新会館建築資金の募金活動を再開しました。合わせて、建築科出身会員を対象に新会館の設計図の懸賞募集も実施。高橋貞太郎氏の図案が一等賞となり、これに若干修正を加えて建設プランが固まりました。

1926(大正15)年6月に着工した地上4階建て地下1階のこの建物が、現在の学士会館旧館であり、1928(昭和3)年4月末に完成しました。震災の教訓を生かした耐震・耐火の鉄骨鉄筋コンクリート造で、当時の技術の粋を凝らした美術建築が特長です。長年待ち望んでいた会館の竣工に会員が歓喜している様子がこの時期の學士會月報から読み取れます。

落成した学士会館、全景(昭和3年5月撮影)落成した学士会館、全景(昭和3年5月撮影)

総工費は約106万円。学士会は開館翌年に会館建物と付帯設備を東京帝大に寄付しました。募金活動はさらにその翌年まで続けられ、会員をはじめ、多くの企業、団体からの寄付に支えられました。

専用大食堂を含む大小13の集会室に、一般ホテル並みの宿泊室、入浴室、理髪室、撞球室などを備え、とりわけ宿泊室の利用料金はそのころの相場の半額以下に設定していたこともあり、オープン以来、連日多くの会員らが訪れました。

赤羽ゴルフ場仮会場当日のプレイ(昭和6年11月3日)赤羽ゴルフ場仮会場当日のプレイ(昭和6年11月3日)

講演会や学術的な会合の会場としてはもとより、既にあった漢詩、俳句、謡曲などの同好会も、新会館ができたことで活動が本格化しました。このうち東大俳句会として大正期から活動していた俳句の会は、1932(昭和7)年に学士会公認となり、高浜虚子氏の指導の下、毎月句会を開きました。囲碁会、将棋会の組織も充実したほか、学士会ゴルフ倶楽部はこのころに発足しました。

学士会は、北海道帝国大学(創立大正7年)、現在の韓国・ソウルに設置された京城帝国大学(同大正13年)、台湾の台北帝国大学(同昭和3年)、大阪帝国大学(同昭和6年)、名古屋帝国大学(同昭和14年)の卒業者も会員として迎え、会員数は1941(昭和16)年に5万人を突破。この間に会館も大幅に増築し、大きく発展しました。

しかし、昭和16年に太平洋戦争が勃発すると、翌年以降、会館屋上に高射機関銃陣地が設けられ、金属回収令により暖房放熱器やシャンデリアなどの金属を供出。午餐会や同好会などの定例会は次々と中止に追い込まれ、戦争末期の1945(昭和20)年には会館の一部が空襲の被害を受ける一方、館内のいくつかの部屋を日本軍に提供することになりました。そして、終戦後の9月17日、学士会館は米空軍に接収されたのです。

学士会館等返還式(同時に返還された明治生命館屋上にて学士会館等返還式(同時に返還された明治生命館屋上にて

その2年後、国内7つの帝国大学はそれぞれ東京大学、京都大学、東北大学、九州大学、北海道大学、大阪大学、名古屋大学に改称されました。学士会は会館接収の間、旧東京帝大図書館の一部を借りて事務所とした後、1951(昭和26)年に東大構内に学士会館分館(東大に寄付)を建設して拠点とし、在日米国大使らに神田の本館の返還を要請するなどして活動の全面再開に向けた準備を進めました。

1955(昭和30)年4月に學士會月報が復刊すると、翌年7月には学士会館の返還式が行われ、復興工事の後、11月11日、11年ぶりに学士会館本館が再開しました。同年クリスマスに忘年家族会、翌年に新年祝賀会、午餐会と、戦前に行われていた定例行事が次々と復活。会館はにぎわいを取り戻し会の活動は再び軌道に乗りました。

最初の「会報」、686号最初の「会報」、686号

1965(昭和40)年4月からは、新たな集会として、壮年・若手会員層を対象に講演会とセットの夕食会を始めました。初回から回を重ねるごとに参加者は増え、午餐会とともに現在に至る学士会の月例イベントとして定着していきました。また、同年には『学士会月報』を『学士会会報』と改題して季刊とするとともに、表紙装丁を美術史家の柳宗玄氏が担当することになりました。(2004(平成16)年より年6回発行)

国有財産となっていた学士会館本館については1968(昭和43)年6月、運営に差しさわりのある税法上の制約を解消するために、東大に建物と土地の払い下げを願い出て、学士会が所有権を取得しました。

有沢理事長の式辞有沢理事長の式辞

1977(昭和52)年4月には「東京大学創立100年記念式典」が、同大学発祥の地である学士会館本館で、盛大に挙行されました。そして、学士会も1986(昭和61)年7月、創立100周年を迎え、記念式典と祝賀晩餐会を開催しました。

学士会の定期刊行物としては2005(平成17)年3月、会報に加えて、若年層を中心とした世代を主な読者とする「U7」を発刊。全ページカラー印刷で写真を効果的に配し、社会で活躍する著明な7大学卒業者のインタビューや、7大学の最新ニュースを盛り込んだ内容で、大学在学中から学士会に親しんでもらえるように学生向けに各大学にも配布を始めました。2015年(平成27)年には、七大学や関連同窓会の最新情報を掲載する七大学総合情報誌『NU7』として、リニューアルしました。

また、同年には井口洋夫・学士会常務理事(現・理事長)の発案で、物理化学者の井口氏と各界で一時代を築いた90歳以上の先学諸氏との対談を収録した冊子「先学訪問」の発行も開始しました。3年にわたって、化学者の山崎一雄氏をはじめ、天文学者の藤田良雄氏、法学者で学士会前理事長の團藤重光氏らシリーズ10編を刊行しました。

学士会会報は2009(平成21)年7月の通巻877号から44年振りにリニューアルし『學士會会報』へ改題、表紙の装丁を東大総合研究博物館館長・教授の西野嘉章氏が新たに担当。7大学に所蔵されている貴重な学術標本の写真を選んであしらい、巻頭の連載「かたちの力」でそれを解説する現在の体裁になっています。

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